【68番外】 レトロの定義
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
午後の時環遊技場は、いつものようにほどよく賑わっていた。
羽根モノの島では、常連客が玉の動きを眺めながら何やら話し込み、一発台の島ではロボットの常連が、機械の動きをじっと見つめている。少し離れたところでは、アンドロイドの常連が古いCR機の液晶を見ながら、何度目かのため息をついていた。
そんな店内で、ひとりの人間の常連客が、隣の台を眺めながら言った。
「こうして見ると、やっぱりレトロだよなあ」
「レトロ?」
隣で玉を弾いていたアンドロイドが、首を傾けた。
「うん。こういう台って、いかにもレトロって感じするじゃん」
「どのあたりがレトロなのでしょう?」
「え?」
「デザインですか。機械構造ですか。それとも製造された年代ですか」
「……全部?」
アンドロイドは少し考えた。
「では、何年前からレトロなのでしょう」
「何年前って……」
ちょうどその会話を聞いていた別の常連客が、後ろから口を挟んだ。
「十年前くらいじゃない?」
「十年前?」
今度は、近くで遊んでいたロボットが振り返った。
「十年前ノ機械ハ、レトロデスカ?」
「まあ……今から見れば?」
「デハ、十年前ノ人間モ、レトロデスカ?」
「なんで人間まで入ってくるんだよ!」
ロボットのデジタル表示が、一瞬だけ横棒になった。
どうやら納得していないらしい。
「では、二十年前なら?」
アンドロイドが続ける。
「そりゃもう、レトロだろ」
「三十年前は?」
「もっとレトロ」
「五十年前は?」
「かなりレトロ」
「百年前は?」
「……パチンコそのものが違うだろ」
「では、百年前のパチンコはレトロではない?」
「そういう話じゃないって!」
周囲で聞いていた常連客たちが笑い始めた。
すると別のロボットが、何かを思いついたように手を上げた。
「質問ガアリマス」
「はい、どうぞ」
「現在カラ見テ古イモノガ、レトロナラバ、未来カラ見タ場合、現在ノ台モレトロニナリマスカ?」
「……」
今度は誰もすぐに答えられなかった。
「なるほど」
最初のアンドロイドが頷く。
「つまり、未来から見れば、現在の最新機種もレトロになり得るわけですね」
「理論上は」
「なんか嫌だなあ」
「なぜです?」
「だって今は普通に遊んでる台だぞ」
「それは現在だからです」
「……ややこしいな、お前」
そのとき、別の常連客が台の側面に貼られた小さなプレートを見つけた。
「そういえば、この台って何年前のなんだ?」
「さあ?」
「調べてみようか」
アンドロイドが台の製造情報を読み取った。
しばらく沈黙してから、首を傾げる。
「製造年代が確認できました」
「何年前?」
「現在から、およそ千二百年前です」
「…………」
店内の何人かが、同時に台を見た。
「千二百年前?」
「はい」
「それ、レトロっていうのか?」
「先ほどの定義によれば、かなりレトロなのでは?」
「かなりどころじゃないだろ!」
ロボットが台を覗き込む。
「千二百年前ノ機械……」
「そう考えると、すごいな」
「でも、ちゃんと動いてる」
「玉も入るぞ」
「液晶も動く」
「音も出る」
一同は、改めて台を眺めた。
「……すごいな」
「ええ」
「千二百年前かあ」
「そんなに古いものが、まだ普通に遊べるんだな」
そこへ、店の奥から店主がやってきた。
「何やら楽しそうなお話をされていますね」
「店主さん、この台、千二百年前のものなんだって」
店主は台を見た。ほんの一瞬だけ、目を細める。
「知ってるの?」
店主はすぐに笑った。
「こうした古い台については、昔からいろいろ調べてきましたから」
「じゃあ、この台が作られた頃のことも知ってる?」
「ええ。まあ……資料でなら」
そう答えてから、店主は少しだけ間を置いた。
「製造された時代のことや、当時の遊技場の様子については、古い記録にも残っていますからね」
「へえー」
常連客は、それ以上気に留めなかった。
けれど店主は、台の盤面をじっと見つめていた。まるで、その台がそこに置かれるまでの長い時間を知っているような目だった。
「昔の人も、これで遊んでたんですかね」
「そうでしょうね」
店主は微笑んだ。
「そして今、私たちも同じように玉を弾いている」
「千二百年越しで?」
「そういうことになりますね」
「なんかすごいな」
「ええ」
店主は台の縁にそっと手を添えた。
「古いものが残っているだけではなく、今も誰かが遊んでいる。それが一番面白いことなのかもしれません」
「じゃあ、これもレトロ?」
「さて……」
店主は少し考えた。
「古いからレトロ、というわけでもないのではないでしょうか」
「おお」
「では、何がレトロなんですか?」
「難しい質問ですね」
店主は笑った。
「私にも、はっきりとは決められません」
「ええ?」
「ただ、その時代の空気を感じられるもの。昔の人が見ていたものを、今の人も楽しめるもの。そういうものを、皆さんがレトロと呼んでいるのかもしれませんね」
常連客たちは、なんとなく頷いた。
しばらく、妙に納得した空気が流れた。……が。
「じゃあ、最新のホログラム台も、千二百年後にはレトロなんですか?」
ロボットが聞いた。
店主は、少し離れたところでホログラムを煌めかせている最新機種を見た。
「そうなるかもしれませんね」
「店主さんも?」
「……」
店主の動きが止まった。
「そこは、どうでしょうね」
「店主さんがレトロになるの、面白いな」
「やめなさいよ」
別の常連客が笑う。
するとアンドロイドが、真顔で店主を見た。
「店主さんがレトロになった場合、修理は可能でしょうか?」
「私を機械の分類に入れないでください」
店内に笑い声が広がった。
そのとき、羽根モノの島から玉の音が聞こえた。誰かがその音を聞いて、ふっと笑った。
「まあ……こういう音が聞けるなら、レトロでも何でもいいか」
店主も笑った。
「ええ。楽しければ、それでよいのではないでしょうか」
そして、さっきまでレトロについて熱く議論していた常連客は、何事もなかったように台へ向き直った。
「……で、結局この台、何年前のだっけ?」
「約千二百年前です」
「それはもう聞いた」
「申し訳ありません」
「じゃあ打ちながら覚えてくれ」
「了解シマシタ」
ロボットが玉を一発、盤面へ送り込んだ。パチン。店内に、いつもの音が響いた。
それを聞いた店主は、少しだけ嬉しそうに笑った。
レトロかどうかなんて、結局のところ。遊んでいる本人たちが楽しければ、それでいいのかもしれない。少なくとも、この店では。
そして店主は、誰にも気づかれないほど小さく、もう一度だけその台を見た。
その目には、何かを思い出したような光が浮かんでいた。
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