患者No.2冨山沙奈恵
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ヒュウウウウウウウ ドーーーン 暗い闇夜に明るく一輪の美しくも儚い花火が咲いた。 また一発一発とどんどんその儚い命を散らしていく。 見たものの目と脳裏に、その美しい姿を焼き付け闇夜へ散っていく。 そんな儚い姿に魅せられ、また一人、また一人と堕ちていく。 どんなに美しく素晴らしいものでも人はいつかその姿を忘れてしまう。忘れてしまった者たちは、またあの光を見たいと、取り憑かれたようにあの光を追い求める。 この世界では、そんな症状を花火病という。
本文
ヒュウウウウウウウ ドーーーン
暗い闇夜に明るく一輪の美しくも儚い花火が咲いた。 また一発一発とどんどんその儚い命を散らしていく。 見たものの眼と脳裏に、その美しい姿を焼き付け闇夜へ散っていく。 そんな儚い姿に魅せられ、また一人、また一人と堕ちていく。
どんなに美しく素晴らしいものでも人はいつかその姿を忘れてしまう。忘れてしまった者たちは、またあの光を見たいと、取り憑かれたようにあの光を追い求める。
この世界では、そんな症状を花火病という。 これは花火病に堕ちた者の美しく儚くも尊き物語。 どうかこの物語がいつまでもあなたの脳裏に美しい姿として残りますように。
◆私は冨山沙奈恵。どこにでもいるOLよ。
ただひとつふつうのOLと違うところと言ったら、花火病にかかっていることぐらいかしら。私がこの病にかかってからもう5年、ちょっと軽い発作は起きるけども大きな発作も起きずの〜んびり平和に暮らしてるわ。
ただ最近、職場の同僚の片桐さんが花火病で亡くなったのよね。片桐さんは子供の頃に花火病にかかって、その後も軽い発作などで何回か仕事中に倒れたりもしていたけど、最近じゃだいぶ収まってきたって言ってたのに結局亡くなっちゃって。 私が死ぬのもきっとそのうち。ずっと平和で花火なんかに苦しめられない世界になったらいいのに、花火病の患者は次々と死んでいく。でも私はその前に、自分自身がこの世で最高の花火だと思えるきれいな花火を見てこんなめんどくさい病気とっととどっかに追いやりたい気分よ!そうすれば、こんなくだらない病気で死ぬ必要もないしね。
夜の住宅街を歩きながら、適当にインスタで花火を眺めていたところ、急に私の体が重くなった。
「うっ、ぐっ!」
心臓のあたりが痛い、こんなときには花火を見ないことにはどうしようも...。
でも最近は数ヶ月前に見た花火以降に今までで一番美しいと思えるような花火を見れていない。
ともかくこういうときは小さなものでもいいから、花火を見てちょっとでも美しいと思って症状を和らげることが最優先。何回も発作が起きているからこういうことには慣れっこよ!
重たい体を引きずりながら、私はなんとか家の中に入って、ソファに寝っ転がって、スマホで花火を見始めた。こうしていると痛みが和らぐ。
数十分ぐらい経って、ようやく立ち上がって歩けるぐらいには痛みが引いた私は、夜ご飯を食べて、お風呂に入って歯を磨いてそのままベッドに転がり込んだ。
ベッドに入った私はあまり眠れずに天井を眺めながら、仕事のことを考えていた。先日、片桐さんが亡くなったから仕事とかも増えるんでしょうね。 花火を見ないと死ぬなんてバカバカしいって、上司は言うんでしょうね。私の上司は花火病にかかっていない。だから苦しむ私たちの気持ちなんてわかりっこないのよ。
「あ〜あ、あの上司も花火病にかかって私たちの苦しみを味わってみたらいいのに。」
天井を見つめながらそうつぶやいて、私は眠りに落ちた。
「ピピピピピピピピピピピ!ピピピピピピピピピピピピ!」
目覚まし時計が鳴り響く朝の8時。
今日は土曜日、本当なら保都川で花火大会があるはずだったんだけどなくなっちゃったのよね。昨日の夜軽い発作が起きたせいかまだ体が熱を出したときみたいにだるい。今日は1日のんびり過ごしましょうか。
ベッドから立ち上がって、階段を降りてキッチンに行ってコーヒーを飲む。これこそ最高の朝のルーティーンだわ〜。美味しいホットコーヒーを飲んで、昨日の仕事の後片付けを済ませたら、図書館にでも行って花火の写真集でも借りに行きましょうかね。そう思ってさっさと仕事を終わらせて私は図書館へ向かっていった。
図書館について前に借りた本を返して花火の写真集を借りると私は猛ダッシュで家に帰ってソファに座ると写真集を読み始めた。
写真集には息を呑むぐらいの美しい花火がたくさん載っていた。
写真集に載っている全ての花火を一つ5分以上眺め続けていた。ずっとみつめていたはずなのに、次のページへと手を伸ばしたら、もう美しさを忘れてしまう。
「もう一回、あの花火を目に焼き付けなきゃ。」
何回も何回も同じページを読み続け、頭に焼き付けるかのようにずっとみつめていた。
数時間かけてようやく写真集を読み終わった。目がしばしばして、朝に急ぎすぎて朝ごはんを食べていなかったし、お昼ご飯もそもそもコーヒー以降飲み物すら飲んでいない。そのせいか鏡で見た私の顔は少しやつれていた。でも体は朝のような発作が起きたときのようなだるさも疲れも全て吹き飛んでいた。むしろ体が軽い。ただ......
「でも、これだけじゃまだ足りない。これを返したらまたこれらの存在を忘れてしまう。忘れたくない。もっともっと美しい花火なら、忘れない。絶対に。」
そうつぶやいて私はふらふらと夕方の、住宅街へ歩き出した。
「美しい花火を忘れない。目に焼き付けたのに眺めていたのにもう忘れた。美しい花火なら忘れない。もっともっと忘れないような美しい花火を!」
そう叫んで私はもう自分の思い通りにならず、花火だけを追い求めるその体を動かして、保都川の方へ走っていった。
夜の保都川の河川敷では、コオロギたちの鳴き声が聞こえてくる。
だけどもうそんなものどうでもいい。私は忘れない花火が見たい。
河川敷をウロウロしていると、夜空に一発の美しい花火が上がった。
その花火はこの世のものとは思えないぐらい、美しかった。今までの花火を忘れられるぐらい美しかった。
ときも忘れて花火を眺めていると、花火は暗い星空の中に散っていった。
「ああ、ずっとずっと、忘れられないような花火が打ち上がったというのに、また消えてしまう。忘れてしまう!うわああああああああ!」
私はそのまま無我夢中で走り回った。
その後どれだけ花火を見てもあれに勝る花火を見れない。
「嫌!嫌!あれよりも美しい花火じゃないとだめなのよお!」
そのまま私は取り憑かれたかのように町中を走り回った。
その途中で別の地域の花火大会にたどり着いた。最後を締めくくる花火が打ち上がった。この花火は綺麗だ。でも、それでも
「あの花火以上に美しいものじゃない!あれより美しくないと忘れてしまう!」
花火大会の観客が私に声をかけてきた。
「大丈夫ですか?頬がこけて、やつれていますよ。」
「花火を忘れるから.....花火を覚えれば全部良くなるのよ!でもこの花火もだめ、もっといい花火を見ないと、あああ」
そのまま私はその場に倒れるように崩れ落ちかけて、それでも立ち上がると花火を求め続けた。
走り回って朝が来た。とある学園の前にいた私に対して、二人の少女が語し合っている。なんと言ってるのかが聞き取れない。
(花火のことを言ってるんなら教えなさいよ!)
そう叫びたいのに喉が枯れて声が出ない。
二人の少女の会話の中の”花火”という単語だけは鮮明に聞こえてくるのに。どうしてそれ以外のことがはいってこないの!?
「さき、昨日の花火さ..............もう二度と忘れないぐらいきれいな花火だよ........ありがとうね。......のおかげで私花火病が.....もん!」
花火病?私のかかっている病気にこの少女もかかっているの?じゃあなんでこのこはそんなふうに明るくいれるのよ!意味がわからない。
ともかく私は一生忘れない花火を見なくては。そのまま私は走り続けた。
三日三晩走り回って、最後に誰もこないような、花火なんて見えないような路地裏でバタッと倒れた。私の命はそこで終わった。◆
こうして冨山沙奈恵はバッドエンドを迎えた。同じ花火病患者の冨山沙奈恵と三上ルリ。二人の運命を変えたのはくしくも同じ南条さきが作った花火であった。
ではなぜ冨山沙奈恵の花火病は収まらなかったのか。二人は同じ花火を眺めたはずだ。それなのに全く違う運命を辿った。
それは彼女があの花火以上にまだ優れているものがあると思っていたから。三上ルリにとっては親友が作ったこの世でたった一つの親友の思いが詰まった花火。だからこそ南条さきの思いが届き三上ルリの花火病はなくなった。
だが冨山沙奈恵にとってはあの花火はただ美しいだけの花火、自分や他の患者が治るように作られたのではなく、ただ三上ルリのためだけに作られたあの花火を見て、更に美しい花火を求めて彷徨った。ただそれだけのことだ。
彼女の遺体は数日後に発見された。美しさとはかけ離れた姿で。南条さきの作った花火は結果的に三上ルリを生かし、冨山沙奈恵を殺した。
この世界の花火はそれほど凶悪なものだ。それだけ知ってまた花火病の患者たちの物語を読み進めるといい。
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