日常編 ―― L'Ordinaire:【影の結晶と甘き果実の深淵】

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/19 📚 シリーズ: 『 カフェ・ド・レクリプス 』(Café de l'Éclipse) 📝 717文字 ✅ 全年齢

あらすじ

<p> 地下一階の冷徹な工房で、俺が自らの手で直接、泥臭く美しく仕立て上げた「ミルク多め・甘いベリー入り」のショコラ。</p><p> 型から外され、漆黒と深紅 の 妖艶な結晶となったそれをトレイに載せて、俺は2階のお仕事部屋へと恭しく運んできた。</p><p> すべては、俺の緻密な計算(むっつりとした企み)の通り。そのショコラを口に含んだあのお方が、一体どんな表情をして、その可憐な唇をどんな「紅」に染め上げるのか――それを至近距離で拝謁するためだけに仕組んだ、俺のささやかな罠だった。</p>

本文

 地下一階の冷徹な工房で、俺が自らの手で直接、泥臭く美しく仕立て上げた「ミルク多め・甘いベリー入り」のショコラ。

 型から外され、漆黒と深紅 の 妖艶な結晶となったそれをトレイに載せて、俺は2階のお仕事部屋へと恭しく運んできた。

 すべては、俺の緻密な計算(むっつりとした企み)の通り。そのショコラを口に含んだあのお方が、一体どんな表情をして、その可憐な唇をどんな「紅」に染め上げるのか――それを至近距離で拝謁するためだけに仕組んだ、俺のささやかな罠だった。

 部屋の奥、ふかふかなソファのうえで、マシュマロのようにもこもことした白いフード付きパーカーにぽすんとくるまっている、我が最愛の支配者――オーナー様。

 ピーチブラックの透明感ある黒髪。 その厚い前髪は目元を完全に隠し、他人には決してその瞳を窺わせない。

 だが、至近距離に跪く俺の視線だけは、かすかな前髪の隙間から、あのお方の瞳の光をうっすらと捉えることができる。その「俺だけの特権」が、いつも俺の理性を狂わせそうになる。

 パーカーの袖口から白くて小さな指先をのぞかせ、俺が恭しく捧げたベリーのショコラを、そっとその唇へと運ばれる。

 サク、と静寂のなかに微かな、甘美な音が響いた。

 その瞬間、あのお方の白磁のようなお顔が、これ以上ないほど甘く、ポカポカとした嬉しそうな笑みへと、蕩けるように優しく綻んだ。

 あのお方が、俺の仕立てた結晶を、その白くて小さな唇のなかでじっくりと、艶やかにとろけさせて召し上がっていく。

 漆黒のカカオの苦味を、熟れた深紅の果実がとろとろに融かしていくその刹那――。

 これだ。この瞬間のために、俺はあの工房で一人、昏い情念を込めてショコラを練り上げたのだ。

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作者について

みまち

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紅茶、珈琲、レモンが好き。【私がニヤニヤする物を置いております】

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