日常編 ―― L'Ordinaire:【影の結晶と甘き果実の深淵】
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p> 地下一階の冷徹な工房で、俺が自らの手で直接、泥臭く美しく仕立て上げた「ミルク多め・甘いベリー入り」のショコラ。</p><p> 型から外され、漆黒と深紅 の 妖艶な結晶となったそれをトレイに載せて、俺は2階のお仕事部屋へと恭しく運んできた。</p><p> すべては、俺の緻密な計算(むっつりとした企み)の通り。そのショコラを口に含んだあのお方が、一体どんな表情をして、その可憐な唇をどんな「紅」に染め上げるのか――それを至近距離で拝謁するためだけに仕組んだ、俺のささやかな罠だった。</p>
本文
地下一階の冷徹な工房で、俺が自らの手で直接、泥臭く美しく仕立て上げた「ミルク多め・甘いベリー入り」のショコラ。
型から外され、漆黒と深紅 の 妖艶な結晶となったそれをトレイに載せて、俺は2階のお仕事部屋へと恭しく運んできた。
すべては、俺の緻密な計算(むっつりとした企み)の通り。そのショコラを口に含んだあのお方が、一体どんな表情をして、その可憐な唇をどんな「紅」に染め上げるのか――それを至近距離で拝謁するためだけに仕組んだ、俺のささやかな罠だった。
部屋の奥、ふかふかなソファのうえで、マシュマロのようにもこもことした白いフード付きパーカーにぽすんとくるまっている、我が最愛の支配者――オーナー様。
ピーチブラックの透明感ある黒髪。 その厚い前髪は目元を完全に隠し、他人には決してその瞳を窺わせない。
だが、至近距離に跪く俺の視線だけは、かすかな前髪の隙間から、あのお方の瞳の光をうっすらと捉えることができる。その「俺だけの特権」が、いつも俺の理性を狂わせそうになる。
パーカーの袖口から白くて小さな指先をのぞかせ、俺が恭しく捧げたベリーのショコラを、そっとその唇へと運ばれる。
サク、と静寂のなかに微かな、甘美な音が響いた。
その瞬間、あのお方の白磁のようなお顔が、これ以上ないほど甘く、ポカポカとした嬉しそうな笑みへと、蕩けるように優しく綻んだ。
あのお方が、俺の仕立てた結晶を、その白くて小さな唇のなかでじっくりと、艶やかにとろけさせて召し上がっていく。
漆黒のカカオの苦味を、熟れた深紅の果実がとろとろに融かしていくその刹那――。
これだ。この瞬間のために、俺はあの工房で一人、昏い情念を込めてショコラを練り上げたのだ。
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