日常編 ―― L'Ordinaire:【至高の泉と甘い毒 ―― 漆黒の規律(プロ・コード)】
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p> 二階の静寂に満ちた自室。(開かずの大扉の中、書斎)</p><p> オーナーの少女は、自分の身体をすっぽりと覆う大きめのパーカーに身を包み、特徴的な海月ヘアーの長い襟足をゆらゆらと漂わせながら、机の上の魔導書システムを開いていた。</p><p> 机上に浮かび上がったのは、海月の傘を模した、息を呑むほどに精緻な蒼い光の幾何学紋様。<strong>鉄壁の防衛規律――【館内因果投影術式】</strong>の輝きだ。</p>
本文
二階の静寂に満ちた自室。(開かずの大扉の中、書斎)
オーナーの少女は、自分の身体をすっぽりと覆う大きめのパーカーに身を包み、特徴的な海月ヘアーの長い襟足をゆらゆらと漂わせながら、机の上の魔導書システムを開いていた。
机上に浮かび上がったのは、海月の傘を模した、息を呑むほどに精緻な蒼い光の幾何学紋様。鉄壁の防衛規律――【館内因果投影術式】の輝きだ。
何重にも重なる繊細な光の網の目が、部屋の静寂を冷たく、けれどどこか幻想的に照らし出している。
画面の向こうに映し出されているのは、本棟一階の簡素な厨房のさらに奥、地下一階に隠されたアルベリックの真の仕事場だった。
薄暗い石造りの大聖堂を思わせる空間には、複雑に絡み合う真鍮のパイプと、妖しい紫の魔導灯を灯した巨大なショコラ精錬機構がそびえ立っている。
魔導陣の刻まれた計器が静かに圧力を示し、巨大な攪拌(かくはん)槽の中では、極上のチョコレートが鏡のようになめらかな渦を巻いていた。
その圧倒的な機構の中心に、彼はいた。
一点のシワもない純白のシャツを纏い、銀の一粒石の髪留めを鋭く光らせて佇むアルベリック。大理石の作業台の上でカカオを練り上げるその姿は、誰にも懐かない孤高の黒猫であり、完璧なプロの顔(ポーカーフェイス)そのものだった。
「アルベリック、何をしてるかな?」
オーナーは画面を見つめながら、ぽつりと呟いた。
少し悪戯っぽく、けれどどこかツンとした、甘い鈴のような声。
それは『魔導書』の超常の力によって、他の誰の耳にも触れることなく、地下一階の厳かな工房にいるアルベリックの耳元だけに、まっすぐ優しく届けられた。
作品統計
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