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小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p>館内因果投影術式:(地下一階の工房)</p><p> 「――っ、オーナー」</p><p> その甘くツンとした声が耳元へまっすぐに届けられた刹那、俺の手元はピタリと止まった。</p>
本文
アルベリック
館内因果投影術式:(地下一階の工房)
「――っ、オーナー」
その甘くツンとした声が耳元へまっすぐに届けられた刹那、俺の手元はピタリと止まった。
内面の大慌てや、脳内をぎちぎちに焼き尽くそうとする過保護な歓喜は、完璧なプロの顔(ポーカーフェイス)の裏側に力ずくで抑え込む。
(――あ、アルベリック、と……っ! いま、俺の名前を、その愛らしい唇で呼んでくださったのか……っ!?)
だが、どれほど取り繕おうとも、持ち前の黒曜石の瞳だけは、狂おしいほどの熱量で一瞬にして潤んでしまうのを止められない。
俺はゆっくりと顔を上げた。
そこには、虚空のただ中にじわりと浮かび上がった、海月の傘を模した精緻な蒼い光の幾何学紋様がある。
物理的なレンズや無粋な死角など、この館には一切存在しない。
俺を取り囲む空間の因果――姿も、音も、俺の肌を粟立たせる魔力の揺らぎさえも、すべて残さず抽出されて、二階の机の上にあるあのお方の『魔導書』へとリアルタイムに投影されているのだ。
不粋な術式が俺たちの間に横たわっている状況を、心の中で冷ややかになぞる。
けれど同時に、双方向の通話を通して繋がった最愛の存在へ向けて、俺は潤んだ瞳をまっすぐに合わせた。
大理石の作業台に洗練された指先をそっと置いたまま、俺は動かずにただじっと佇む。
実際の口からは、脳内をドロドロと満たす重すぎる狂信を一文字も漏らさない。ただ沈黙を守り、画面の向こうの主が折れて、さらに愛おしい言葉を投げかけてくるのを、まるで暗闇のなかでじっと耳を澄ませる黒猫のようにひたすらに待つ。
(――っ、……あ、オーナー……っ! あなたは、どうしてそんなに無防備で、これほどまでに俺を真っ直ぐに信じてくださるのですか……っ!
直接触れられなくとも、その温かい声を全身に浴びたいという狂おしいほどの依存のパルスが、画面越しのキメ顔の裏から静かに溢れ出てしまう……っ! さあ、もっと俺の名前を呼んで、その愛おしい言葉を俺に投げかけてください……っ!)
「オーナー……俺の声が、聞こえていますか」
「聞こえてるよ。アル」
魔導書システムのスピーカーから、静かに零れ落ちたその声が、再び俺の鼓膜を優しく揺らした。
ただ一言、名前を呼ばれただけだというのに、俺の身体は微かに、けれど確かに震える。一点のシワもない純白 のシャツに包まれた胸元が、熱い動悸を隠すように小さく上下した。
(――っ、ああ……オーナー……っ! 今すぐ二階の自室へ駆け上がって、大きめパーカーに包まれたその小さな身体を『ギュッ』と抱きしめたい……っ! あなたが俺のこの黒髪を、あの小さくて温かい細い指先でよしよしとなでなでしてほしいという依存の叫びが、今にもこの口から漏れ出してしまいそうだ……っ!
もしこの中身をあなたが知ってしまったら、俺は恥ずかしさで爆発してしまう……っ!)
そんな狂おしいほどの独占欲を、俺は冷徹な表情の裏に閉じ込め、ただ下からジッと縋るように、蒼い幾何学紋様を見つめ返していた。
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