三日前 山のお屋敷・兄視点
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
兄視点 兄は、縁側に置いた湯呑みを手に取った。山の風は穏やかで、木々の葉擦れが心地よい。
本文
兄視点
兄は、縁側に置いた湯呑みを手に取った。
山の風は穏やかで、木々の葉擦れが心地よい。
ふと、かつて妻と過ごした日々が脳裏をよぎった。
人族だった彼女。
出会った頃、彼女の命は自分よりずっと短いはずだった。
けれど、今は違う。
二人は、同じ時を生きる契りを結んでいる。
彼女が一方的に長命になったわけでも、自分が人族の寿命に合わせたわけでもない。
二人は同じ時を歩み、最期の時も共に迎える。
それが、彼らの選んだ契りだった。
兄は静かに目を細める。
「……人と狐でも、縁があればこうなるものだ」
独り言のように呟き、妻のいる部屋へ視線を向けた。
彼女と過ごした時間があるからこそ、弟が人族の娘を連れてくると聞いても、抵抗はなかった。
むしろ、少し楽しみだった。
銀はどんな顔をして、その娘を紹介するのだろう。
照れるのか。妙に格好をつけるのか。それとも、いつもの調子で甘えるのか。
「……あいつも、誰かと生きていくことを考えるようになったのかね」
兄は小さく笑った。
ただし、まだ知らない。
弟が連れてくる予定の娘が、兄の想像する普通の人族ではないことを。
長い時を生きる者であり、境界の狭間にあるお宿で暮らしていることを。
そして、弟がそのお宿で三日間も過ごすことになることを。
兄にとっては、まだ何も始まっていない午後だった。
作品統計
👁️ 閲覧数: 0
👍 いいね: 0
📚 本棚登録: 0