六夜「来訪」
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あらすじ
現実世界の裏側に存在する、もう一つの世界――夜界。 そこに暮らす電機怪人たちを巡り、高校生・月見つばさはナイトオウルへと変身する。 夜界の統制を目指す黒羽レイナ、そして夜界そのものを破壊しようとするナイトクロウ・ダーク。 異なる目的を持つ三人の少女が、夜界で交錯していく。 少女たちが出会う、もうひとつの夜。
本文
日曜日の午後。
つばさ達の住む聖桜市の中心街は、休日を楽しむ人々で賑わっていた。
駅前の商店街には買い物客が行き交い、通り沿いのカフェでは友人同士が談笑している。広場では子どもたちが走り回り、街には穏やかな時間が流れていた。
そんな街を、月見つばさと水沢葵は並んで歩いていた。
「それでね、昨日お母さんがまた変なもの買ってきたんだよ」
「また?」
「そう。まただよ。今度は、なんか使い道がよく分からない置物で……」
葵は少し困ったように話しながらも、どこか楽しそうだった。
つばさは相槌を打ち、時折、葵の話に短い感想を返す。
二人がこうして一緒に出かけるのは、珍しいことではない。昔から何度も歩いてきた街で、特別な予定を決めずに寄り道をする。それだけで、葵にとっては十分楽しい時間だった。
「次、あのお店を見ていかない?」
葵が指さしたのは、通り沿いの雑貨屋だった。
「いいよ」
「やった。つばさ、前にあのお店が気になるって言ってたでしょ?」
「……よく覚えてるね」
「そりゃ、覚えてるよ」
葵は当然のように答えた。
つばさは少しだけ視線を逸らした。
葵は、こういうところがある。
何気なく口にしたことを覚えていて、本人が忘れた頃に持ち出してくる。けれど、それを恩着せがましく言うことはない。
つばさにとって、葵と過ごす時間は気を張らずにいられる時間だった。
夜界を巡回しているときは、周囲の変化を見逃さないように注意を払い、電機怪人の気配があれば、その性質や行動を観察する。戦いになれば、相手の動きを見極めながら次の手を考える。
だが、今は違う。
目の前にいるのは、昔から知っている幼なじみだ。
「ねえ、つばさ」
「何?」
「今日、なんか考え事してる?」
つばさは、ほんの少しだけ葵を見た。
「どうして?」
「うーん……なんとなく。いつもより、ちょっとだけ遠くを見てる感じがしたから」
「そうかな」
「そうだよ。違った?」
「……少し考え事をしてただけ」
「そっか」
葵は、それ以上尋ねなかった。
気にならないわけではない。けれど、つばさが話したくないことを無理に聞き出すのは違うと思っていた。
話してくれるときが来たなら、そのときに聞けばいい。
「じゃあ、今日は考え事がお休みになるくらい、いっぱい遊ぼう!」
「そんなに遊ぶの?」
「もちろん!」
葵は楽しそうに笑い、つばさの手を軽く引いた。
つばさは抵抗せず、その後を歩いていった。
平穏な日曜日。
少なくとも、そのときの二人には、この街の日常が突然変わってしまうとは思えなかった。
*
一方、街の別の場所では、鴉城カナデと久遠ミナトが並んで歩いていた。
「ミナト、今日はどこに行くの?」
「まだ決めてないよ。カナデが行きたいところがあれば、そこでもいいけど」
「私も特にない」
「じゃあ、適当に歩こう」
ミナトは気負いのない調子で答えた。
カナデは、人通りの多い道を見渡した。
楽しそうに話す人々。買い物袋を提げた家族。友人同士で写真を撮っている学生たち。
何も変わらない、いつもの街。
「……平和だね」
カナデがぽつりと言った。
「そうだね」
ミナトは短く返した。
「ずっと、このままだといいけど」
「何か、気になること?」
「別に、無いよ。」
カナデは視線を前へ戻した。
その答えを聞いても、ミナトは追及しなかった。
しばらく歩いていると、通りの向こうから子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
カナデは、その声に一瞬だけ目を向けた。
当たり前に続いていく日常。
それが、何の前触れもなく壊されることがある。
カナデは、その可能性をまだ現実のものとして考えてはいなかった。
*
日曜日の街は、普段と変わらない賑わいに包まれていた。
つばさと葵が並んで歩いていた、そのときだった。
何の前触れもなく、二人の少し先にある空間が唐突に歪んだ。
「……え?」
葵が声を漏らした瞬間、歪みの中心から巨大な影が弾き出された。
白と灰色の装甲に覆われた、長い胴体。節ごとに連なる機械的な外殻。その隙間から覗く黒い内部構造が、赤い光を明滅させている。
竜を思わせる頭部が、空気を切り裂くようにして現れる。
怪人は、まるで見えない何かに突き飛ばされたかのような勢いで地上へ飛び出し、そのまま道路に激突した。
轟音。
舗装された路面が砕け、破片が周囲に飛び散る。長い胴体が地面を滑り、駐車中の車を押しのけながら街路樹をなぎ倒した。
悲鳴が上がる。
通りを歩いていた人々が、一斉に逃げ出した。
「きゃっ……!」
葵が反射的につばさの腕をつかむ。
つばさは怪人を見据えたまま、わずかに目を細めた。
つい先ほどまで、そこには何もなかった。
煙の中で、怪人の装甲が不規則に動く。赤い光が点滅し、機械が軋むような低い音が響いた。
怪人は頭を持ち上げると、周囲を見回すように動かした。
ただ、見知らぬ場所に突然放り出され、何が起きたのかも分からない。そんな不安定さが、その巨体の挙動から伝わってきた。
次の瞬間、怪人の頭部が大きく揺れた。
長く、蛇のようにうねる胴体。脚はなく、身体の各所から鋭い板状の突起が突き出している。装甲の隙間からは黒い内部構造が覗き、ところどころに赤い光が明滅していた。
頭部は異様に大きく、機械仕掛けの竜を思わせる。
「まずい……!」
つばさが声を上げる。
怪人は進行方向にいた人々に気づいていないのか、あるいは人間という存在を認識できていないのか、そのまま勢いよく前進を始めた。
長い胴体が道路を押し潰し、建物の外壁を削り取っていく。
「つばさ、逃げないと!」
「うん。葵、こっち!」
つばさは葵の手を引き、怪人の進路から離れるように走り出した。
背後で、再び轟音が響く。
街を揺るがす巨大な異形。
それは、何もない空間から突然現れ、この世界のことなど知りもしないかのように、街を突き進んでいた。
つばさは走りながら、一度だけ怪人を振り返った。
――夜界の怪人。
なぜ、ここに現れたのか。
その答えはまだ分からない。
だが、放っておけば被害は広がる。
「葵、こっち!」
怪人の姿を目にしたつばさは、すぐに葵の腕を引いた。
「えっ、何、あれ……!?」
葵の声が震える。
巨大な怪人が道路を削りながら進み、周囲の建物を巻き込んでいく。遠くにいるはずなのに、地面から伝わる振動が足元まで届いていた。
「つばさ、あれって……」
「今は離れよう」
つばさは周囲を見回した。
逃げ遅れた人はいないか。怪人の進行方向に人が残っていないか。避難に使えそうな場所はどこか。
短い時間で状況を把握する。
怪人は人間を狙っているようには見えない。進路を妨げるものにぶつかりながら、ただ前へ進んでいる。
だが、だからといって放置できるわけではなかった。
このまま進めば、被害は広がる。
「葵、あそこの建物の中に入って。できるだけ奥へ」
「つばさは?」
「私は……ここにいると危ないから。葵が避難するのを見届けたら、私も離れる」
「本当に?」
「うん。だから、先に行って」
葵はつばさの顔を見た。
その表情は、普段とほとんど変わらなかった。
けれど、葵は不安を拭えなかった。
「……絶対に無理しないでね」
「分かってる」
つばさは静かに答えた。
葵は何度か振り返りながら、安全な場所へ向かった。
その姿が人混みに紛れたのを確認すると、つばさは別の路地へと入った。
人目がないことを確かめ、オウルブレスに手を添える。
迷いはなかった。
今は、あの怪人を止めることが先だ。
「ナイト・オン!」
白い光がつばさを包み込む。
機械装甲が全身を覆い、翼が広がる。赤い瞳が暗がりの中で輝いた。
白い戦士――ナイトオウルが、路地から飛び出した。
怪人は、ちょうど再び突進を始めようとしていた。
ナイトオウルは正面に立ち、剣を構える。
怪人が頭を低くした。
次の瞬間、猛烈な勢いで突進してくる。
ナイトオウルは横へ跳び、間一髪で攻撃をかわした。
怪人の巨体が背後の道路へ激突する。
舗装が砕け、破片が飛び散った。
ナイトオウルは着地と同時に体勢を立て直し、剣を構え直した。
怪人が身体を反転させる。
長い胴体が道路を横切り、周囲の構造物を巻き込みながら向きを変えた。
ナイトオウルは剣を振るった。
刃が装甲の一部を捉え、火花が散る。
だが、怪人は止まらなかった。
身体をくねらせ、再び突進してくる。
ナイトオウルは飛び退いた。
怪人の頭部が、先ほどまで立っていた場所を通り過ぎる。
速い。
そして、長い。
単純に正面から攻撃を仕掛けても、相手の勢いを止めることは難しい。
ナイトオウルは距離を取りながら、怪人の動きを観察した。
赤い光が明滅するたびに、怪人の頭部がわずかに持ち上がる。
突進の前には、必ず身体を反らす動作がある。
方向を変える際には、長い胴体を大きく振り回している。
ナイトオウルは剣を握り直した。
次の突進が来る。
怪人が身体を反らし、勢いよく前へ飛び出した。
ナイトオウルは、正面から受け止めようとはしなかった。
突進の直前に横へ移動し、怪人の頭部をぎりぎりでかわす。
そのまま長い胴体の側面へ回り込んだ。
剣が装甲の隙間を捉える。
火花が散り、怪人の身体が大きく震えた。
だが、攻撃は決定打にはならない。
怪人は苦しむように身体をよじり、長い尾を振り回した。
ナイトオウルは翼を広げ、後方へ跳び退く。
尾が道路を叩き、激しい音が響いた。
怪人は再び向きを変えようとする。
その動きは大きく、方向転換の最中には、身体の一部が一瞬だけ無防備になる。
ナイトオウルは、その瞬間を見逃さなかった。
*
建物の陰に避難していた葵は、遠くで続く戦闘音を聞いていた。
怪人が動くたびに、地面が震える。
白い戦士が怪人の突進をかわすたび、金属がぶつかるような音が街に響いた。
「……あれ、何なの……?」
葵は、怪人の姿を見つめた。
あんなものが本当に存在するなんて、思ってもいなかった。
何が起きているのかも分からない。どうしてあんな怪人が街に現れたのかも分からない。
ただ、怖かった。
怪人が身体をくねらせるたび、道路や建物が壊れていく。
白い戦士が立ち向かっているものの、怪人の勢いは衰えていない。
葵は、つばさのことを思い出した。
自分を避難させたあと、つばさはどこへ行ったのだろう。
無事なのだろうか。
何かに巻き込まれていないだろうか。
心配だった。
つばさは、何かを決めると、自分のことを後回しにしてしまうところがある。
誰かが困っていれば手を貸す。必要なときには、迷わず前へ出る。
そういうところを頼もしく思う一方で、どうして自分のことも少しは考えてくれないのだろう、と感じることもあった。
今だってそうだ。
つばさの姿が見えないだけで、こんなにも落ち着かない。
葵が考え込んでいたとき、近くから子どもの泣き声が聞こえた。
「ママ……!」
振り向くと、道路脇で小さな子どもが転んでいた。
少し離れたところに母親らしき女性がいるが、怪人の動きに気を取られ、すぐには戻れずにいる。
逃げようとする人々が、その周囲を通り過ぎていった。
怪人が大きく身体をくねらせる。
長い胴体が道路を横切り、その進路が子どものいる場所へ近づいていた。
「危ない!」
葵は声を上げた。
怖かった。
あんなものがすぐ近くにいる。自分が近づけば、何が起こるか分からない。
足がすくみそうになる。
それでも、子どもはまだ立ち上がれていなかった。
葵は一度、怪人の位置を確かめた。
今なら、まだ間に合う。
「大丈夫? 立てる?」
葵は駆け寄り、子どもの手を取った。
子どもは怯えた顔で首を横に振った。
「怖い……!」
「うん。怖いよね」
葵自身も、声が震えていた。
無理に平気なふりをすることはできなかった。
それでも、子どもを安心させるように、できるだけ落ち着いた声で続ける。
「でも、ここにいたら危ないから。一緒に行こう」
子どもの身体を支え、ゆっくりと立ち上がらせる。
怪人の動く音が近づいた。
葵は一瞬だけ振り返り、すぐに子どもの手を引いた。
「こっち!」
二人が道路脇へ移動した直後、怪人の長い胴体が、さっきまで子どもがいた場所を通り過ぎた。
轟音が響く。
葵は思わず目を閉じた。
それでも、子どもの手は離さなかった。
やがて母親が駆け寄ってきた。
「この子を……! ありがとうございます!」
「いえ……! 早く、あっちへ逃げてください」
葵は二人を、怪人の進路から離れた場所へ誘導した。
母親は何度も頭を下げながら、子どもを抱きしめて避難していった。
二人の姿が見えなくなってから、葵はようやく息を吐いた。
「……怖かった」
小さくつぶやく。
足はまだ少し震えていた。
自分は特別な人間ではない。
さっきだって、もう少し判断が遅れていたら、どうなっていたか分からない。
それでも、あの子を助けることはできた。
葵は、自分の手を見つめた。
何か大きなことができたわけではない。
ただ、目の前で困っている人を見過ごせなかった。
それだけだった。
葵は顔を上げ、周囲を見回した。
まだ逃げ遅れている人はいないか。怪人の進路に誰かが残っていないか。
怖さは消えない。
それでも、今の自分にできることはある。
葵は怪人と戦う白い戦士の姿が目に入った。
戦士は怪人の突進をかわし、その長い胴体の動きに合わせて攻撃を仕掛けている。
葵は、その姿を見つめた。
あの戦士が何者なのか、何を考えているのかは分からない。
それでも、ただ闇雲に戦っているわけではないのだと感じた。
怪人が再び突進する。
白い戦士が跳び退き、剣を構え直す。
葵は、祈るように両手を握った。
「……気をつけて」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
ただ、あの戦いが一刻も早く終わってほしかった。
*
カナデとミナトも、怪人が現れた場所から少し離れた通りにいた。
最初に聞こえた轟音に、二人は足を止めていた。
「……何の音?」
カナデが振り返る。
次の瞬間、通りの向こうで人々が一斉に走り出した。
「逃げろ!」
「怪物がいる!」
悲鳴が近づいてくる。
ミナトは人々の流れを見て、カナデの袖を軽く引いた。
「こっちに行こう」
二人は人の流れを避けながら、通りの端へ移動した。
そして、建物の間から、巨大な怪人の姿が見えた。
白と灰色の装甲。長く伸びた身体。黒い内部構造。赤い光。
その姿は、カナデの知るどんな生物とも違っていた。
「……あれは何?」
カナデが尋ねる。
「今よりもはるか昔、この世界からもう一つの世界が生まれたの。」
ミナトは怪人を見つめたまま答えた。
「別の世界……?」
「そ、そしてそこにはにはこの世界とは別の生命体、別の文明が存在する」
「その生命体があれ…ってこと?」
「そう、目の前にいるものがその証拠だよ」
カナデは怪人へ視線を戻した。
「……どうして、こっちの世界に?」
「それは分からない。」
ミナトは迷わず答えた。
「向こうにいた存在のはず。でも、どうしてこっちに現れたのかは知らない。」
「また現れる可能性もある、ということ?」
「否定はできないね。」
カナデの表情がわずかに険しくなる。
「……じゃあ、危険な存在なの?」
「今この状況が危険なのは確かだよ。でも、向こうにいるものが全部そうとは限らない」
「だからって放っておけっていうの?」
カナデは声を少し荒げて言った。
「被害が出てる以上、何とかしなきゃいけない。それはそうだよ」
ミナトは、カナデの方へ視線を向けた。
「でも、原因も分からないまま、向こうの世界そのものをなくせば解決するのか。それは、まだ分からないよね」
カナデは答えなかった。
視線の先では、白い戦士が怪人の突進をかろうじてかわしている。
「……あの怪物と戦っているのは?」
「もう一つの世界を守るために戦う、誰かにとっての戦士。そして、誰かにとっての侵略者」
「……侵略者」
「その正義が、誰から見ても正義とは限らないからね。」
ミナトはそれ以上説明しなかった。
カナデは白い戦士を見つめ続ける。
「……あれを止められなかったら、どうなるの。」
「当然、被害はもっと広がるだろうね。」
「なら、止めなきゃ。」
ミナトは一拍置いてから尋ねた。
「もし、カナデにあの怪人と戦える力があったら、どうする?」
カナデはすぐには答えなかった。
目の前の脅威を止めるための力。
それは、今ここにいる人々を守るためだけのものではない。もし同じことが繰り返されるのなら、その原因となる世界そのものに向き合うためにも必要になるかもしれない。
「……私は……」
カナデの言葉はそこで途切れた。
ミナトは、それ以上答えを求めなかった。
彼女は口元を緩めながら、手に暗い青色の光がかすかに灯った黒い機械装置を握っていた。
*
ナイトオウルは怪人の攻撃をかわしながら、動きの特徴を探っていた。
頭部を持ち上げてから突進する。
長い胴体は勢いがつくと強力だが、方向転換には時間がかかる。
そして、体を大きくひねったとき、装甲の継ぎ目が一瞬だけ開く。
「そこが弱点……?」
ナイトオウルは怪人の動きを見極め、攻撃の機会をうかがった。
怪人が頭部を持ち上げる。
ナイトオウルは正面から向き合い、突進の瞬間に横へ飛び退いた。
怪人の長い胴体が通り過ぎる。
その側面へ回り込むと、ナイトオウルは装甲の隙間へ剣を振り下ろした。
火花が散る。
怪人が苦しげな電子音を発し、体を大きくよじった。
ナイトオウルは反撃を受ける前に距離を取る。
「今のは効いた……でも、まだ足りない」
装甲の一部には傷がついている。
しかし、怪人の動きは止まっていなかった。
怪人は頭を振り上げ、ナイトオウルを探すように赤い光を明滅させた。
そして、再び突進する。
ナイトオウルは翼を広げて跳び上がり、攻撃を回避した。
だが、空中へ逃れたところで、怪人の長い胴体が大きくうねった。
その動きに巻き込まれ、ナイトオウルは体勢を崩す。
「くっ……!」
地面へ着地したナイトオウルは、機械剣を構え直した。
怪人は強い。
攻撃の癖は分かってきたものの、装甲は硬く、反撃を加えても決定的な損傷を与えられない。
一方で、戦いが長引けば周囲への被害も広がっていく。
ナイトオウルは周囲を見渡した。
避難は進んでいる。
しかし、怪人が再び突進すれば、まだ逃げ切れていない人々が危険にさらされる可能性がある。
「ここで、止めないと……!」
ナイトオウルは怪人の正面へと踏み込んだ。
怪人が頭部を持ち上げる。
今までと同じ動作。
ナイトオウルはその瞬間を狙い、攻撃をかわして側面へ回り込もうとした。
だが、怪人の動きは予想よりも速かった。
長い胴体が急激にうねり、ナイトオウルの進路を塞ぐ。
「しまっ……!」
装甲に衝撃が走る。
ナイトオウルは道路へ叩きつけられ、数メートルにわたって滑った。
「……っ!」
すぐに立ち上がろうとするが、怪人はすでに次の攻撃へ移っていた。
赤い光が強く明滅する。
『ギギギギギィィィッ!』
怪人の巨体が、再びナイトオウルへ迫る。
ナイトオウルは剣を構え、真正面から迎え撃つ姿勢を取った。
しかし、今のままでは押し切られる。
攻撃の癖を理解しても、決定打がない。
このまま戦い続ければ、いつか自分が動けなくなる。
それでも、退くわけにはいかなかった。
怪人の突進が迫る。
ナイトオウルはタイミングを見極め、直前で横へ飛び退いた。
怪人の頭部が通り過ぎる。
その瞬間を狙って斬りかかるが、刃は装甲に弾かれた。
「まだ……!」
ナイトオウルは体勢を立て直そうとした。
だが、怪人は止まらない。
長い胴体を大きくうねらせ、今度は進路を変えてナイトオウルへ迫った。
回避が間に合わない。
そのときだった。
黒い影が、怪人の側面へ飛び込んだ。
轟音。
怪人の巨体が大きく揺れ、突進の勢いが止まる。
ナイトオウルは目を見開いた。
そこに立っていたのは、黒い装甲に身を包んだ戦士だった。
全身を覆う漆黒の機械装甲。青く輝く両眼。背中には、烏の翼を思わせる黒い機械翼が広がっている。
白い戦士とは対照的な、黒い姿。
その戦士は怪人を見据え、構えを取った。
怪人が電子音を響かせながら頭部を持ち上げる。
黒い戦士は一歩も退かなかった。
怪人が突進する。
黒い戦士は紙一重で攻撃をかわし、すれ違いざまに強烈な一撃を叩き込んだ。
火花が散る。
怪人の巨体が横へ弾かれ、道路を削りながら滑っていった。
ナイトオウルは、突然現れた黒い戦士を見つめていた。
味方なのか。
それとも、新たな敵なのか。
黒い戦士はナイトオウルへ視線を向けることもなく、怪人だけを見据えていた。
その姿には、迷いがなかった。