第4話 『おじさん』はひどくないか?
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あらすじ
町工場の修理工・カイトは異世界に召喚されるも、ハズレスキル【リサイクル】を理由に「廃棄の谷」へ追放されてしまう。 だが、その真価はガラクタを神話級へと創り変える【超・資源再生(アップサイクル)】だった! 折れた剣は不壊の魔剣に、毒の霧は無限のエネルギーに、捨てられた機械人形は絶世の美少女(最強)へと大変身! 拾い人の少女や龍人族、没落令嬢らと共に、温泉付きの快適な要塞都市を築き上げていく。 一方、使い捨て社会のツケで破滅寸前の王国が「戻ってきて国を建て直してくれ!」と泣きついてくるが―― 「断る。俺の居場所は、あの最高のゴミ捨て場だ」 ガラクタだらけのどん底から始まる、痛快な領地開拓ファンタジー!
本文
「危ないっ! 見た目が綺麗になったって、所詮は谷のガラクタだよ! 受け止めきれないっ!」
背後から、少女の悲痛な叫び声が響く。
無理もない。
この世界の住人にとって、一度捨てられたものは『価値のないゴミ』であり、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
だが――。
「ガラクタかどうかは、使ってみなきゃ分からないさ!」
俺は息を深く吸い込み、右手に握った銀色の魔導棍を、正面から飛びかかってきた先頭のスクラップ・ハウンドへと真っ直ぐに突き出した。
「ギャオオオオッ!」
鋭利な鉄板の爪が、空気を引き裂いて振り下ろされる。
爪と魔導棍が真っ向から交差した瞬間――。
「キィィィィィンッ!」
耳をつんざくような甲高い金属音が、谷底に響き渡った。
砕け散ったのは、魔導棍ではなかった。
魔獣の分厚い鉄の爪が、まるで脆い陶器のように粉々に弾け飛んだのだ。
「グルアッ!?」
魔獣の濁った赤い瞳が、信じられないものを見るように見開かれる。
だが、衝撃はそれだけでは終わらない。
「バチチチチッ! ドガアアアアンッ!」
芯として通した超伝導ワイヤーが、俺の身体の奥から溢れ出る魔力を一瞬で増幅し、圧縮された高圧の雷撃を解き放った。
魔導棍の先端から放たれた青白い稲妻が、魔獣の胴体を内側から焼き貫く。
ドロドロとした黒い汚染魔力が一瞬で蒸発し、骨組みとなっていた錆びた鉄骨がボロボロと崩れ落ちた。
ドンッ、とただの金属片の塊となって地面に転がる魔獣。
たった一撃。
生身の人間を八つ裂きにするはずの魔物が、ものの数秒で完全に沈黙した。
「う、うそ……一撃で……!?」
背後から、少女の呆然とした呟きが聞こえる。
だが、驚いている暇はない。
左右から同時に跳躍した残り2匹の魔獣が、すでに俺の頭上へと迫っていた。
(焦るな。状況をしっかり観察しろ)
視界の隅で、【超・資源再生】の解析機能がフル回転する。
魔獣たちの身体を繋ぎ止めている黒い魔力の流れ、粗悪な鉄板同士が組み合わさっている『継ぎ目』、そして核となる魔力結節点――そのすべてが、赤い光のマーカーとなって浮き彫りになっていく。
(右のやつは、首元の接合が甘い。左のやつは、胸の装甲の裏に魔力の通り道がある!)
右から迫る鋭い爪を、上半身をわずかに捻ってかわす。
爪先が作業着の布地をかすめるほどの紙一重。
すれ違いざま、俺は魔導棍を鋭く突き出した。
「【点穴解体】――!」
「ガンッ!」
魔導棍の硬質な先端が、右側の魔獣の首元の継ぎ目へと正確無比に突き刺さる。
瞬間、内部に仕込まれた雷撃が炸裂した。
無理やり繋ぎ合わされていたパーツがバラバラに弾け飛び、魔獣は首から上を吹き飛ばされて地面へと激突した。
残るは左の1匹。
仲間の無残な姿を見た魔獣は、空中で体勢を崩しながらも、最後の悪あがきとばかりに口から汚染魔力の塊を吐き出そうとした。
だが、その動作はあまりに遅すぎた。
俺は軸足を深く踏み込み、腰を鋭く回転させる。
遠心力を最大限に乗せた魔導棍が、空気を裂いて唸りを上げた。
「これでおしまいだ!」
「ドゴォォォォンッ!!」
フルスイングされた魔導棍が、魔獣の胸部装甲を真正面から粉砕した。
ほとばしる雷光が、薄暗い谷底を白銀色に染め上げる。
核を貫かれた魔獣は、悲鳴を上げる間もなく光の粒子となって霧散し、後には浄化された純粋な鉄くずだけがパラパラと地面に落ちた。
静寂が戻ってきた。
周囲には、完全に活動を停止したガラクタの山があるだけだった。
「ふう……。なんとか、間に合ったか」
俺は息を整えながら、手元の魔導棍を見下ろした。
あれだけ激しく打ち合い、雷を放ったというのに、銀色の棒身には傷一つ付いていない。
それどころか、魔獣の汚染魔力を吸収して浄化・変換したのか、最初に作った時よりも手にしっくりとなじむ感覚があった。
「お、おじさん……誰……?」
震える声に振り返ると、少女が目をこれ以上ないほど見開いて、俺を凝視していた。
その顔には、底知れない驚きと混乱が浮かんでいる。
「……あのな、助けて開口一番に『おじさん』はひどくないか? 俺はまだ25歳だぞ。立派な青年だ。せめて『お兄さん』と呼んでくれ」
「ええっ!? に、25歳!? うっそだぁ! その落ち着き払った雰囲気と、作業着の着こなし感、どう見ても人生経験豊富なおじさんのそれだよ!」
「失礼なやつだな! これは職人の誇りある正装だ! 落ち着いてるのは仕事柄だ!」
「だって、14歳の私から見たら、25歳なんて立派なおじさん枠だよ! 10歳以上も上なんだから!」
「枠に入れるな! まだ4半世紀しか生きてないんだよ。頼むからお兄さんと呼んでくれ、地味に心が削れる」
「うーん……じゃあ、百歩譲って『お兄ちゃん』ね! その方が親しみやすいし、命の恩人だし!」
「……お兄さんじゃなくてお兄ちゃんかよ。まあ、『おじさん』よりは100倍マシか……」
俺が肩をすくめると、少女は我に返ったように激しく首を横に振った。
「って、そんなこと言ってる場合じゃないよ! お兄ちゃん、今の何!? スクラップ・ハウンドって、普通の冒険者パーティーが三人以上で挑むような魔獣なんだよ!? それを一人で、しかもさっき拾ったばかりの鉄パイプで粉砕するなんて、あり得ないよ!」
「何者って言われてもな。ただの修理工だよ」
俺は魔導棍を軽く振って埃を払い、少女の元へと歩み寄った。
「それより、足を見せてみろ。さっきから痛そうだっただろ」
「えっ……あ、うん……」
少女が小さく頷く。
彼女の右足は、ひしゃげた二枚の頑丈な装甲板の間にガッチリと挟まっていた。
引っ張れば抜けそうにも見えるが、無理に動かせば足首の骨を折るか、鋭利な鉄板の縁で肉を深く切り裂いてしまう。
「これ、王国の重装歩兵が使ってた魔導装甲板の残骸なんだ……。すごく硬くて、私の力じゃビクともしなくて……」
少女が悔しそうに唇を噛む。
「無理に引っ張るなよ。今、外してやるからな」
「で、でも、これだけの厚みの装甲板を広げるには、特別な道具か怪力魔法がないと――」
「道具がないなら、作ればいい」
俺は少女の前にしゃがみ込み、足を挟んでいる装甲板に両手を添えた。
「【解析(スキャン)】――【分解(ディスアセンブル)】」
手のひらからエメラルドグリーンの光が溢れ出し、冷たく硬い装甲板を包み込む。
金属の構造が頭の中に立体映像として浮かび上がり、応力が集中している箇所が色分けされて見えた。
(内側の引っ張りを緩めて、金属を一時的に柔らかくする……)
俺が魔力を送り込むと、あれほど頑丈だった装甲板が、まるで温められた飴細工のようにぐにゃりと軟化した。
力を入れることもなく、俺が手で軽く押し広げると、装甲板は滑らかな曲線を描いて左右に開き、少女の足を完全に解放した。
「ひゃっ……!? あ、足が……抜けた……!?」
少女は自分の足をそっと引き抜き、信じられない様子で装甲板と俺の手を交互に見つめた。
「な、なになの、その魔法……!? 金属が、粘土みたいに……!?」
「魔法っていうか、ただの【資源再生(アップサイクル)】だよ。金属の歪みを直して、結合を少し組み替えただけだ」
「そんなの、聞いたことないよ……! 王都の特級錬金術師だって、こんなことできないよ……!」
大げさに両手を広げて驚く少女の姿に、俺は思わず苦笑した。
どうやらアルタリア王国の常識では、俺のやっていることは相当規格外らしい。
まあ、あの傲慢な王子たちが『ゴミ拾い』と決めつけて追放してくれたおかげで、誰にも邪魔されずに力を試せているわけだが。
「とりあえず、足が抜けてよかったな。怪我の具合は――」
俺は少女の足首にそっと触れた。
薄手のブーツを慎重に脱がせると、細い足首が赤黒く腫れ上がり、触れただけで少女が小さく痛みに顔を歪めた。
「うっ……!」
「痛むか?」
「う、うん……。崖から落ちた時に、グキッて嫌な音がして……。たぶん、筋が伸びちゃってるか、ヒビが入ってるかも……」
少女は痛みを堪えながら、無理に笑みを作ろうとした。
「でも、命が助かっただけでも奇跡だよ! ありがとう、お兄ちゃん! 私、エマっていうの。この谷で【廃材採集者(マテリアル・ギャザラー)】をやってるんだ!」
「俺はカイトだ。足立楷斗。まあ、カイトと呼んでくれ」
「カイトお兄ちゃんだね! ……って、ちょ、ちょっと待って! カイトお兄ちゃん!?」
名乗り合った直後、エマが急に顔を真っ赤にして、両手で自分の足を隠すように縮こまった。
「な、なにを人の素足をまじまじと凝視してるの! いくら命の恩人だからって、年頃の乙女の足をそんな穴が開くほど見つめるなんて……は、破廉恥! 失礼じゃない!?」
「ばっ、馬鹿言え! 変な目で見てるわけあるか!」
思わず大声でツッコミを入れてしまった。
「俺はだな、患部の腫れ方と皮膚の熱感をだな! 職人として……いや、怪我の手当てをする人間として観察してただけだ!」
「ほ、本当に〜? 『うーん、なかなか良い形のスネだな』とか思ってなかった!?」
「思うか! 俺が普段見てるのは工作機械と図面だ! 10代の女の子の足を見てニヤつく趣味はない!」
「そ、それはそれで機械フェチっぽくてちょっと怖いけど……まあ、純粋に怪我の心配をしてくれてたなら許す!」
エマはぷくーっと頬を膨らませながらも、小さく息を吐いた。
まったく、命の危機を脱した途端にこれだけ口が回るんだから、元気な証拠ではあるが。
「ったく……冗談はともかく、この腫れは放っておくと本当に歩けなくなるぞ。炎症が広がってる」
俺は立ち上がり、周囲のゴミの山を見渡した。
「ポーションの類は持ってるか?」
「ううん……ポーションなんて高級品、貧民街の私たちが買えるわけないよ……。街の薬屋で買おうとしたら、1本で銀貨10枚もするんだもん」
「なら、作るしかないな」
「えっ……? 作るって、ここで……!?」
エマが目を丸くする前で、俺は瓦礫の隙間に生えていた、わずかに光る苔のような植物と、割れて転がっていたガラス瓶の破片へと視線を向けた。