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小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
そのころ、みみは。「わぁ!あのお店もかわいい!」BARへ続く通りで、また立ち止まっていた。
本文
そのころ、みみは。
「わぁ! あのお店もかわいい!」
BARへ続く通りで、また立ち止まっていた。
きらきらと輝く街灯。色とりどりの看板。窓から漏れる柔らかな光。
そのすべてが楽しくて、つい足が止まる。
ふわりと揺れる紺色のスカート。
りんご色の髪先。
優しい香り。
周囲の視線など気づかず、みみは今日もにこにこと街を楽しんでいる。
カミルに会いたい。
ただ、それだけでここまで来た。
カミルが街のトップだなんて知らない。
仲間たちが自分を見守っていることも知らない。
自分がどれほど人目を引いているかも、まったくわかっていない。
それでも、迷わず歩いていく。
カミルのいるBARへ。
男A「ねえ、お姉さん。ひとり?」
声をかけられ、みみは振り返った。
みみ「はい。そうですよ」
琥珀色の瞳が、街の灯りを映してきらきらと輝く。
男Aは、思わず言葉を止めた。
紺色のレースドレスを綺麗に着こなした女性。艶やかな黒髪の先には、りんご色の赤が揺れている。
近づくと、ふわりと甘く清潔な香りがした。
男A(……これは、ちょっと)
一瞬、よからぬ考えが頭をよぎる。
けれど、無邪気に自分を見上げる琥珀色の瞳を見ているうちに、男は思いとどまった。
男A(……やめておこう)
ふと、家にいる姉の顔が浮かんだのだ。
もし、自分の姉がこんなふうに、何も知らずに街を歩いていたら。
そう考えると、急に自分の考えが恥ずかしくなった。
男A「……いや、なんでもない。気をつけてな」
みみ「はい。ありがとうございます」
みみは素直に微笑んだ。
男Aは仲間たちのところへ戻っていく。
すると、入れ替わるように男Bが前へ出た。
男B「ねえ、お姉さん。今、時間ある?」
みみ「ええと……?」
男B「俺たちと一緒に遊ばない? この辺、楽しい店がいっぱいあるんだよ」
みみ「わぁ、そうなんですか?」
琥珀色の瞳が、好奇心で輝いた。
男B「そうそう! 案内してあげるよ」
男A「……おい、やめとけよ」
男B「は? なんでだよ」
男A「この人、行くところがあるんだろ。困らせるな」
男B「別に困らせてねえだろ。誘ってるだけじゃん」
男Aは、眉を寄せた。
男A「断られたら引けよ」
男B「まだ断られてねえって」
男A「そういう問題じゃ……」
男D「……Aの言うとおりだ」
今度は男Dが口を開いた。
男Dは、みみの顔を見ていた。
きらきらと輝く瞳。嬉しいことを見つけた子どものように、素直に笑う顔。
その笑顔に、ふと幼い妹の姿が重なった。
男D(……あいつも、嬉しいときはあんな顔をするんだよな)
妹が見せる、曇りのない笑顔。
それを思い出したら、みみを無理に誘う気にはなれなかった。
男D「俺もやめといたほうがいいと思うぞ」
男B「お前までかよ」
男D「せっかく楽しそうに歩いてるんだ。好きにさせてやれよ」
男Bは、不満そうに口を尖らせた。
男C「はいはい。お前ら、何をそんなに気にしてんだよ」
男Cが、みみのほうへ歩み寄る。
男C「お姉さん、こいつらのことは気にしなくていいからさ。ほら、こっち行こうよ。いい店を知ってるんだ」
みみ「えっ、あの……」
男C「すぐそこだから!」
男A「おい、C!」
男D「だから、無理に誘うなって!」
しかし、男Cはふたりの声を聞き流した。
男Bも、みみの反対側へ回る。
男B「そうそう。せっかくだし、俺たちと遊ぼうよ」
みみは、ふたりを交互に見上げた。
どうやら、ふたりとも一緒に行きたいらしい。
けれど、みみには会いに行きたい人がいる。
みみ「ごめんなさいね。私、これから会いに行く人がいるんです」
柔らかな声で、きちんと伝えた。
それでも、男Bと男Cは引かなかった。
男B「ちょっとくらいいいじゃん」
男C「その人のところへ行く前にさ!」
みみ「ええと……」
ふたりは、みみを連れていこうとする。
男A「おい! いい加減にしろよ!」
男D「聞こえてるだろ! 嫌がってるじゃないか!」
そのとき。
みみの頬が、ぷくっと膨らんだ。
みみ「……もう。めっ、ですよ?」
男B「……え?」
みみ「喧嘩はよくありません。みんなで仲良くしましょう?」
琥珀色の瞳は、相変わらずきらきら。
怒っているのに、声は柔らかい。
みみは少しだけ腰に手を当て、男たちを見上げた。
みみ「せっかく、みんなで楽しく過ごせる街なんですから。ね?」
男A(……なんだ、この人)
男D(……妹が怒ったときと、ちょっと似てる……)
男Bと男Cは、思わず顔を見合わせた。
みみは、そんな彼らにもう一度、にこっと笑いかける。
みみ「はい。仲直りしましょう?」
――そのとき。
カミル「……お前ら、何やってんだ」
低い声が、背後から響いた。
男たちの動きが止まる。
そこに立っていたのは、光を吸い込むような漆黒の毛並みと、鋭い赤い瞳を持つ大柄な狼男。
カミルだった。
みみ「あっ、カミル!」
ぱあっと顔を輝かせるみみ。
つい先ほどまで膨らんでいた頬は、もう元どおりだ。
みみ「カミル! あのね、この人たちがね、喧嘩しそうだったの。だから私、仲良くしましょうってお話ししていたんだよ」
カミル「…………」
カミルは、みみを見た。
それから、男Bと男Cへ視線を移す。
カミル(……俺が来る前に、こいつらを叱ってやがる)
会いに来てくれたことは、素直に嬉しい。
だが、それ以上に。
カミル(……ったく。お前は本当に、何もわかってねぇな)
みみは、そんな内心など知る由もなく、嬉しそうに笑っていた。
みみ「ねえ、カミル。みんな、もう仲直りできるかな?」
カミル「…………ああ」
低く答えたカミルの赤い瞳が、男Bと男Cを捉える。
カミル「……お前ら。ちょっと、話がある」
男B・男C「…………はい」
みみは、にこにこと三人を見比べていた。
みみ(よかった。カミルも来てくれたし、きっと仲直りできるね)
――ふわふわマシュマロお姉さんは、今日も自由だった。
そして、そんなみみの隣で。
幻燈街のボスは、静かにため息をついた。