第6話 使い捨ての国

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あらすじ

町工場の修理工・カイトは異世界に召喚されるも、ハズレスキル【リサイクル】を理由に「廃棄の谷」へ追放されてしまう。 だが、その真価はガラクタを神話級へと創り変える【超・資源再生(アップサイクル)】だった! 折れた剣は不壊の魔剣に、毒の霧は無限のエネルギーに、捨てられた機械人形は絶世の美少女(最強)へと大変身! 拾い人の少女や龍人族、没落令嬢らと共に、温泉付きの快適な要塞都市を築き上げていく。 一方、使い捨て社会のツケで破滅寸前の王国が「戻ってきて国を建て直してくれ!」と泣きついてくるが―― 「断る。俺の居場所は、あの最高のゴミ捨て場だ」 ガラクタだらけのどん底から始まる、痛快な領地開拓ファンタジー!

本文

「ねえねえ、カイトお兄ちゃん! 本当に足が全然痛くないよ! 見て見て、こんなに高く跳べる!」

 谷の斜面を歩きながら、エマはまるで小鳥のようにピョンピョンと岩場を跳ね回っていた。

 さっきまで赤黒く腫れ上がり、骨にヒビが入って泣きそうになっていたとはとても思えない身軽さだ。

「おいおい、治ったばかりなんだから調子に乗るなよ。足元は尖った金属だらけなんだから、また転んで怪我したら元も子もないぞ」

「へいきへいき! 私、この谷を歩くのだけは王都の誰よりも得意なんだから! ……さっき転んだのは、すっごく珍しい魔導回路を見つけて、ちょっと油断しただけだもん!」

 エマは恥ずかしそうにてへっと舌を出した。

 先ほどまでの命の危機が嘘のように、表情は明るい。

 俺の提げている【常光の魔導ランタン】が放つ淡い光が、行く手を優しく照らし出し、周囲の瘴気を寄せ付けない結界のような役割を果たしていた。

「それにしても……お兄ちゃんのこのランタン、本当に凄いね。谷の奥っていつも息が苦しくて喉が痛くなるのに、お兄ちゃんの近くにいると空気が澄んでてすっごく息がしやすいの」

「魔導ランタンに大気の浄化機能を組み込んだからな。瘴気なんていうのも、要するに魔力が腐敗して淀んだガスみたいなものだ。フィルターを通して循環させれば、綺麗な空気に戻る」

「ふぃるたー……? じゅんかん……? お兄ちゃんの使う言葉、なんだか難しくて呪文みたい」

 首を傾げるエマの姿に、俺は思わず苦笑した。

 異世界の人間に地球の科学や機械の用語をそのまま言っても通じないのは当然か。

「まあ、淀んだ空気を綺麗にする仕組みってことだ。それよりエマ、さっきから歩きながら気になってたんだが……この谷、まだ十分に使えそうなものが山ほど捨てられてないか?」

 俺は歩きながら、足元に無造作に転がっている廃棄物を指差した。

 道端には、外装に少し擦り傷がついただけの魔導オーブンや、一部の留め具が外れただけの銀の甲冑が散乱している。

 果ては、文字盤に純金の装飾が施され、高純度の宝石が惜しげもなく埋め込まれた上級貴族用と思しき高級魔導時計までもが、泥にまみれて転がっていた。

「地球――いや、俺のいた故郷なら、ちょっと油を差してネジを締め直せば現役で何十年も使えるものばかりだぞ。なんでこんな高価なものがゴミ扱いされてるんだ?」

 俺の疑問に、エマは少し眉をひそめ、不満そうに唇を尖らせた。

「ああ……それはね、アルタリア王国がそういう国だからだよ」

「そういう国?」

「うん。アルタリア王国って、『始源教(しげんきょう)』っていう宗教を国教にしてるんだ。そして神官たちがいつも言ってるの。『新しきものを生み出し、消費することこそが神への祈りである』って」

「……新しさこそが正義、ってやつか。召喚された時、あのエドワード王子も似たようなことを喚いていたな」

「そうそう! だから王都の貴族やお金持ちは、少しでも古いものを持ってるのを恥ずかしいことだと思ってるんだよ。魔道具の魔力が切れたら、魔石を詰め替えるんじゃなくて本体ごと捨てるの。服だって、流行りの色が変わったら一回着ただけでもポイって捨てちゃうんだよ」

「はあ!? 魔石の詰め替えすらしないのか!?」

 俺は思わず足を止めて声を上げてしまった。

 例えて考えると、インクが切れたからといってプリンター本体ごと捨てるような暴挙だ。信じられないほどの資源の浪費である。

「うん……。詰め替えて使い続けるのは『ケチで不浄な下層民のすること』なんだって。お店で売ってる魔道具もね、わざと数ヶ月で壊れるように作られてるんだよ。壊れたらまた新しい最新型を買わせるためにね」

「計画的陳腐化を、宗教と国家権力で正当化してるのか……。とんでもない悪徳商法だな」

「けいかくてき……? よくわからないけど、そのせいで王都のスラムの私たちはすっごく困ってるの。新しい魔道具なんて高くて買えないのに、直して使うことは『神への冒涜』だからって法律で禁止されてるんだもん。だから私みたいに、夜中にこっそり谷に忍び込んで、まだ使えそうなガラクタを拾って売り捌く【廃材採集者(マテリアル・ギャザラー)】が増えたんだよ」

 エマは背中の大きな麻袋をポンポンと叩いた。

 その澄んだ瞳には、理不尽な身分制度と宗教の押し付けに対する、静かな怒りと悲哀が宿っていた。

「直せば使えるのに、捨てる。足りなくなったら、また下層民から税金を絞り取って新しいものを作る……。そんなのおかしいよ。物を大事にすることの何がいけないのさ」

「……全くだな」

 俺はエマの頭にぽんと優しく手を置いた。

「物を大切にできない奴らは、いつか必ず破滅する。技術の本質は『新しいものを買う財力』じゃない。『今あるものを工夫して使いこなす知恵と技術』だ。あいつらがゴミだと見捨てたもの、俺たちが全部拾って、最高の形に再生(アップサイクル)してやろうぜ」

「カイトお兄ちゃん……! うんっ!」

 エマは嬉しそうにパッと表情を明るくし、力いっぱいに頷いた。

 それから歩くこと30分。

 俺たちはガラクタの山をいくつか越え、谷の西側に広がる巨大な断崖へと差し掛かっていた。

「お兄ちゃん、見えてきたよ! あそこ!」

 エマが前方を指差す。

 見上げた先には、そびえ立つ巨大な鉄の絶壁があった。

 いや、絶壁ではない。

 それは、見上げるほど巨大な鉄の箱――何十両もの大型魔導コンテナが、幾重にも折り重なってできた人工の要塞のような構造物だった。

 その最上部には、かつて王国の軍事物資を一括輸送していたと思われる、全長30メートルを超える超大型の【魔導装甲輸送車】が無残に横転し、岩肌に深く突き刺さるように鎮座している。

「あそこなら、谷底からかなり高い位置にあるから魔獣も登ってこられないし、四方を頑丈な装甲板に囲まれてるから雨風も完全に防げるよ!」

「……すごいな。天然の要塞どころか、最初から部屋の形をしてるじゃないか」

 俺は職人としての目を輝かせながら、即座にアビリティの【解析(スキャン)】を発動した。

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【対象】放棄された軍用魔導装甲輸送車(拠点級)

【状態】メインフレーム歪み、動力機関破損、装甲腐食率30%

【内部構造】居住区画、整備ドック、大型倉庫、指令室

【素材構成】重魔導鋼、耐熱断熱材、強化防弾ガラス

【再生可能性】極めて良好(居住拠点・移動工房への改造可能)

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「居住区画に整備ドックまであるのか……。中身はボロボロだが、フレーム自体は最高級の重魔導鋼だ。歪みを叩き直して、魔力回路を直せば……ただの雨風をしのぐ部屋どころか、最高峰の工房ハウスができるぞ」

「へっ? こ、工房ハウス……? お兄ちゃん、これ直せるの……!? これ、10頭立ての巨大魔獣でも引っ張れないような鉄の塊だよ!?」

「直すんじゃない」

 俺はニヤリと笑い、腰の魔導棍を軽く握り直した。

「今の俺たちの生活に合わせて、最高の空間に『作り変える』んだ。――よし、エマ! まずは邪魔な瓦礫の撤去と、中の掃除から始めるぞ!」

「お、おーっ! よくわからないけど、私、お掃除なら得意だよ!」

 こうして、世界に見捨てられた廃棄の谷の片隅で、俺たちの最初の拠点作りが始まった。

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作者について

ふっせ

第2弾スタートです!

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