第7話 廃車から最高の工房へ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
町工場の修理工・カイトは異世界に召喚されるも、ハズレスキル【リサイクル】を理由に「廃棄の谷」へ追放されてしまう。 だが、その真価はガラクタを神話級へと創り変える【超・資源再生(アップサイクル)】だった! 折れた剣は不壊の魔剣に、毒の霧は無限のエネルギーに、捨てられた機械人形は絶世の美少女(最強)へと大変身! 拾い人の少女や龍人族、没落令嬢らと共に、温泉付きの快適な要塞都市を築き上げていく。 一方、使い捨て社会のツケで破滅寸前の王国が「戻ってきて国を建て直してくれ!」と泣きついてくるが―― 「断る。俺の居場所は、あの最高のゴミ捨て場だ」 ガラクタだらけのどん底から始まる、痛快な領地開拓ファンタジー!
本文
「うわあ……中はもっとボロボロだね。埃と機械油の匂いがすごいよ!」
大型魔導装甲輸送車の側面に空いた亀裂から中に入ると、エマは手で鼻をパタパタとあおぎながら叫んだ。
車内は、長年の放置と転落の衝撃で完全に荒れ果てていた。
分厚い鋼鉄の床はひしゃげて波打ち、天井からは千切れた魔力ケーブルが無数に垂れ下がっている。
備え付けられていた棚や座席は粉々に砕け散り、割れた強化ガラスの破片が足元一面に散乱していた。
「まあ、これだけ派手に横転してりゃな。だが、雨漏りもしてないし、骨組み自体はしっかり生きてるぞ」
「そうかなあ……? 私には、いつ崩れてもおかしくない巨大な鉄のゴミ箱に見えるけど……」
「ゴミ箱に見えるのは、まだ手入れをしてないからだ。よし、エマは散らばったガラスと木くずを一箇所に集めてくれ。俺は一番大事な『基礎』から直す」
「了解! お掃除なら任せて!」
エマが手際よく瓦礫を片付け始めるのを見届け、俺は輸送車の中心にあるメインフレームの頑丈な柱に両手を当てた。
「【解析(スキャン)】――」
脳内に、全長三十メートルを超える輸送車の全体構造図が青白い光の立体映像となって展開される。
歪んだフレームの応力、断線した魔力ライン、金属疲労を起こしている車輪とサスペンションの結合部。
そのすべてを完璧に把握した上で、俺は一気に魔力を流し込んだ。
「【超・資源再生(アップサイクル)】――全体再構築(フルリビルド)!」
「オオオオオッ!」
輸送車全体が、目も眩むようなエメラルドグリーンの光に包み込まれた。
「ギギ、バキバキバキッ!」
すさまじい金属の軋み音が車内に鳴り響く。
「きゃあっ!? な、なにこれ、車が勝手に動いてる!?」
「大丈夫だ、金属の歪みを元に戻してるだけだ!」
波打っていた鋼鉄の床が、まるでアイロンをかけた布のようにピンと平らに戻っていく。
ひしゃげていた天井の梁が滑らかに伸び、垂れ下がっていたケーブルが生き物のように互いを求め合って一本の太い主幹線へと綺麗に結束されていく。
さらに、車体を取り囲む外装装甲板の錆と傷が蒸発するように消え去り、鈍い銀色の重魔導鋼が鏡のように眩しく輝き始めた。
光が収まった時、車内は埃一つない、新築の体育館のような清々しい空間へと一変していた。
「……う、うそでしょ。あんなにボロボロで斜めに傾いてた車が、真っ直ぐでピカピカになっちゃった……」
エマが持っていたホウキ代わりの木の枝をポロリと落とし、口をあんぐりと開けて固まっていた。
「よし、外枠と骨組みはこれで完了だ。次は居住区画の設備だな」
俺は腕まくりをして、さっき外のゴミ山から拾い集めてきた資材の山をドサリと床に広げた。
「え、まだ何かするの? もうこれだけで十分すぎるくらい立派な避難所だよ!?」
「ただの鉄の箱じゃ落ち着かないだろ。せっかく住むなら、最高に快適な工房兼マイホームにしなきゃ損だ」
「ま、マイホーム……!?」
俺は拾ってきた資材を次々と手に取った。
破れて捨てられていた防護服、ひび割れた魔導コンロ、錆びついた水道配管、そしてここへ来る途中で見つけた、息絶えていた廃棄魔獣の死骸から剥ぎ取ってきた頑丈な毛皮だ。
「まずは、断熱と遮音だな」
廃棄魔獣の毛皮と防護服の繊維を【分解・精製】し、超高密度の防音断熱シートへとアップサイクルする。
それを車内の壁と天井の裏側一面に魔力で張り巡らせた。
途端に、外で吹き荒れていた突風の音や、遠くで響く魔獣の不気味な鳴き声が完全に遮断され、室内は驚くほどの静寂に包まれた。
「わっ……! 外の音が全然聞こえなくなった! それに、なんだかポカポカしてあったかい……!」
「谷の夜は冷えるからな。これで外気温が氷点下になっても、中は常に快適な温度をキープできるぞ。ついでに空間拡張回路も組み込んでおくか」
「くうかんかくちょう……? それって、王都の超高級なマジックバッグに使われてる、やばい級の魔法……!?」
「ああ。フレームの継ぎ目に魔力を循環させて、外見の大きさはそのままに、内部空間を二倍に広げた」
俺が壁の回路に魔力を通すと、室内の奥行きがスーッと伸びて広がり、30メートルほどだった車内が60メートル級の広々とした大空間へと変化した。
「ひゃああああっ!? ひ、広くなったあああ!? お城の舞踏会場みたいだよ!?」
目を白黒させて走り回るエマを横目に、俺は部屋の間取りを区切っていく。
くつろぐための【リビング・ダイニング】、食事を作る【キッチン】、ぐっすり眠るための【寝室】、そして何より一番大事な【作業専用の工房部屋】を奥にしっかりと独立させた。
生活スペースと作業場をきっちり分けるのは、職人の基本中の基本だからな。
そして――最後に作ったのが、浴室だ。
錆びた配管を銀合金パイプへと再構築し、大気中の水分を吸着・浄化するタンクを設置。
さらに、谷に転がっていた滑らかな岩石や耐熱鉱石を綺麗に磨き上げ、床と浴槽の周りに敷き詰めていった。
「よし、できたぞ。エマ、こっちに来てみろ」
「は、はいっ……! 今度は何を作ったの……?」
おそるおそる浴室へとやってきたエマは、そこに広がる光景を見て、完全に目を丸くした。
「これ……お風呂……? なんだか、岩が敷き詰めてあって、煙がもくもくしてる……!」
そこにあるのは、無機質なバスタブではない。
黒く滑らかな岩石で縁取られた、心地よい湯気を立ち上らせる風情ある『岩風呂』だった。
底には浄化作用と保温効果を持つ鉱石を敷き詰め、蛇口からはほのかに硫黄に似た心地よい鉱物成分を含んだ温水が、トポトポと絶え間なく注ぎ込まれている。
本物の天然温泉ではないが、見た目も湯触りも、故郷の温泉宿そっくりに再現した【温泉風大浴場】だ。
(……くぅーっ、やっぱり日本人なら温泉だよな!)
立ち上る湯気を眺めながら、俺は内心で強烈な達成感と満足感に浸っていた。
畳こそないが、この岩風呂があるだけで異世界生活のクオリティは100倍跳ね上がる。
「カイトお兄ちゃん、これ本当に中に入っていいの……!? 温かいお湯が勝手に湧き出てるよ!? 王様のお城だって、召使いが何十人もでお湯を運んでるのに……!」
「ああ、魔石の熱源で常に一番気持ちいい温度に保たれるようになってる。鉱石の成分でお肌もスベスベになるぞ。エマ、泥だらけだろ。先にひと風呂浴びてこいよ」
「えっ!? わ、私が一番最初に入っていいの……!? スラムにいた時は、冷たい井戸水で体を拭くのが精一杯だったのに……!」
「いいから入れ入れ。怪我は治ったが、泥を落とさないと衛生上よくないからな」
「う、ううっ……ありがとう、カイトお兄ちゃん! じゃあ、お言葉に甘えて……!」
エマは感動で瞳を潤ませながら、脱衣所の扉の奥へと入っていった。
やがて、ザブンとお湯に浸かる音と、「ひゃあああ……あったかぁい……極楽だよぉ……」という完全に溶け切ったような幸せそうな声が聞こえてきた。
「喜んでもらえたなら作った甲斐があったな」
俺は苦笑しつつ、リビングとなる中央の部屋に戻った。
中央のリビングには、リサイクルして柔らかく仕上げた革張りのソファと、食事用のローテーブルを配置してある。
壁際には、食材を新鮮なまま保存できる魔導冷蔵庫と、手際よく料理ができるシステムキッチンを完備した。
粉塵や鉄粉が舞う工作機械や作業台は、すべて頑丈な扉で仕切られた奥の【専用工房】にまとめてあるので、リビングはいつでも清潔でくつろげる空間だ。
テーブルの上に【常光の魔導ランタン】を置くと、部屋全体が柔らかな温かい光に包まれた。
外は、毒の霧が漂い、凶悪な魔獣が徘徊する絶望の廃棄場。
だが、この【魔導装甲工房】の中は、アルタリア王国の王宮すら凌駕する、世界一安全で快適なオアシスだ。
「……ふう」
ソファに深く腰掛け、息を吐く。
追放されてからまだ数時間しか経っていないが、怒涛の展開だった。
だが、自分の手で居場所を作り上げるこの感覚は、町工場で黙々と働いていた頃の充実感を思い出させてくれる。
ガチャリ、と扉が開き、湯上りのエマが出てきた。
泥を落とし、さっぱりした顔は驚くほど色白で、濡れた琥珀色の髪がランタンの光を反射して輝いている。
服は俺がリサイクルして汚れを完全に落とし、サイズを調整した清潔なシャツとズボンだ。
「お待たせ、お兄ちゃん! ……もうね、凄すぎて言葉が出ないよ。身体の芯までポカポカして、お肌もツルツル!」
「そうか、良かったな。湯冷めしないようにちゃんと髪を乾かせよ」
「はーい! ……ねえ、カイトお兄ちゃん」
エマは広々としたリビングをぐるりと見渡し、感慨深そうに呟いた。
「ここ、本当に私たちの家なんだね……。私、生まれてからずっとスラムの壊れかけの小屋に住んでたから……こんな綺麗で温かい場所で暮らせるなんて、夢みたいだよ」
「夢じゃないさ。ここは俺たちの家で、工房だ。誰にも文句は言わせない」
「うんっ……!」
エマは嬉しそうに頷き、ソファの端っこにちょこんと腰掛けた。
だが、その時――。
工房の外壁に設置した探知回路が、ピピッ、と微弱な警告音を鳴らした。
「……ん?」
俺は立ち上がり、壁に埋め込んだ魔導モニターに視線を向けた。
モニターには、工房の外の様子が鮮明に映し出されている。
谷の奥深く――さらに暗く淀んだエリアから、尋常ではない濃度の紫色の瘴気が、煙のように立ち上っているのが見えた。
「お兄ちゃん、あれ……!? か、壁の板に外の景色がそのまま映ってる!? なになに、壁に穴が空いちゃったの!?」
リビングの壁に埋め込んだ魔導モニターを見るなり、エマは目を丸くして飛び退いた。
おそるおそる壁のガラス板に近づき、ペタペタと両手で触ったり、裏側を覗き込もうと首を傾げたりしている。
「穴じゃないよ。外に仕掛けた小型の魔導カメラから、映像を線で送って映し出してるんだ」
「えいぞう……? かめら……? 遠くの景色を鏡みたいにそのまま映し出す魔法なんて、王宮の超高級な遠見の水晶玉しか見たことないよ! こんな板っ切れ一枚で外が見えるなんて、魔法使いの国のお城みたい!」
大騒ぎするエマに、俺は苦笑しながらモニターの端を指差した。
「ほら、感心してる場合じゃないぞ。あそこを見てみろ。尋常じゃない瘴気が噴き出してる……何かレアな素材か、あるいは巨大な魔導兵器の残骸でも眠ってるんじゃないか? ちょっと見に行ってみる価値がありそうだな」
「ふぇ? あそこ……って、ひゃああああっ!? ちょっと待ってよ、カイトお兄ちゃん! あそこに行くなんて本気じゃないよね!?」