閑話――お宿

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/1 📚 シリーズ: きまぐれまほろば夜行帖【本編】 📝 1,554文字 ✅ 全年齢

あらすじ

閑話 — 狭間のお宿 「番頭さんのお仕事」午後の帳場。

本文

閑話 — 狭間のお宿

「番頭さんのお仕事」

午後の帳場。

番頭さんは、いつものように帳場の机に向かっていた。

紺色の着物に、如意紋の顔隠し。

目の前には現代のノートパソコンが一台。

画面には、宿泊予約の一覧が並んでいる。

番頭「さて、本日の新しいご予約は……」

慣れた手つきで画面を操作し、宿泊日、人数、宿泊者の情報を確認していく。

昔は神社に設けられた、人間には見えない投函口から届く手紙が予約の始まりだった。

今ではスマートフォンやパソコンから予約が入る。

時代が変わっても、番頭さんの仕事は変わらない。

予約内容をひとつずつ確認し、問題がないかを確かめる。

番頭「こちらは確認済み。次はこちらですね」

ひと通りの確認を終えると、番頭さんは台帳様のもとへ向かった。

番頭「台帳様、新しいご予約でございます。ご確認をお願いいたします」

常盤緑色の表紙に金箔が施された右綴じの和本。

台帳様は、ぱらりと頁を開いた。

金箔が、くるり。

予約内容を確かめるように、頁の上を静かに動く。

やがて、受け入れ可能な予約が台帳に記されていく。

番頭「ありがとうございます」

番頭さんは一礼した。

その後、台帳様に記された予約を確認するのは、みみの役目。

番頭さんが予約を整え、台帳様が受け入れを判断し、みみが内容を確認する。

それがお宿の現在の予約の流れだった。

今日も帳場では、古いお宿と新しい時代が、何の違和感もなく一緒に働いている。

閑話 — 狭間のお宿

「予約の移り変わり」

午後の帳場。

番頭の意流りうは、ノートパソコンの画面を眺めていた。

紺色の着物に、如意紋(にょいもん)の面布。

画面には、宿泊予約の情報が整然と並んでいる。

意流「……便利になったものでございます」

ひとつ予約を確認し、次の予約へ。

宿泊日、人数、名前、必要事項。

どれも決まった形式で表示されている。

今では当たり前になった光景だが、昔を知る意流にとっては、ずいぶんありがたい変化だった。

ふと、昔の帳場を思い出す。

あの頃の予約は、今のように統一されてはいなかった。

神社に設けられた、人間には見えない投函口。

そこへ届くのは、さまざまな姿の予約だった。

巻物にしたためられたもの。

紙に細かな文字で記されたもの。

時には、木片に刻まれたものまであった。

妖怪たちの中には、花文字を使う者もいる。

人間の文字とは異なる書き方や、種族ごとに伝わる文字もあり、読み解くだけでもひと苦労だった。

意流「これは……どちらから読めばよいのでしょうな」

昔の帳場では、届いたものを一つひとつ広げ、書かれた内容を読み取り、必要な情報を整理していた。

文字の種類も、書き方も、記すものも違う。

予約の確認に取りかかるまでが、まず大仕事だった。

意流「巻物に木片、花文字に独自の文字……。あの頃は、なかなか骨が折れました」

小さく息をつく。

今では、ほとんどの予約が同じシステムを通して届く。

情報の形式が統一され、確認する項目も分かりやすい。

何より、読み方に悩む時間が大幅に減った。

意流「現代の予約システムには、本当に助けられております」

もちろん、昔ながらの方法で予約が届くこともある。

巻物や木片、独特な文字で記されたもの。

そうした予約は今でも受け付けている。

けれど、その数は昔に比べればずっと少ない。

意流「たまにであれば、懐かしさもございますな」

そう言って、画面に視線を戻す。

今日の予約も、いつもの形式で整然と並んでいた。

意流「さて、こちらは確認済み。次に参りましょう」

帳場には、静かなキーボードの音が響く。

昔は昔で、さまざまな者たちの暮らしや文化に触れられる仕事だった。

けれど今は、今の便利さがある。

長い年月、お宿の帳場を預かってきた意流は、画面を見つめながら、しみじみと思った。

意流「……便利な時代になりましたな」

今日も番頭の仕事は続いていく。

ジャンル・タグ

タグなし

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

みまち

みまち

紅茶、珈琲、レモンが好き。【私がニヤニヤする物を置いております】

👥 フォロワー: 4人

作者ページを見る