閑話 — 狭間のお宿

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/1 📚 シリーズ: きまぐれまほろば夜行帖【本編】 📝 994文字 ✅ 全年齢

あらすじ

「自由な風の帰る場所」狭間のお宿の朝。廊下には、静かな足音と、仕事に取りかかる中居たちの声が響いていた。

本文

「自由な風の帰る場所」

狭間のお宿の朝。

廊下には、静かな足音と、仕事に取りかかる中居たちの声が響いていた。

淡い薄緑色の着物に、白絹の顔隠し。そこには黒いりんご印が添えられている。

中居たちは年齢も背丈もさまざまで、髪や肌の色もそれぞれ違う。若い者もいれば、長くこの宿に勤めている者もいる。

その中で、ひときわ目を引く女性がいた。

紫色の着物に、桔梗色の印が入った顔隠し。

仲居頭の桔梗(ききょう)である。

桔梗「お客様のお迎えは、こちらの二人にお願いします。お部屋の確認は済んでいますか?」

中居「はい。すべて整っております」

桔梗「ありがとう。では、帳場にも確認を入れておきますね」

落ち着いた声で指示を出しながら、桔梗は宿の様子をひとつずつ確かめていく。

中居たちの仕事を見守り、宿泊客への対応を整え、必要があれば自ら動く。

その姿に、周囲の者たちも自然と頼もしさを感じていた。

桔梗は、ただの古参の中居ではない。

みみが宿を離れている間、この宿の現場を預かる仲居頭だ。

帳場では、番頭の意流がパソコンで予約状況を確認している。

意流(りう)「桔梗さん、午後のお客様についてですが」

桔梗「はい。こちらで対応いたします。変更がありましたら、また知らせてください」

意流「承知しました」

二人の間に、余計な説明は必要なかった。

長く宿を支えてきた者同士、仕事の流れもよく分かっている。

一方、その頃のみみはというと――。

宿の外で、気ままに風に吹かれていた。

行き先を決めずに歩き、気になるものがあれば立ち止まる。帰りたくなれば帰る。

そんな自由な時間を過ごせるのも、宿を任せられる人たちがいるからだった。

桔梗は、みみの自由な気質をよく知っている。

無理に引き留めることも、帰りを急かすこともない。

ただ、みみが戻ってきたときに、いつも通りの宿で迎えられるように整えておく。

桔梗「みみさんは、今日もお出かけでしょうか」

中居「はい。しばらく戻られないかもしれませんね」

桔梗「ふふ。そうですか。では、いつお戻りになってもよいようにしておきましょう」

そう言って、桔梗は廊下の奥へ歩いていった。

みみが自由にうろうろできるのは、誰かがその自由を支えているから。

帰る場所を守り、宿を整え、いつもの笑顔で迎える人たちがいる。

そして、その中心には、紫色の着物をまとった仲居頭がいた。

みみが自由な風でいられるように。

今日も桔梗は、狭間のお宿を守っている。

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作者について

みまち

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紅茶、珈琲、レモンが好き。【私がニヤニヤする物を置いております】

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