いつもの朝、いつものお仕事

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/2 📚 シリーズ: きまぐれまほろば夜行帖【本編】 📝 1,719文字 ✅ 全年齢

あらすじ

みみは座卓の前に座り、台帳様を開いていた。朝の確認は、いつもの日課。台帳様のページには、本日宿泊予定のお客様の名前や到着予定時刻、部屋割りなどが記されている。

本文

みみは座卓の前に座り、台帳様を開いていた。

朝の確認は、いつもの日課。

台帳様のページには、本日宿泊予定のお客様の名前や到着予定時刻、部屋割りなどが記されている。

みみ「ええと……今日は、こちらのお客様が先に到着するのね」

指先でページをなぞりながら、ひとつずつ確認していく。

神域から訪れるお客様。

山を越えてやってくる妖たち。

水辺を離れて、久しぶりに宿を訪れる水の者。

住む世界も、姿形も、それぞれ違う。

みみ「お部屋の準備は大丈夫そうね」

台帳様の金箔が、くるりと回った。

みみ「ふふ。順調だね」

そこへ、廊下から声がかかる。

番頭「みみさん、失礼いたします。本日の予約確認はお済みでしょうか」

みみ「はい。今ちょうど終わったところです」

番頭「それはようございました。こちらでも予約システムとの照合が済んでおります」

番頭は手元の書類を確認しながら、丁寧に一礼する。

みみ「ありがとうございます。では、あとは皆さんにお任せしますね」

番頭「承知いたしました」

台帳様をそっと閉じる。

今日もお宿は、いつもどおり。

誰かが訪れ、誰かが帰り、また新しいお客様がやってくる。

そんな繰り返しが、このお宿の日常だった。

ある日の宿泊客

そんな、いつもと変わらない日常の中。

狭間のお宿には、一人の少年が宿泊していた。

年の頃は十三歳ほど。

黒い髪に、赤い瞳。人間とは少し違う尖った耳を持ち、黒いマントを羽織っている。

一人で宿泊している少年だった。

特に騒ぐこともなく、誰かを困らせることもない。

縁側に腰掛け、庭を眺めたり、お茶菓子をつまんだり。

まるで、ここで過ごす時間を楽しんでいるようだった。

みみ「ふふ、今日はいいお天気だね」

縁側を通りかかったみみが、少年に声をかける。

みみ「お菓子、おいしい?」

少年の前には、小さなお皿に盛られた色とりどりのお団子。

みみは少し離れたところで足を止め、にこりと微笑んだ。

みみ「ゆっくりしていってね」

お宿では、珍しいことではない。

一人で旅をする者もいれば、長い休暇を過ごすために訪れる者もいる。

この少年もまた、今日のお宿のお客様の一人だった。

――さて、少年はどんな返事をするのだろう。

少年は、みみの声にぴくりと肩を揺らした。

一瞬、こちらを見たものの、すぐに顔をそらす。

少年「……ふん。無論だ。余に出される菓子としては、なかなかの品ではないか」

小さな手で団子をひとつ持ち上げる。

少年「このような場所で人間風情に気を遣われるとはな。まったく、奇妙な宿だ」

言葉だけは、ずいぶん偉そうだ。

けれど、団子を持つ指先は少し落ち着かない。

少年(……なんだ、この者。妙に話しかけてくるではないか)

みみが微笑んでいると、少年はちらりと視線を戻した。

少年「な、なんだ。余の顔に何かついているとでも?」

少しだけ頬が赤い。

どうやら、慣れない相手を前にして、精いっぱい格好をつけているらしい。

少年「……余は別に、寂しくなどないぞ」

誰も、そんなことは聞いていなかった。

お姉さんモードみみさん

みみは、少年の言葉を聞いて、ふわりと微笑んだ。

(あらあら……)

寂しくない、とわざわざ口にするあたり、少し気になった。

けれど、そこを指摘するのは野暮というもの。

みみは少年の隣に、少し間を空けて腰を下ろした。

みみ「そっか。じゃあ、寂しくないんだね」

少年「当然だ。余を誰だと思っている」

みみ「うんうん。すごいんだね」

少年「……む」

あまりにも素直に肯定されて、少年は拍子抜けしたようだった。

みみはお皿のお団子を眺める。

みみ「ねえ、もうひとつ食べる? お茶も淹れようか」

少年「……余は甘いものに目がないわけではないぞ」

みみ「そうなの?」

少年「ただ、この菓子が気に入っただけだ」

みみ「ふふ。じゃあ、おかわり持ってくるね」

立ち上がろうとしたみみの袖を、少年の指先がほんの少しだけつまんだ。

少年「……べ、別に急がずともよい」

みみはその小さな手に気づいたけれど、何も言わなかった。

みみ「うん。じゃあ、もう少し一緒にいようか」

少年「……好きにするがよい」

その声は、さっきよりほんの少しだけ小さかった。

みみは隣で、庭を眺める。

急かさない。

聞き出さない。

ただ、そこにいる。

お姉さんモードのみみは、どうやら発動したようだった。

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作者について

みまち

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紅茶、珈琲、レモンが好き。【私がニヤニヤする物を置いております】

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