壱
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
少しずつ 少年が宿に滞在して三日が経った。みみは仕事の合間に、何度か少年の顔を見に行っていた。
本文
少しずつ
少年が宿に滞在して三日が経った。
みみは仕事の合間に、何度か少年の顔を見に行っていた。
特別な用事があるわけではない。
廊下ですれ違えば声をかけ、縁側にいれば隣に座る。
そんな、何気ない交流だった。
【一日目。】
みみ「今日のお団子はどう?」
少年「ふむ。余の舌を満足させるには、まだまだ修行が足りぬな」
みみ「そう? 私はおいしいと思うけどなあ」
少年「……まあ、食べられぬほどではない」
そう言いながら、二本目に手を伸ばしていた。
【二日目。】
みみ「今日は何をしていたの?」
少年「庭を見ていた」
みみ「お庭、気に入った?」
少年「……まあな。悪くない」
みみ「よかった」
少年「それより、今日は菓子はないのか?」
みみ「あら。お腹が空いた?」
少年「ち、違う! あれば食べてやってもよいと言っているだけだ!」
みみ「ふふ。わかった」
【三日目・縁側】
午後の縁側。
みみはお盆にお茶とお菓子を載せて、少年のところへやってきた。
みみ「こんにちは。今日もここにいたの?」
少年「……見ればわかるだろ」
みみ「ふふ、そうだね」
少年「ふんっ」
みみは隣に腰を下ろし、お菓子のお皿を間に置いた。
みみ「今日は新しいお菓子だよ。食べてみる?」
少年「別に。お菓子なんて、毎日食べなくても困らないし」
そう言いながら、お皿をちらり。
みみ「そっか。じゃあ、私がいただこうかな」
少年「……待て」
みみ「ん?」
少年「食べてやってもいいと言っているんだ」
みみ「ふふ。はい、どうぞ」
少年はひとつ手に取ると、黙って口に運んだ。
少年「……まあまあだな」
みみ「おいしくなかった?」
少年「そこまでは言ってない!」
みみ「よかった」
少年「……ふんっ」
しばらく二人で庭を眺める。
みみ「今日は何をしていたの?」
少年「何も」
みみ「ずっとここに?」
少年「悪いかよ」
みみ「ううん。いいお庭だものね」
少年「……まあな」
少し間を置いて、少年がぽつりと尋ねた。
少年「……明日も来るの?」
みみ「え?」
少年「別に、来てほしいとかじゃないからな! ただ聞いただけだ!」
みみ「うん。お仕事が終わったら来るね」
少年「……ふんっ」
顔をそむけた少年の耳が、ほんの少し赤くなっていた。
みみは気づいていたけれど、知らないふりをしてお茶を飲んだ。
(ふふ。まだまだ甘えん坊さんには遠いかな)
少年「……お茶、もう一杯」
みみ「はいはい。淹れてくるね」
少年「子ども扱いするなよ!」
そんな声が、午後の縁側に響いていた。
・仲居たちの小さな観察
縁側でお茶を飲む二人。
少年は空になったお皿をちらりと見た。
少年「……なあ」
みみ「ん?」
少年「……お菓子、もうないのか?」
みみ「あら、もう食べちゃった?」
少年「べ、別に。もっと食べたいわけじゃない。ただ……」
頬がほんのり赤くなる。
少年「……おいしかったから」
みみ「ふふ。じゃあ、もう少し持ってこようね」
少年「……ふんっ」
その様子を廊下から見ていた仲居たち。
中居A「まあ……」
中居B「すっかり懐いてしまわれて」
桔梗「ふふ。あら、落ちてしまわれたのね」
中居A「みみさん、またですねえ」
桔梗「本人は気づいていないでしょうけれど」
三人の視線の先では、みみが少年のためにお菓子を取りに行こうとしていた。
少年はその後ろ姿を、ほんの少しだけ目で追っていた。
桔梗「……かわいらしいこと」
まだ恋と呼ぶには幼く、本人もきっと認めない。
けれど、三日前よりも確実に、みみの存在が大きくなっていた。