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第3話 丸髷、大宇宙へ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/2 📚 シリーズ: 大宇宙マルマゲドン 📝 4,647文字 ✅ 全年齢

あらすじ

丸髷は美しい。 古い日本髪の写真集を見て、丸髷の美しさに魅せられた若い女性、丸井月子。 彼女は、思い切って自分も丸髷にしてみたものの、周囲の人々から笑われてしまう。 傷ついた月子は、ある夜、星空を見上げて決心する。 「地球に丸髷の美しさを理解してくれる国がないのなら、宇宙に作ればいい!」 やがて、彼女の夢に共感する少数の仲間たちが集まり、秘密の宇宙船計画が始まる。 そして、誰にも知られずに宇宙へ旅立つ月子たち。 果たして、丸髷を愛する人々の理想郷は見つかるのだろうか? 丸髷と宇宙――全く関係のなさそうな二つのものが結びついたとき、奇想天外な冒険が始まる。 ちょっぴりおかしくて、心温まる、愛と夢と丸髷の宇宙物語。

本文

その日が、とうとうやって来た。

丸井月子が、初めて宇宙へ行こうと決心した夜から、数年の月日が流れていた。

白石隆之の所有する、人里離れた研究施設。

その巨大な格納庫の中に、一隻の宇宙船が完成していた。

銀色に輝く船体は、月子が想像していたものより、ずっと大きかった。

「……すごい」

月子は、ただ見上げるばかりだった。

「本当に、できちゃったんですね」

隣にいた花村小春も、感激した様子で言った。

白石が穏やかに微笑んだ。

「ええ。多くの人々の努力のおかげです」

宇宙船の建造には、白石の豊富な資金と、優秀な技術者たちの協力が必要だった。

幾度も試験が繰り返され、問題が見つかるたびに改良が加えられた。

そして、ようやく、宇宙を長距離航行できる船が完成したのである。

もっとも、どんなに優れた宇宙船でも、

宇宙の果てまで自由に飛んでいけるわけではない。

そのことは、月子も理解していた。

けれども、今はただ嬉しかった。

「白石さん……本当に、ありがとうございます」

月子は深く頭を下げた。

「私が丸髷の国を作りたいなんて言い出したばっかりに、こんな大変なことに……」

「いいえ、丸井さん」

白石は首を横に振った。

「あなたの夢に、私たちが賛同したのです。

これは、もうあなた一人の夢ではありませんよ」

小春も大きくうなずいた。

「そうですよ! 私だって、宇宙に行くのが楽しみで仕方ないんですから!」

月子は、二人を見つめた。

胸の奥が、じんわりと温かくなった。

丸髷を結って街を歩き、人々に笑われた日のことが、ふと思い出された。

あのころは、こんな日が来るとは夢にも思わなかった。

それなのに今、自分の目の前には、本物の宇宙船がある。

人生というものは、何が起こるか分からない。

月子は、しみじみとそう思った。

いよいよ出発の日が決まった。

計画は、最後まで秘密にされた。

研究施設の関係者以外には、宇宙船の存在すらほとんど知られていなかった。

大勢の人々を集めた出発式もない。

テレビ中継もない。

新聞記者も来ない。

宇宙へ旅立つのは、月子と小春、白石、

そして航行を担当する少数の乗組員だけだった。

月子は、出発を前に、いつも以上に丁寧に丸髷を結ってもらった。

鏡の中には、美しく整えられた丸髷姿の自分がいた。

艶やかな黒髪。

ふっくらとした丸い髷。

そして、控えめに飾られた髪飾り。

「うん。きれい……」

月子は、思わず微笑んだ。

小春が隣からのぞき込んだ。

「月子さん、最高にきれいですよ!」

「ありがとう、小春さん」

「宇宙に行くのに丸髷なんて、世界初かもしれませんね!」

「そうかもしれないね」

二人は笑い合った。

月子は出発前の記念写真を撮ってもらった。

丸髷姿の自分と、その背後にそびえる巨大な宇宙船。

何とも不思議な組み合わせだった。

しかし、月子には、その二つが少しも不釣り合いには思えなかった。

むしろ、これこそが自分の夢の姿なのだと思った。

宇宙船の内部では、出発準備が着々と進んでいた。

乗組員たちは機器を点検し、航路を確認していた。

月子たちも、説明を受けながら、それぞれの座席に着いた。

宇宙服を着ている間、月子の丸髷は保護用の装具の中に収められていた。

少し窮屈だったが、月子はそれさえ嬉しかった。

「丸髷を宇宙に連れていくんだもの」

そうつぶやくと、小春が吹き出した。

「月子さんらしいですね!」

やがて、すべての準備が整った。

出発は、深夜だった。

研究施設の周囲は静まり返り、遠くの山々は暗闇に沈んでいた。

人里離れた専用発射施設から、宇宙船は静かに離陸した。

特殊な推進装置によって、地上には大きな轟音も響かなかった。

月子は座席に身体を預けながら、窓の外を見つめた。

地面が、少しずつ遠ざかっていく。

建物が小さくなり、山々が小さくなり、

やがて地上の光が、星のように散らばって見えた。

「……飛んでる」

月子は、かすれた声で言った。

「本当に、宇宙へ向かってる……」

小春も窓に顔を近づけていた。

「月子さん、すごいですよ!」

白石は、二人の様子を嬉しそうに見守っていた。

やがて、空の青さが消えていった。

窓の向こうには、深い闇が広がっていた。

そして、その闇の中に、無数の星が現れた。

「……わあ」

月子は息をのんだ。

これまで地球から見上げていた星々が、今は自分たちを取り囲むように輝いている。

まるで、宇宙全体が宝石箱になったようだった。

宇宙船が地球の周回軌道に入ると、月子は窓から地球を見下ろした。

青い海。

白い雲。

大きく曲がった地平線。

その光景は、あまりにも美しかった。

「地球って……こんなにきれいだったんだ」

月子は、しばらく言葉を失った。

自分が生まれ、育ち、暮らしてきた星。

丸髷を笑われ、悲しい思いをした星。

しかし、その地球は、宇宙から見ると、こんなにも美しいのである。

「不思議だね、小春さん」

「何がですか?」

「私、地球から逃げたいと思ってたのに……

こうして見ると、地球がとても愛おしく感じるの」

小春は優しく微笑んだ。

「きっと、地球にも素敵なものが、たくさんあるからですよ」

月子はうなずいた。

「そうだね……」

やがて、宇宙船は地球の周回軌道を離れ、さらに遠くへ向かった。

目的は、地球によく似た惑星を探すことだった。

月子は、その星に、丸髷を愛する人々の国を作りたいと考えていた。

白石たちは、出発前に、いくつかの候補となる惑星を調べていた。

しかし、実際にその惑星へ到達できるかどうかは、別の問題だった。

宇宙は、あまりにも広いのである。

航行が始まってから、月子たちは宇宙船での生活にも少しずつ慣れていった。

食事をしたり、窓から星を眺めたり、仲間たちとおしゃべりをしたり。

長い航海ではあったが、穏やかな時間が流れていた。

月子は船内で過ごすときも、できるだけ丸髷を美しく整えていた。

小春は、それを見て何度も褒めてくれた。

「月子さん、宇宙でも丸髷が似合いますね!」

「ありがとう!」

月子は嬉しそうに笑った。

白石も、時折、感心したように言った。

「星空を背景にした丸髷というのも、実に美しいものですね」

月子は、その言葉を聞くたびに幸せな気持ちになった。

宇宙の中で、丸髷を美しいと褒めてもらえる。

それだけでも、この旅をしてよかったと思えた。

しかし、そんな穏やかな時間の中に、少しずつ厳しい現実が見えてきた。

ある日、白石が月子と小春を船内の会議室に呼んだ。

「お二人に、お話ししておきたいことがあります」

白石の表情は、いつもより真剣だった。

月子は少し不安になった。

「どうしたんですか?」

白石は、航行担当者から届いた報告を二人に見せた。

そこには、候補となる惑星までの距離や、

宇宙船の航行可能距離などが記されていた。

「残念ながら、私たちの宇宙船では、目的の惑星まで到達することが難しいようです」

「……え?」

月子は目を見開いた。

白石は、静かに説明した。

「宇宙船の性能は、当初の計画を十分に満たしています。

しかし、宇宙は想像以上に広い。候補の惑星は、どれも遠すぎるのです」

小春が尋ねた。

「もっと近くに、地球みたいな星はないんですか?」

「探しています。

しかし、今のところ、私たちが移り住めると確信できる星は見つかっていません」

月子は黙り込んだ。

宇宙に出れば、どこかに理想の星がある。

そんなふうに考えていた。

しかし、宇宙に出ることと、遠い惑星にたどり着くことは、まったく違うのだった。

「……もう少し、探せませんか?」

月子は、かすかな希望を込めて尋ねた。

白石は、ゆっくりとうなずいた。

「もちろん、可能な範囲で探索を続けましょう。

ただし、帰還に必要な燃料とエネルギーを残さなければなりません」

月子は、窓の外を見た。

そこには、無数の星が輝いていた。

こんなにたくさんの星があるのに。

その一つにさえ、たどり着けないかもしれない。

月子は、初めて宇宙の広大さを、少し恐ろしく感じた。

その後も、一行は近隣の宇宙空間を調査し、候補となる星々について情報を集めた。

しかし、良い知らせはなかった。

どの惑星も、遠すぎた。

安全に帰還できるだけの燃料とエネルギーにも、限りがあった。

ついに、帰還を決めなければならないときが来た。

白石は、月子たちに言った。

「丸井さん。残念ですが、地球へ戻りましょう」

月子は、しばらく何も言えなかった。

せっかく、ここまで来たのに。

こんなにたくさんの人たちが協力してくれたのに。

自分の夢は、叶わないのだろうか。

「……ごめんなさい」

月子は、うつむいて言った。

「私が、宇宙に丸髷の国を作りたいなんて言ったから……」

すると、小春が月子の手を握った。

「謝らないでください」

「でも……」

「私、宇宙に来られて、本当に嬉しかったですよ」

小春は、にっこり笑った。

「こんなにきれいな地球も、星空も見られたんですもの。

それに、月子さんと一緒に来られたことが、何より嬉しいです」

月子は、小春を見つめた。

白石も、静かに言った。

「丸井さん。夢が、最初に思い描いたとおりに実現するとは限りません」

「はい……」

「しかし、だからといって、その夢が無意味だったことにはなりませんよ」

月子の目に、涙が浮かんだ。

「私たちは、あなたの夢のおかげで、こうして宇宙に来ることができたのです」

白石は微笑んだ。

「それだけでも、十分に素晴らしいことではありませんか」

月子は、ゆっくりとうなずいた。

「……ありがとうございます」

少しの沈黙のあと、月子は顔を上げた。

「地球へ、帰りましょう」

小春もうなずいた。

「はい!」

白石は、航行担当者に帰還の指示を伝えた。

宇宙船は、ゆっくりと向きを変えた。

遠い星々へ向かっていた船首が、今度は地球のある方向へ向けられた。

月子は窓の外を眺めた。

星々は、相変わらず美しく輝いていた。

あの中のどこかには、きっと、自分たちが暮らせる星もあるのだろう。

けれども、今の自分たちには、そこまで行くことができない。

それは残念だった。

とても残念だった。

しかし、月子はもう、ただ悲しんでいるだけではなかった。

ふと、鏡に映る自分の姿を見た。

そこには、いつもの丸髷があった。

宇宙の旅をしても、丸髷は丸髷のままだった。

その美しさは、何も変わっていない。

「……やっぱり、美しいな」

月子は、小さくつぶやいた。

小春が振り返った。

「何がですか?」

「丸髷」

月子は微笑んだ。

「宇宙の果てまで行けなくても、丸髷が美しいことは変わらないものね」

小春は声を上げて笑った。

「そうですよ! 月子さんの丸髷は、宇宙一です!」

「宇宙一?」

「ええ、宇宙一!」

月子も笑った。

白石も、穏やかに微笑んでいた。

宇宙船の中に、温かな笑い声が広がった。

そして、一行は地球へ向かって帰り始めた。

月子は、まだ知らなかった。

自分たちが地球へ戻ったとき、思いもよらない騒動が待ち受けていることを。

そして、その騒動が、

丸髷の国を作るという夢に、まったく新しい道を開いてくれることを。

宇宙船は、静かな星々の間を進んでいった。

船内では、丸髷を結った一人の若い女性が、

仲間たちとともに、故郷の地球へ帰る日を楽しみにしていた。

大宇宙の旅は、終わろうとしていた。

しかし、丸井月子の本当の物語は、まだ始まったばかりだった。

(第3話 完)

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作者について

ケイモモ

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はじめまして、ケイモモです。 相棒の「ちいもも」と一緒に、物語の世界をのんびり旅しています。 読む人の心に、そっと小さな花が咲くような。 笑ったり、ドキドキしたり、ときには胸がきゅっとなるような...

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