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第5話 丸髷王国を作ろう

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/2 📚 シリーズ: 大宇宙マルマゲドン 📝 4,807文字 ✅ 全年齢

あらすじ

丸髷は美しい。 古い日本髪の写真集を見て、丸髷の美しさに魅せられた若い女性、丸井月子。 彼女は、思い切って自分も丸髷にしてみたものの、周囲の人々から笑われてしまう。 傷ついた月子は、ある夜、星空を見上げて決心する。 「地球に丸髷の美しさを理解してくれる国がないのなら、宇宙に作ればいい!」 やがて、彼女の夢に共感する少数の仲間たちが集まり、秘密の宇宙船計画が始まる。 そして、誰にも知られずに宇宙へ旅立つ月子たち。 果たして、丸髷を愛する人々の理想郷は見つかるのだろうか? 丸髷と宇宙――全く関係のなさそうな二つのものが結びついたとき、奇想天外な冒険が始まる。 ちょっぴりおかしくて、心温まる、愛と夢と丸髷の宇宙物語。

本文

宇宙から帰還して以来、丸井月子の生活は、すっかり変わってしまった。

街を歩けば、声をかけられる。

インターネットには、月子の丸髷姿の写真があふれている。

テレビでは、今でもときどき、あの奇想天外な宇宙旅行が紹介されていた。

「丸髷のために宇宙へ行った女性」

月子は、そんなふうに呼ばれるようになっていた。

「何だか、恥ずかしいなあ……」

月子は、鏡の前で丸髷を整えながら、つぶやいた。

以前は、丸髷を結っているだけで笑われた。

ところが今では、丸髷を美しいと褒めてくれる人が、ずいぶん増えた。

もちろん、面白がっている人もいる。

しかし、少なくとも、月子の夢を真剣に応援してくれる人たちが、

世界中にいることは確かだった。

ある日、白石隆之から連絡があった。

「丸井さん。以前お話しした、自治共同体について、詳しい情報が集まりました」

「自治共同体?」

「ええ。価値観の合う人々が集まって、それぞれの文化や暮らし方を大切にする、

小さな町のようなものです」

白石は、月子と花村小春を、自分の事務所に招いた。

机の上には、さまざまな資料が並んでいた。

「最近、世界各地で、こうした共同体が少しずつ増えているのです」

白石は説明した。

自然を大切にして暮らす人々の町。

音楽を愛する人々が集まる町。

昔ながらの生活文化を守る町。

芸術や工芸に親しみながら暮らす町。

それぞれの共同体には、異なる特色があった。

「へえ……」

月子は、目を輝かせた。

「そんな町が、あるんですね!」

「ええ。もちろん、

どの町も周囲の社会の法律や制度を尊重しながら運営されています。

ですが、暮らし方については、それぞれ独自の工夫をしているのです」

小春が言った。

「つまり、好きなものが同じ人たちで集まって、楽しく暮らせるんですね?」

「そういうことです」

白石は微笑んだ。

「そして、こうした共同体同士は、

互いの文化を尊重し、交流や協力も行っているのです」

月子は、しばらく資料を見つめていた。

そして、ぽつりと言った。

「……だったら」

二人が月子を見た。

「丸髷の町も、作れるんじゃないでしょうか?」

白石は、嬉しそうにうなずいた。

「私も、そう考えていました」

「本当ですか!?」

「ええ。宇宙の遠い惑星に国を作るより、ずっと現実的です」

小春も、ぱっと顔を輝かせた。

「月子さん! それ、すごくいいと思います!」

月子の胸が、高鳴った。

宇宙のどこかに、丸髷を愛する人々の国を作る。

それが、月子の夢だった。

しかし、宇宙の旅では、その夢を実現することができなかった。

けれども、今、地球に新しい可能性が見えてきたのである。

「……地球に、丸髷の国を作る」

月子は、ゆっくりと言った。

その言葉は、不思議なほど自然に感じられた。

白石が尋ねた。

「丸井さん。あなたは、どんな国にしたいですか?」

月子は、少し考えた。

「丸髷が美しいって、みんなが思ってくれる国です」

「ええ」

「丸髷を結った女性たちが、堂々と街を歩けて……」

月子の声が、少しずつ弾んできた。

「男性たちも、丸髷を美しいって褒めてくれて……」

「素敵ですね!」

小春が笑った。

「それから、みんなが仲良く暮らせる国にしたいです」

月子は、真剣な顔になった。

「私、丸髷を笑われたとき、本当に悲しかったんです。

だから、私たちも、ほかの人の好きなものを笑ったりしない国にしたいです」

白石は、深くうなずいた。

「それが、何より大切なことですね」

こうして、丸髷王国の建設計画が始まった。

まずは、賛同者を集めることになった。

月子の宇宙旅行が世界中で話題になったおかげで、

今度は以前のように秘密にする必要はなかった。

白石たちは、丸髷を愛する人々が集まって暮らす共同体を作りたいと発表した。

すると、思いがけないほど多くの反響があった。

『ぜひ参加したいです!』

『丸髷が美しいと褒められる町なんて、素敵ですね』

『私も丸髷を結って暮らしてみたいです』

『丸髷を愛する男性として、ぜひ協力させてください』

月子は、届いたメッセージを読みながら、何度も目を潤ませた。

「こんなに、たくさん……」

小春も、嬉しそうだった。

「月子さん、もう一人じゃありませんね!」

「うん……!」

白石の協力によって、建設に必要な土地も見つかった。

緑豊かな丘陵地帯に広がる、静かで美しい場所だった。

近くには小川が流れ、遠くには山々が見えた。

空気は澄み、夜には星がよく見えるという。

月子は、初めてその土地を訪れたとき、思わず声を上げた。

「わあ……きれい!」

小春も辺りを見渡した。

「ここなら、素敵な町になりそうですね!」

白石は、穏やかに微笑んだ。

「周辺の共同体の方々も、協力してくださるそうですよ」

実際、近隣の自治共同体からは、建設のためのさまざまな支援が寄せられた。

建築に詳しい人々。

農業を営む人々。

庭園づくりを得意とする人々。

そして、日本の伝統文化に関心のある人々。

月子は、そんな人たちに何度も頭を下げた。

「ありがとうございます!」

ある共同体の代表者は、笑って言った。

「お互いさまですよ。

私たちも、自分たちの好きな暮らしを大切にしているんですから」

別の人も言った。

「丸髷の国ができたら、ぜひ遊びに行かせてくださいね」

「もちろんです!」

月子は、嬉しそうに答えた。

こうして、国づくりは少しずつ進んでいった。

もっとも、国といっても、独立した国家を作るわけではない。

法律上は、地域の制度に従って運営される自治共同体である。

ただし、住民たちの間では、親しみを込めて「丸髷王国」と呼ぶことになった。

月子は、その名前が大好きだった。

「丸髷王国……!」

何度口にしても、胸が弾んだ。

町には、美しい日本風の建物が少しずつ建てられていった。

木の温もりを感じる家々。

広々とした庭園。

人々が集まる広場。

そして、丸髷について学んだり、実際に結ってもらったりできる施設も作られた。

小春は、その施設づくりに熱心だった。

「丸髷だけじゃなくて、いろんな日本髪も紹介したいですね!」

「うん! いいね!」

月子も嬉しそうに答えた。

「でも、やっぱり、丸髷が一番好き!」

「それは、月子さんですものね!」

二人は笑い合った。

白石は、町全体の整備や運営を支えながら、ときどき二人の様子を見に来た。

「順調ですね」

「白石さん!」

月子は、ぱっと顔を輝かせた。

「見てください! 丸髷を結うためのお部屋ができたんです!」

「それは素晴らしい」

白石は、感心したようにうなずいた。

「ここで多くの人々が丸髷の美しさに親しめるといいですね」

「はい!」

やがて、少しずつ住民たちが移り住んできた。

丸髷を結う女性たち。

日本髪を愛する人々。

そして、丸髷の美しさを心から称賛する男性たち。

もちろん、全員が丸髷を結っているわけではなかった。

大切なのは、丸髷を愛する文化を尊重し、共に楽しく暮らすことだった。

ある日、月子が町を歩いていると、一人の男性が声をかけてきた。

「丸井さん、今日も美しい丸髷ですね」

月子は、思わず立ち止まった。

「……ありがとうございます!」

その少し先では、別の女性が笑顔で言った。

「月子さん、その髪飾り、とてもお似合いですよ!」

「嬉しい!」

月子は、満面の笑みを浮かべた。

かつて、丸髷を結って街を歩いたときは、人々に笑われてしまった。

けれども、今は違う。

丸髷を褒めてくれる人々がいる。

丸髷の美しさについて、楽しく語り合える人々がいる。

それは、月子がずっと夢見ていた光景だった。

「……幸せだなあ」

月子は、しみじみとつぶやいた。

その日の夕方、月子は小春と一緒に、建設中の町を見渡せる丘に登った。

夕日に照らされた家々が、柔らかな光に包まれていた。

「月子さん」

小春が言った。

「本当に、ここまで来ましたね」

「うん……」

「宇宙へ行ったときは、こんなことになるなんて、思いませんでした」

「私も」

月子は微笑んだ。

「遠い星に行かなきゃ、丸髷の国なんて作れないと思ってた」

小春は、静かにうなずいた。

「でも、地球にも、こんなに素敵な場所があったんですね」

「うん」

月子は、夕空を見上げた。

やがて、空には一番星が輝き始めた。

宇宙船の窓から見た星々を、月子は思い出した。

あのときは、夢を諦めて地球へ戻ってきた。

けれども、今はその地球に、夢が形となって現れようとしている。

「宇宙へ行って、よかったね」

月子は言った。

「はい!」

小春は笑った。

「宇宙に行かなかったら、こんなことにはならなかったかもしれませんものね!」

二人は、しばらく夕空を眺めていた。

そして、町の建設が一段落したころ、ある出来事が起こった。

住民たちが、月子に大切な話があるというのである。

月子は、町の集会所に招かれた。

そこには、白石や小春をはじめ、多くの住民たちが集まっていた。

「どうしたんですか?」

月子は、不思議そうに尋ねた。

すると、住民たちを代表して、白石が口を開いた。

「丸井さん。今日は、皆さんからお願いがあるのです」

「お願い?」

「ええ」

白石は微笑んだ。

「この丸髷王国は、あなたの夢から始まりました」

月子は、黙って聞いていた。

「あなたが丸髷の美しさを信じ、宇宙にまで旅立った。

その夢に私たちは心を動かされ、ここに集まったのです」

小春も、うなずいた。

「月子さんがいなかったら、この国はできませんでした」

月子は、少し照れくさくなった。

「そんな……私一人じゃ、何もできなかったのに」

「もちろん、みんなで作った国です」

白石は、穏やかに答えた。

「だからこそ、皆さんで話し合いました」

そして、少し間を置いて言った。

「丸井月子さん。どうか、この丸髷王国の初代女王になっていただけませんか?」

「……えっ?」

月子は、目を丸くした。

女王。

初代女王。

その言葉が、頭の中で何度も響いた。

「わ、私が……女王様に?」

小春が、嬉しそうに笑った。

「そうです! 月子さんが女王様になるんです!」

周囲の人々も、温かな笑顔でうなずいていた。

「ぜひ、お願いします!」

「月子さんこそ、私たちの女王にふさわしい方です!」

「丸髷王国の初代女王になってください!」

月子は、胸がいっぱいになった。

かつて、一人で夜空を見上げながら、

丸髷の女王になる自分を想像したことがあった。

あのときは、自分でもおかしくなって笑ってしまった。

まさか、その夢が、本当に現実になろうとは。

月子の目に、涙が浮かんだ。

「……私で、いいんでしょうか?」

白石が、優しく答えた。

「あなたがいいのです」

小春も笑った。

「みんな、月子さんが大好きなんです!」

月子は、集まった人々を見渡した。

誰も笑っていなかった。

いや、みんな笑っていた。

けれども、それは、かつて月子を傷つけた嘲笑ではなかった。

心からの喜びと、祝福に満ちた笑顔だった。

月子は、そっと涙をぬぐった。

そして、ゆっくりと頭を下げた。

「……ありがとうございます」

顔を上げた月子は、微笑んでいた。

「私でよければ、喜んでお引き受けします」

その瞬間、集会所は大きな拍手に包まれた。

小春は、嬉しさのあまり飛び跳ねた。

白石も、満足そうに微笑んでいた。

月子は、胸の前で両手を重ねた。

かつて、丸髷を笑われた一人の若い女性。

その女性が、宇宙を旅し、地球へ帰り、仲間たちと一つの国を作った。

そして今、その国の女王になろうとしている。

丸井月子の夢は、ついに、実現する日を迎えようとしていた。

集会所の窓からは、夕暮れの空が見えた。

そこには、星が一つ、また一つと輝き始めていた。

月子は、心の中で、そっとつぶやいた。

ありがとう、宇宙。

ありがとう、地球。

そして、ありがとう、丸髷。

あなたに出会えて、本当によかった。

(第5話 完)

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作者について

ケイモモ

ケイモモ

はじめまして、ケイモモです。 相棒の「ちいもも」と一緒に、物語の世界をのんびり旅しています。 読む人の心に、そっと小さな花が咲くような。 笑ったり、ドキドキしたり、ときには胸がきゅっとなるような...

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