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第四話

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/3 📚 シリーズ: 魔王倒して、無職になった英雄たちがノーパンメイド喫茶で働く話。 📝 2,640文字 ✅ 全年齢

あらすじ

入口のガラス戸が、ゆっくりと開いた。風鈴の音すら鳴らさぬほど静かな動作だったが、店内の空気は一変した。リナが老婦人に抹茶を届けた直後、カインたちの視線は全員、その入り口へ吸い寄せられていた。そこに立っていたのは、一人の美しい女性だった。

本文

 入口のガラス戸が、ゆっくりと開いた。

 風鈴の音すら鳴らさぬほど静かな動作だったが、店内の空気は一変した。リナが老婦人に抹茶を届けた直後、カインたちの視線は全員、その入り口へ吸い寄せられていた。

 そこに立っていたのは、一人の美しい女性だった。

 長い黒髪が肩口で揺れ、身に着けているのは質の高い仕立てのスーツ。だが、その足元には泥がこびりつき、右腕には包帯が巻かれている。彼女は店の中を見渡し、最後にカウンターに立つミレディアと、テーブルに座る灰の姿を確認すると、小さく頷いた。

「……遅くなったわね」

 女性の声は低く、掠れていた。それはエリナのそれとは違う、疲れ切った大人の声だった。

 カインが息を呑む。この顔を知っている。三年前、魔王城攻略戦の終盤、彼らを支援するために現れた魔法使いの一人——セレスティアだ。彼女は英雄パーティのメンバーではなく、独立系の魔術師として、カインたちと一時的に同盟を結んでいたはずだ。

「セレスティア?」

 カインが思わず名を呼ぶと、女性は驚いたように目を見開き、それから苦々しい笑みを浮かべた。

「あら、英雄様方。まだ生きていたのね。そして……なぜメイド服を着ているのかしら」

 セレスティアは店内を見回し、フリルのミニスカートと白いブラウスを纏ったカイン、エリナ、ロイド、そして新入りのリナを一瞥した。彼女の表情は困惑から呆れへと移り変わる。

「ノーパン……だと?」

 セレスティアが問いかけると、リナが冷静に答えた。

「仕様です。オーナーの方針により、下着類の着用は禁止されています」

「仕様……ふざけるな」

 セレスティアが吐き捨てるように言った。

 その時、灰が席を立ち、セレスティアの前に歩み寄った。彼は兜を外し、傷だらけの顔を晒す。

「セレスティア殿。久しぶりだな」

 セレスティアは灰を見て、一瞬固まった。

「……灰。お前もここにいるのか」

「雇われたのだ。生活のためにな」

 灰が淡々と答える。

「生活? お前はかつて、魔王軍の精鋭だった。金ならいくらでも稼げるはずだ」

「平和になった世界では、剣の腕だけでは飯は食えん。君も同じだろう」

 灰の言葉に、セレスティアは唇を噛んだ。確かに、彼女もまた、かつての栄光を失い、現在はフリーランスの魔術師として細々と生計を立てていた。しかし、こんな場所で働くことまでは想像していなかったのだろう。

「私は……用があって来たのよ」

 セレスティアはそう言いながら、スーツの内ポケットから封筒を取り出した。

「これは何だ?」

 カインが尋ねる。

「依頼書よ。最近、王都周辺で不審な魔力反応が増えていてね。調査員を探していたのだけど、信頼できる人物が見つからなくて……」

 セレスティアはカインたちを見た。

「あなたたちが『天罰』で働いているという噂を聞いて、訪ねてきたの。まさか本当にここでコーヒーを淹れているとは思わなかったけど」

「つまり、我々を助っ人として使おうというわけか」

 ロイドが冷たく指摘する。

「ええ。報酬は弾むわ。ただし、条件がある」

 セレスティアはミレディアの方を見た。

「オーナー。この子たちを、一時的に貸して頂戴。シフトの穴埋めは、私が責任を持って対応します」

 ミレディアは紫煙をくゆらせ、ニヤリと笑った。

「面白い提案ね。ただし、『天罰』のルールは破れないわ。仕事が終わったら、すぐに戻ってきてもらう。それと、外出中の服装も、原則として制服のままよ」

「……何?」

 カインが叫ぶ。

「外に出るのに、ノーパンで?」

「お客様へのサービス精神は、どこへ行っても変わらないべきでしょう? それに、もし事件現場で恥ずかしい思いをすれば、記憶に残って二度と忘れないわ。それがあなたの成長につながるかもしれない」

 ミレディアの理屈は暴論だった。だが、セレスティアは眉をひそめることなく、むしろ納得したような表情を見せた。

「なるほど。合理的ね。了解しました」

 セレスティアが即答した。

「待て! 俺たちは探偵じゃない!」

 カインが抗議するが、エリナが彼の袖を引いた。

「カインさん……報酬が弾むんですって。今月の家賃、払えますわ」

 エリナの目がキラキラしている。聖女としての矜持より、現実的な生存本能が勝っているようだった。

「……くそ」

 カインは項垂れた。

「ロイド、どうする?」

「行くぞ。ビジネスチャンスだ」

 ロイドは既にジャケット(これも制服の一部)を羽織り、準備万端だった。

「リナ、あなたは?」

 カインが新人を見る。

「私も行きます。指導係としての実務経験になりますし、何より……面白そうですもの」

 リナは挑発的に微笑み、灰を見た。

「灰さんは?」

「私は留守番だ。オーナーの護衛兼、店の警備を任されている」

 灰が座り直し、日記帳を開いた。

「じゃあ、決まりね」

 セレスティアが手を叩き、四人のスタッフを連れて店を出ようとした。

 その瞬間、店の奥から別の声が響いた。

「ちょっと待って!」

 振り返ると、厨房から出てきた若い男性——パートタイムのコックらしき人物が、怒った顔でこちらを見ていた。

「シフト変更は無断だよ! しかも、制服のまま外に出るなんて、衛生管理上問題だ!」

 コックの主張は正当だった。だが、ミレディアは動じない。

「いいえ、これは特別許可よ。オーナー権限で決定事項」

「……チッ」

 コックは舌打ちをして引き下がった。

 セレスティアは苦笑しながら、カインたちに言った。

「ご迷惑をおかけしてすみません。でも、本当に困っているの。王都の地下街で、謎の生物が出没しているらしい。魔力を吸収する性質を持つそうで……」

「魔力を吸収?」

 エリナが青ざめた。

「私のような聖女にとって、それは致命的な敵ですわ」

「だからこそ、あなたが必要なのよ。浄化の力を持ってるのは、今のところあなたしかいない」

 セレスティアはエリナの手を取った。

「お願い。この仕事をこなせば、あなたは再び『聖女』として認められるかもしれない」

 その言葉は、エリナの心を大きく揺さぶった。

「……わかりました」

 エリナが頷く。

 カインも、ロイドも、リナも、それぞれ異なる理由で同意を示した。プライド、金銭、好奇心、そして義務感。

 四人はセレスティアの後を追って、「天罰」の扉をくぐった。

 背後では、灰が窓の外を見つめ、呟いていた。

「……来るか」

 その瞳には、不安とも期待ともつかぬ光が宿っていた。

 夜の帳が降り始めた王都の街路。

 ノーパンメイド喫茶「天罰」の制服を纏った英雄たちが、再び動き出す。

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