第10話 命を吹き込む手
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
町工場の修理工・カイトは異世界に召喚されるも、ハズレスキル【リサイクル】を理由に「廃棄の谷」へ追放されてしまう。 だが、その真価はガラクタを神話級へと創り変える【超・資源再生(アップサイクル)】だった! 折れた剣は不壊の魔剣に、毒の霧は無限のエネルギーに、捨てられた機械人形は絶世の美少女(最強)へと大変身! 拾い人の少女や龍人族、没落令嬢らと共に、温泉付きの快適な要塞都市を築き上げていく。 一方、使い捨て社会のツケで破滅寸前の王国が「戻ってきて国を建て直してくれ!」と泣きついてくるが―― 「断る。俺の居場所は、あの最高のゴミ捨て場だ」 ガラクタだらけのどん底から始まる、痛快な領地開拓ファンタジー!
本文
工房の専用作業部屋に、張り詰めた静かな緊張感が漂っていた。
中央の頑丈な金属作業台の上には、泥と汚れを綺麗に拭き取られた銀髪の少女――ルナが静かに横たわっている。
作業台の周りには、最深部のクレーター周辺から集めてきた古代の希少金属や魔導回路の残骸が、整然と並べられていた。
「お兄ちゃん、冷たいお水と濡れタオル持ってきたよ! あと、拾ってきた使えそうな歯車と金属板も綺麗に洗っておいたからね!」
エマが小走りで駆け寄ってきて、作業台の脇のワゴンに道具や部品を手際よく並べた。
額に玉の汗を浮かべながらも、その琥珀色の瞳は真剣そのものだ。
「ありがとう、エマ。助かるよ」
「へいきへいき! 助手の仕事だもん! ……ねえ、お兄ちゃん。本当にあの子、助かるんだよね……?」
エマが心配そうにルナの胸元を見つめる。
胸の中央、ひび割れた装甲の奥で明滅している青い光は、今にも消え入りそうなほど小さく弱々しかった。
アビリティの解析が告げたタイムリミットまで、あと数時間も残されていない。
「ああ。絶対に直す。約束するよ」
俺は深く息を吸い込み、雑念を払って作業台の前に立った。
「よし……始めるぞ」
俺は両手をかざし、意識を極限まで研ぎ澄ませた。
「【解析(スキャン)】――【分解・精製(ディスアセンブル)】!」
作業部屋が、目も眩むようなエメラルドグリーンの光で満たされた。
ワゴンに積まれた古代の残骸が眩い光の粒子へと分解され、不純物を徹底的に削ぎ落とされた最高純度の【神聖魔導鋼】と【思念同調金属】のインゴットへと再結晶化していく。
まずは、失われた両腕と両足の再構築だ。
頭の中に、精密な設計図をミリ単位で描き出していく。ただ元の形に戻すだけじゃない。
関節の可動域を限界まで広げ、衝撃吸収材を何層にも重ね合わせ、人間の理想とする体形のフォルム。
そして、全身に張り巡らされる魔力伝導ラインには、最深部で回収した超伝導ワイヤーを惜しげもなく組み込んでいく。
「ジュウウウウウッ!」
心地よい熱を帯びた金属が、俺のイメージ通りに滑らかな四肢の形へと成形されていく。
白磁のように白く美しい肌の奥に、最強の剛性と柔軟性を兼ね備えた骨格が組み上がっていく。
「す、すごすぎる……。金属が生き物みたいに形を変えていく……」
エマが息を呑んで見守る中、俺は一瞬たりとも手を止めなかった。
指先の1ミリの狂いも許されない。
神経系となる極細の魔力ラインを、ルナの胴体の根元へと1本ずつ慎重に接続していく。
気の遠くなるような、神経を削る精密作業。
額からポタポタと汗が滴り落ちる。
集中が極限に達したその時、俺の脳裏に、忘れもしないあの日の記憶が不意によぎった。
(……そうだ。あの時も、俺は必死に手を動かしていたんだ)
元の世界にいた頃の、胸をえぐる記憶。
病室のベッドで横たわっていた、妹のほのか。
母の形見である、壊れて音の出なくなった古いオルゴール。
自分の間違いで捨ててしまい、雨の降る泥だらけの集積場から必死に探し出したあの夜。
何ヶ月もかけて、寝る間も惜しんで歯車を一つひとつ削り出し、完璧に直したはずだった。
だけど――完成したオルゴールを持って息を切らせて駆けつけた時、ほのかはもう、二度と目を覚ますことはなかった。
『どんなに完璧に直しても、手遅れだったら何も救えない』
あの冷たい病室で味わった、胸が張り裂けるような無力感と絶望。
二度と、あんな思いはしたくない。
目の前にある、まだ直せるはずの命を、二度と『手遅れのガラクタ』になんてさせるものか――!
「うおおおおおおおおっ!」
俺の魂の咆哮と共に、全身から溢れ出た魔力が黄金色の輝きを帯びた。
無くなっていた両腕と両足が、完璧な噛み合わせでルナの胴体へとガチリと接続された。
そして、最後にして最大の難関――心臓部である【主魔力炉(コア)】のアップサイクルだ。
ボロボロに砕け散りかけていたコアを、両手で包み込む。
谷の瘴気を浄化して溜め込んだ【超高密度蓄魔結晶】の膨大で純粋なエネルギーと、最深部で見つけた古代竜の骨の抽出材を、惜しみなくコアへと注ぎ込んでいく。
「目覚めろ……! 【超・資源再生(アップサイクル)】――生命再起動(リヴァイブ)!」
「カアアアアアッ!」
太陽の爆発のような眩い光が、ルナの胸の中央から解き放たれた。
◇
一方その頃――。
アルタリア王国の王宮にある、豪華を極めた訓練場。
「あー、クソッ! なんだよこの剣、全然切れねえじゃん!」
吐き捨てるように叫んだのは、召喚された勇者・ソウマだった。
手入れもされず、乱暴に硬い標的へ素振りを繰り返したせいで、国宝級の聖剣の刃先はあちこちが欠け、美しい刀身には何本ものヒビが入っていた。
「ゆ、勇者様! 聖剣の魔力回路に負荷がかかりすぎております! 一度腕利きの鍛冶師に見せ、魔石の油で研磨と調整を行わねば――」
慌てて駆け寄った侍従を、ソウマは鬱陶しそうに手で乱暴に払いのけた。
「あー、面倒くせえ! 研磨だの手入れだの、そんな地味なことやってられるかよ! 刃が欠けたなら、もっと強い新しい聖剣を持ってこいっての! 俺は世界を救う勇者さまだぞ? 使い捨ての武器なんていくらでも用意するのが王国の役目だろ!」
訓練場の特等席で豪華な椅子に深く腰掛け、高級な酒を煽っていたエドワード王子が、満足そうに高笑いを上げた。
「ははは! その通りだ、ソウマ殿! 壊れた道具など捨てて、新しい至高の剣をいくらでも創り出せばよい! 我が国の最先端の魔導技術と富は無限なのだからな! おい、武器庫からさらに上位の神聖剣を持ってまいれ!」
「は、ははっ……!」
青ざめた顔で走り去る侍従を見下ろしながら、ソウマはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた。
「やっぱこの国、最高だわー。あのゴミ拾いスキルのおっさん、今頃あの暗い谷底で野垂れ死んでんだろうな。ま、最初から主人公とモブの格の違いってやつだよな!」
傲慢な笑い声が、歪んだ繁栄に酔いしれる王宮の訓練場に虚しく響き渡っていた。
◇
――廃棄の谷、魔導装甲工房。
作業部屋の窓から、紫色の結界を通り抜けた清らかな朝の光が、静かに差し込んでいた。
「キィィィィン……」
作業台の上で、激しく渦巻いていた光の奔流がゆっくりと収まっていく。
「……できた」
俺は汗で濡れた前髪をかき上げ、荒い息を吐きながら作業台を見下ろした。
そこに横たわっていたのは、もはや壊れたガラクタの人形ではなかった。
傷一つない白銀の装甲を纏い、すらりと伸びた美しい両腕と両足。
胸元の中央には、深海のように深く澄んだ青い光を宿す、完全無欠の神聖魔導コアがしっかりと埋め込まれている。
「ドクン……」
静寂の中、力強い鼓動の音が響いた。
「ドクン、ドクン、ドクン……!」
胸のコアから放たれた青い魔力の光粒子が、全身に張り巡らされた回路を一気に駆け巡る。
首筋から頬へ、そして頭頂部へと光が巡り、銀色の髪がふわりと空中に浮き上がった。
「お、お兄ちゃん……! あの子の指が……動いたよ!」
エマが息を呑んで指差す。
作業台の上で、白く繊細な指先が、かすかにピクリと動いた。
そして――。
スウッ……と、長いまつ毛に縁取られたまぶたが、ゆっくりと持ち上がっていった。