【77番外】 相棒と聴く、いつもの音
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
時環遊技場の自動ドアが開いたのは、昼過ぎのことだった。
店内には、古い遊技機の電子音や玉の転がる音、常連客たちの話し声が入り混じっている。昭和の面影を残す店内に、未来都市の喧騒とはまた違った、独特の時間が流れていた。
「こんにちは。お邪魔します」
入ってきたのは、DJ-Spinだった。いつものように軽快な足取りで店内を見渡し、その後ろから、つるりとした球体がころころとついてくる。
球体の表面には小さなスピーカーがいくつも埋め込まれていた。時折、どこからともなく微かな音が漏れている。
カウンターで景品の整理をしていた店主が顔を上げ、二人を見て目を細めた。
「おやおや、Spinさん。今日はかわいらしいお連れさんがいらっしゃるんですねぇ」
「そうなんですよ。紹介します。こいつ、うちの相棒です」
Spinが球体の頭らしき部分に手を置くと、球体はぺこりと身を傾けた。
「はじめまして。いつもSpinさんにはお世話になっております」
「これはこれは、ご丁寧に。……しかし、ずいぶんと変わったお姿ですねぇ」
店主が興味深そうに眺めていると、通路の向こうから従業員アンドロイドがやってきた。二人の姿を認めた途端、ぴたりと足を止める。
「あっ! こちらの球体は、以前当店の音を集めていたお客様ではありませんか?」
その声に、近くで遊んでいたRB-4176とCL-2083まで振り返った。
「えっ、なになに? 音を集めてたって何!?」
「ちょっと待って、今の話めっちゃ気になるんだけど!」
二人はそろって駆け寄ってきた。RBは球体の周りをぐるりと回り、CLはスピーカーの穴を覗き込もうとする。
「以前、当店の音がなくなってしまったことがありまして。その原因のひとつが、こちらのお客様だったのです」
従業員アンドロイドが説明すると、RBは目を丸くした。
「ええっ!? マジっすか! 店の音、全部持ってっちゃったってこと!?」
「いやいや、そんなことあんの!? どうやって持ってったんだよ!」
二人の勢いに、球体は少しばかり身を縮めた。
「その節は、大変申し訳ありませんでした。あのときは、音を集めることに夢中になってしまいまして……」
「いえいえ、もう昔の話ですから。どうぞお気になさらないでください」
従業員アンドロイドは、落ち着いた調子でそう答えた。
店主もにこにこと頷いている。
「おやおや、そうでしたか。あの一件がご縁で、今では相棒になられたんですねぇ」
「そういうことです!」
Spinは少し得意げに胸を張った。
「こいつ、いろんな音を集めるのが好きなんですよ。前にここで音を集めていたときに知り合って、それからいろいろありましてね。最終的に、うちに来てもらうことになったんです」
「へえ〜! なんか映画みたいな話じゃん!」
「音を集めるのがきっかけで相棒になるって、なかなかないよな!」
RBとCLが感心していると、球体は嬉しそうに小さく揺れた。
「Spinさんには、本当にお世話になっております」
「いやいや、そんなかしこまらなくていいって!」
Spinが笑うと、店主も目尻を下げた。
「いい相棒に巡り会えて、よかったですねぇ。人と人とのご縁も不思議なものですが、こういうご縁もあるんですなぁ」
*
ひと通りの挨拶が済むと、Spinは球体を連れて店内を歩き始めた。
「さて、今日はゆっくり音を楽しんでいこうか」
「はい。こちらのお店には、興味深い音がたくさんありますね」
「だろ? まずはこの辺からいこう」
Spinが案内したのは、古い遊技機が並ぶ島だった。
球体は一台の前でぴたりと止まった。
チューリップが開閉する音。玉が釘に弾かれる音。役物が動くときの、少し頼りない駆動音。
それぞれの音が、球体のスピーカーを通して微かに響く。
「この音は……とても細かいですね。ひとつひとつ違う響きがあります」
「そうそう。古い台って、音にも個性があるんだよ」
Spinは隣の台を指さした。
「こっちはどう?」
ちょうど玉が入賞し、軽快な電子音が鳴り響いた。球体の表面にある小さなランプが、ぱっと点灯する。
「おお……!」
「気に入った?」
「はい。今の音は、とても華やかでした」
「じゃあ、次はあっち!」
Spinに促されるまま、球体は店内を移動していった。
大当たりを知らせるファンファーレ。ハンドルを回す音。玉が受け皿に落ちる音。常連客が台の前で思わず漏らした歓声。そのひとつひとつに、球体は耳を傾けていた。
「うわっ、今の音いいですね!」
「こっちの台も聞いてみたいです!」
いつしか球体のほうが、Spinを引っ張るようにして次の島へ向かっていた。
「おっ、ずいぶん積極的になったじゃないか!」
「まだ聞いていない音が、たくさんありますから」
その様子を見ていたRBとCLが、顔を見合わせた。
「なんか、めっちゃ楽しそうじゃん!」
「ね! あの球体、こんなに元気だったんだ!」
CLが感心したように呟くと、RBはにやりと笑った。
「よーし! じゃあ俺らも、とっておきの音を紹介してやるよ!」
「えっ、何それ!? 俺も聞きたい!」
二人は球体を連れて、別の島へと駆け出していった。
「お待ちください! どちらへ向かわれるのですか?」
「いいからいいから! こっちこっち!」
球体の戸惑った声が、賑やかな店内に吸い込まれていく。
Spinはその後ろ姿を見送りながら、楽しそうに笑った。
「ははっ。すっかり人気者だな」
*
しばらくして、店内のあちこちから、いつもとは少し違う音が聞こえてくるようになった。
玉の転がる音に混じって、どこか遠くの街を走る列車の警笛。古いラジオから流れるような、かすれた音楽。風が吹き抜ける音に、鳥のさえずり。
球体のスピーカーから漏れ出した音が、遊技場の音と重なり合っていたのだ。
「……おや?」
カウンターにいた店主が、ふと顔を上げた。
「今、汽笛のような音がしませんでしたかねぇ?」
「はい。確かに、列車の警笛のような音が聞こえました」
従業員アンドロイドも店内を見回す。
「えっ、何? どっかで音楽鳴ってない?」
「いや、こっちは鳥の声がしたんだけど!?」
RBとCLが騒ぎ始めたところで、Spinがようやく異変に気づいた。
「あっ……おい、まさか!」
振り返ると、球体が店内の中央でぴたりと止まっていた。
「すみません。いろいろな音が嬉しくて、つい……」
球体のスピーカーから、街の音が微かに流れ続けている。
「なるほど、集めた音が出てきてしまっているのですね」
従業員アンドロイドは状況を確認すると、球体に向き直った。
「恐れ入りますが、いったん音の再生を停止していただけますか? ほかのお客様も驚かれているようですので」
「はい。申し訳ありません」
球体が音を止めようとした、そのときだった。
Spinが片手を上げた。
「いや、ちょっと待って」
店内に響く、遠い列車の音。その後に続く、風の音。さらにその向こうから、聞いたことのない誰かの笑い声が微かに聞こえた。
Spinは耳を澄ませた。
「……いいじゃないか。いろんな音が混ざって、なんだか面白い」
「そうですねぇ」
店主もゆっくりと頷いた。
「普段は聞くことのない音まで聞こえてくるんですから、不思議なものですねぇ」
「ですが、音量は調整したほうがよろしいかと思います」
従業員アンドロイドが穏やかに付け加える。
「もちろん。そこはちゃんとやりますよ」
Spinは球体に目配せした。
「せっかくだし、みんなが楽しめるくらいの音で聞かせてよ」
「わかりました〜」
球体は少しずつ音量を調整した。
列車の警笛が遠ざかり、代わりに柔らかな音楽が流れ始める。そこへ、店内の玉の音と電子音が重なった。
不思議な音の風景だった。
昭和の遊技場と、遠い未来の街。そして、どこか知らない場所の記憶。それらがひとつになって、時環遊技場の中を満たしていた。
「……おお、これはなかなか面白いですなぁ」
店主は腕を組み、目を細めた。
「遊技場というのは、台の音だけでできているわけではありませんからねぇ。人の声も、笑い声も、こういう不思議な音も……全部ひっくるめて、店の音なんでしょうなぁ」
その言葉に、Spinは静かに頷いた。球体のランプが、柔らかく明滅する。
「……私も、そう思います」
その声は、いつもより少しだけ弾んでいた。
*
夕方になり、二人が帰る時間がやってきた。
「本日はありがとうございました。とても楽しかったです」
球体は店主と従業員アンドロイドに向かって、丁寧に頭を下げた。
「こちらこそ、ありがとうございました。またぜひお越しください」
従業員アンドロイドが笑顔で見送る。
「いやぁ、今日は賑やかでしたねぇ。またいつでもいらしてください。お待ちしておりますよ」
店主も嬉しそうに頷いた。
「次はもっといろんな音、教えてやるからな!」
「そうそう! 俺のおすすめの台も聞かせてやるよ!」
RBとCLが口々に言う。
「ありがとうございます。ぜひ、また来たいです」
球体が嬉しそうに答えると、Spinが隣からひょいと顔を出した。
「そうだ。今度また来たら、パチンコ打ってみます?」
「……はい?」
球体が不思議そうに揺れる。
「いや、いつも音を聞いてるだけじゃなくてさ。実際に遊んでみるのも面白いと思うよ?」
球体はしばらく黙っていた。頭の中で、玉の転がる音や、役物が動く音、大当たりのファンファーレが次々と思い出されているのかもしれない。
「……私にも、遊べるでしょうか」
「そりゃもちろん!」
Spinがカウンターへ振り返った。
「店主さん、いいですよね?」
「もちろんですとも!」
店主はすぐに笑顔で答えた。
「うちは、初めてのお客様も大歓迎ですからねぇ。遊び方なら、皆さんでゆっくりお教えしますよ」
「ありがとうございます。ぜひ、挑戦してみたいです」
「マジっすか! 次は球体さんの初打ちじゃん!」
「うわー、絶対見に来よう! どの台打つんだろ!?」
RBとCLは、もう次の来店が楽しみで仕方ないという様子だった。
球体は店内を振り返った。
古い遊技機の電子音。玉の弾ける音。店主の笑い声。常連客たちの賑やかな声。
そして、隣にいるSpinの声。
どれも違う。どれも、かけがえのない音だった。
「Spinさん」
「ん?」
「今日は、たくさんの音を聞くことができました」
球体の小さなランプが、穏やかに明滅する。
「ここに来て、本当によかったです」
Spinは一瞬だけ目を細め、それからいつもの調子で笑った。
「だろ? 音ってさ、ひとりで聞くのもいいけど、誰かと一緒に聞くと、もっと面白いんだよ」
「……はい」
二人は並んで、自動ドアへと向かった。
扉が開く直前、店内から大当たりのファンファーレが鳴り響いた。球体はぴたりと止まり、くるりと振り返る。
「……今の音も、もう一度聞いてよろしいでしょうか」
「ははっ! いいよいいよ。今日は時間、たっぷりあるからさ!」
Spinが笑う。
その背後では、RBとCLが「次は絶対打ってもらおうぜ!」「いや、まずは台選びからだろ!」と、早くも次回の計画を立てていた。
店主はカウンターから二人を見送りながら、満足そうに頷いた。
「いやぁ、賑やかな一日でしたねぇ」
「はい。本日は、いつもとは違う音も楽しめましたね」
従業員アンドロイドも微笑んだ。
「しかし、あの球体がパチンコを打つ日が来るとはなぁ」
「次回は、どの台をおすすめしましょうかねぇ」
店主は早くも、次の来店に思いを巡らせている。
自動ドアが閉まると、いつもの時環遊技場の音が戻ってきた。
玉の音。電子音。人々の声。
そこにはもう、どこかへ持ち去られてしまうことを恐れる必要のない、いつもの音があった。そして次にあの球体がやってくる日には、きっとまた新しい音が生まれるのだろう。
今度は、玉を打つ音も加わって。
時環遊技場の賑やかな一日は、まだまだ終わりそうになかった。