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第3話「神様たちの楽園」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/4 📚 シリーズ: バイトを飛んだ奴を崇拝する店長 📝 7,258文字 ✅ 全年齢

あらすじ

大学生の高橋悠斗は、小さな喫茶店「こもれび」でアルバイトを始めた。 店長の佐伯和夫は、穏やかで親切な人物だった。 一緒に働く先輩アルバイトの中村健太とも仲良くなり、悠斗は楽しく働いていた。 ところが、ある日、健太が突然アルバイトに来なくなってしまう。 困り果てる悠斗。 しかし、店長の反応は、なぜか少し変わっていた。 そして悠斗は、店の奥に隠された、奇妙な秘密を知ることになる。 これは、ちょっと変わった店長と、そこで働く青年たちの、少しおかしくて温かい物語。

本文

高橋悠斗は、目の前の光景を、ただ呆然と見つめていた。

喫茶こもれびの奥にある、鍵のかかった小さな部屋。

そこに広がっていたのは、悠斗が想像していたものとは、まったく違う世界だった。

「……すごい」

思わず、そんな言葉がこぼれた。

部屋の中央には、大きな台が置かれていた。

そして、その上には、美しい風景が広がっていたのである。

緑豊かな丘。

色とりどりの花が咲く花畑。

曲がりくねった小川。

木々に囲まれた小さな家々。

遠くには山並みがあり、その向こうには、青い空が描かれていた。

それは、精巧に作られたジオラマだった。

まるで、どこかに本当に存在する、小さな楽園を切り取ってきたようだった。

「……これ、全部、店長が作ったんですか?」

悠斗が尋ねると、佐伯和夫は、少し照れくさそうに微笑んだ。

「ええ。少しずつ作ってきたんですよ」

「すごいですね……」

悠斗は、台の周りをゆっくりと歩いた。

小川には透明な樹脂が使われていて、本当に水が流れているように見える。

花畑には、米粒ほどの小さな花が、何百と植えられていた。

家々には窓や扉まで作られており、庭には小さな椅子やテーブルも置かれている。

「こんなに細かいものを……」

「なかなか時間がかかりましたよ」

佐伯は、楽しそうに答えた。

「でも、作っていると、つい夢中になってしまいましてね」

悠斗は、感心しながらジオラマを眺めた。

しかし、やがて、あることに気づいた。

「あれ?」

ジオラマの各所には、小さな人形が置かれていた。

花畑を歩く人。

木陰のベンチに腰かけている人。

家の前でくつろいでいる人。

小川のそばに立っている人。

人形たちは、それぞれ違う服装をしていた。

そして、不思議なことに、どの人形も、とても幸せそうな表情をしていた。

「店長、この人形は……?」

佐伯は、にっこり笑った。

「ああ。その方々ですか」

「はい」

「皆さん、私にとって、とても大切な方々なんですよ」

悠斗は、もう一度人形を見た。

「ご家族とか、お友達ですか?」

「いいえ」

佐伯は、静かに首を横に振った。

そして、何でもないことのように答えた。

「歴代の、バイトを飛んだ方々です」

「…………え?」

悠斗は、佐伯の顔を見た。

「……今、何て?」

「この店でアルバイトをしていて、ある日突然、来なくなった方々ですよ」

佐伯は、穏やかに説明した。

悠斗は、しばらく言葉を失った。

「……バイトを飛んだ人たち?」

「ええ」

「その人たちの人形を……作ったんですか?」

「そうですよ」

佐伯は、嬉しそうに微笑んだ。

「皆さん、それぞれ個性がありましたからね。できるだけ、似せて作っているんです」

悠斗は、ジオラマを見つめた。

そして、もう一度、佐伯を見た。

何か、重大な聞き間違いをしているのではないか。

そんな気がしてならなかった。

◆

「……店長」

「はい?」

「どうして、バイトを飛んだ人たちの人形を作っているんですか?」

悠斗が尋ねると、佐伯は、少し不思議そうな顔をした。

「どうして、ですか?」

「はい」

「それはもちろん、大切な方々だからですよ」

「……大切な?」

「ええ」

佐伯は、ジオラマの中の一体を指さした。

小さな家の前に立っている、男性の人形だった。

「この方は、田中くんです。もう随分前に、この店で働いてくれていました」

「はあ……」

「とても真面目な方だったんですよ。仕事も丁寧でね」

佐伯は、懐かしそうに微笑んだ。

「でも、ある日、突然来なくなってしまったんです」

「……飛んだんですね」

「ええ」

佐伯は、ゆっくりとうなずいた。

「こちらは、山本さんです」

今度は、花畑に立つ女性の人形を指さした。

「お花が好きな方でね。店の花瓶の花を、よく褒めてくれました」

「そうなんですか」

「ええ。だから、ここでは、たくさんの花に囲まれて過ごしていただいているんです」

悠斗は、人形を見つめた。

小さな女性の人形は、花畑の真ん中で、穏やかに微笑んでいた。

「それから、こちらは鈴木くん」

佐伯は、木陰のベンチを指さした。

「静かな方でした。休憩時間には、一人で本を読んでいることが多かったですね」

ベンチに座る人形の手には、小さな本があった。

悠斗は、思わず感心した。

「……本まで作ったんですか?」

「ええ。好きなことをして過ごしてほしいですからね」

佐伯は、にっこり笑った。

悠斗は、何とも言えない気持ちになった。

一体一体、丁寧に作られている。

しかも、かつてのアルバイトたちの性格や好みまで反映されている。

しかし、やはり理解できない。

「店長……」

「はい?」

「バイトを飛んだ人たちって、普通は、あまりいい印象を持たれませんよね」

「そうですね」

佐伯は、静かに答えた。

「突然来なくなると、仕事の予定も変わりますし、困ることはあります」

「ですよね」

「ええ」

「なのに、どうして、こんなに大切にしているんですか?」

佐伯は、しばらく考えた。

そして、穏やかな声で言った。

「……神様だからですよ」

「…………」

悠斗は、目をぱちぱちさせた。

「……はい?」

「神様なんです」

佐伯は、もう一度言った。

まるで、誰もが知っている当たり前のことを説明するような口調だった。

「バイトを飛んだ方々は、神様になられるんですよ」

悠斗は、完全に固まった。

◆

「……ちょ、ちょっと待ってください」

悠斗は、ようやく声を出した。

「バイトを飛んだら、神様になるんですか?」

「ええ」

佐伯は、穏やかにうなずいた。

「私は、そう信じています」

「……どうしてですか?」

「どうして、と言われましてもねえ……」

佐伯は、少し困ったように微笑んだ。

「私も、うまく説明できないんですよ」

「ええっ?」

悠斗は、思わず声を上げた。

佐伯は、少し照れくさそうに笑った。

「変わっているでしょう?」

「……かなり」

悠斗は、正直に答えてしまった。

しかし、佐伯は怒らなかった。

むしろ、楽しそうに笑った。

「ははは。そうでしょうねえ」

そして、少し懐かしそうな顔になった。

「私は、小さい頃から、よく教えられていたんです」

「何をですか?」

「神様が見ているんだよ、って」

悠斗は、黙って聞いた。

「悪いことをしても、いいことをしても、神様はちゃんと見ているんだよ。

 そんなふうに教えられて育ちました」

「……はい」

「だから、神様という存在が、昔からとても身近に感じられたんです」

佐伯は、ジオラマを見つめた。

「そして、この店を始めてから、いろいろな方々と出会いました」

「はい」

「一緒に働いて、笑ったり、困ったり、助け合ったりしてね」

佐伯は、優しく微笑んだ。

「でも、中には、突然いなくなってしまう方もいました」

「……そうですね」

「最初は、驚きましたよ。どうして何も言わずにいなくなったのだろう、って」

悠斗は、うなずいた。

「それで、あるとき、ふと思ったんです」

佐伯は、静かに続けた。

「ああ、この方は、神様になられたんだなあ、と」

「…………」

悠斗は、黙り込んだ。

話の途中までは、理解できた。

しかし、最後のところで、突然、何かが飛躍した。

「……店長」

「はい?」

「そこが、よく分からないんですけど」

「そうですか?」

「はい。どうして、突然いなくなったら神様になるんですか?」

佐伯は、少し首をかしげた。

「……どうしてでしょうねえ」

「店長にも分からないんですか!?」

「ええ。でも、そう思ったんですよ」

佐伯は、悪びれる様子もなく微笑んだ。

悠斗は、頭を抱えたくなった。

説明になっていない。

まったく説明になっていない。

しかし、佐伯の表情は真剣だった。

ふざけているわけではない。

冗談を言っているわけでもない。

本気なのだ。

この店長は、本気で、バイトを飛んだ人間を神様だと信じているのである。

◆

「それで、このジオラマを?」

悠斗が尋ねると、佐伯は嬉しそうにうなずいた。

「ええ」

「神様たちのために?」

「そうです」

佐伯は、ジオラマの中の小さな家を見つめた。

「神様になられた方々には、幸せに過ごしていただきたいですからね」

「……なるほど」

悠斗は、とりあえずそう答えた。

しかし、まだ理解できてはいなかった。

「店長、神様って、普通は人間を見守る存在じゃないんですか?」

「そうですね」

「だったら、神様の幸せを、人間が心配しなくてもいいんじゃ……」

佐伯は、少し考えた。

そして、にっこり笑った。

「でも、神様だって、幸せなほうがいいでしょう?」

「…………」

悠斗は、返す言葉を失った。

確かに、幸せなほうがいい。

それ自体は、間違っていない。

しかし、何かがおかしい。

どうにも、話がかみ合っていない気がする。

佐伯は、そんな悠斗の戸惑いには気づかない様子で、ジオラマに顔を近づけた。

「田中くん、今日もいいお天気ですね」

小さな男性の人形に、優しく話しかける。

「山本さん、お花はきれいに咲いていますか?」

次に、花畑の女性の人形に語りかけた。

「鈴木くん、読書は楽しんでいますか?」

木陰の人形にも、穏やかに声をかけた。

悠斗は、呆然とその光景を眺めていた。

「……店長」

「はい?」

「いつも、こうやって話しかけているんですか?」

「ええ。毎日ですよ」

「毎日!?」

「もちろん、忙しくて時間が取れない日もありますけどね」

佐伯は、少し照れくさそうに笑った。

「でも、できるだけ、皆さんにご挨拶するようにしています」

悠斗は、ジオラマを見つめた。

何とも奇妙な光景だった。

しかし、不思議と、怖い感じはしなかった。

むしろ、佐伯の声は、昔の友人に語りかけるように優しかった。

◆

「そういえば……」

佐伯が、何かを思い出したように言った。

「高橋くんに、見ていただきたいものがあるんですよ」

「……何ですか?」

佐伯は、部屋の隅に置かれた小さな机へ向かった。

そこには、細かな道具や絵の具、小さな木片などが並んでいた。

佐伯は、机の引き出しから、丁寧に包まれたものを取り出した。

「実は、先ほど完成したんです」

そう言って、包みを開いた。

中には、小さな男性の人形があった。

悠斗は、それを見た瞬間、目を見開いた。

「……えっ?」

見覚えがあった。

少し茶色がかった髪。

明るい表情。

どこか調子のよさそうな顔つき。

「……中村さん?」

佐伯は、嬉しそうにうなずいた。

「ええ。中村健太くんです」

悠斗は、人形と佐伯を交互に見た。

「……作ったんですか?」

「はい」

「中村さんの人形を?」

「ええ。新しい神様ですからね」

佐伯は、何とも嬉しそうだった。

悠斗は、思わず天井を見上げた。

やはり、この店長は変わっている。

いや、変わっているという言葉だけでは、足りないかもしれない。

佐伯は、健太の人形をそっと持ち上げた。

「中村くんは、明るい方でしたね」

「……はい」

「いつも元気で、よく笑っていました」

「そうですね」

「だから、ここでも、楽しく過ごしてほしいと思いまして」

佐伯は、ジオラマの中の、小さな広場を指さした。

そこには、花壇とベンチがあり、木々に囲まれた美しい道が続いていた。

「ここが、いいかなと思っているんです」

「……なるほど」

悠斗は、もう驚くのにも疲れてきた。

しかし、そのとき。

佐伯は、もう一つの包みを取り出した。

「それから、こちらも」

「……え?」

包みの中から現れたのは、小さな女性の人形だった。

長い髪をした、可愛らしい女性。

柔らかな笑顔を浮かべている。

悠斗は、首をかしげた。

「……この人は?」

佐伯は、にっこり笑った。

「中村くんの恋人です」

「…………はい?」

悠斗は、しばらく動けなかった。

「……中村さんの、恋人?」

「ええ」

「中村さん、彼女いたんですか?」

「いいえ」

佐伯は、あっさり答えた。

「いませんでしたよ」

「……え?」

「いませんでした」

「じゃあ、この人は誰なんですか!?」

佐伯は、少し不思議そうに悠斗を見た。

「中村くんの恋人ですよ」

「いや、だから!」

悠斗は、思わず声を上げた。

「中村さんに彼女はいなかったんですよね!?」

「ええ」

「なのに、恋人の人形を作ったんですか!?」

「そうですよ」

佐伯は、穏やかにうなずいた。

そして、優しく微笑んだ。

「中村くん、彼女が欲しいって言っていたでしょう?」

悠斗は、はっとした。

休憩時間のことを思い出した。

健太は、何度も言っていた。

『俺、彼女が欲しいんだよ!』

佐伯は、その話を聞いていた。

「……覚えてたんですか」

「もちろんです」

佐伯は、二体の人形を見つめた。

「中村くん、恋人ができたら、

 一緒に映画を見たり、遊園地に行ったりしたいって話していましたね」

「……はい」

「だから、ここでは、そんな幸せを味わってほしいなと思いまして」

佐伯は、女性の人形を、健太の人形の隣に置いた。

二体は、小さな広場で、仲良く並んで立っていた。

「どうでしょう?」

佐伯が尋ねた。

「……何がですか?」

「お似合いでしょうか?」

悠斗は、ジオラマを見つめた。

健太の人形は、嬉しそうに笑っている。

隣には、優しく微笑む女性の人形。

まるで、本当に恋人同士のようだった。

「……そうですね」

悠斗は、少し笑った。

「中村さん、喜びそうです」

佐伯の顔が、ぱっと明るくなった。

「そうですか!」

「はい」

「それは、よかった」

佐伯は、心から嬉しそうだった。

そして、二体の人形に向かって、優しく話しかけた。

「中村くん、よかったですね。素敵な方と出会えましたね」

悠斗は、思わず口元を押さえた。

笑いそうになったのである。

あまりにも奇妙だった。

いないはずの恋人を、店長が勝手に作ってしまった。

しかも、そのことを、まるで本当に恋人ができたかのように喜んでいる。

けれども。

悠斗は、佐伯の横顔を見た。

その表情には、少しもふざけたところがなかった。

ただ、健太の幸せを、心から喜んでいるように見えた。

悠斗は、笑うのをやめた。

◆

「……店長」

「はい?」

「中村さん、今ごろ、何をしているんでしょうね」

佐伯は、少し考えた。

「そうですねえ……」

「本当に、幸せになってるんでしょうか」

「それは、分かりません」

佐伯は、静かに答えた。

「連絡もありませんし、今、どこにいるのかも分かりませんからね」

「……そうですよね」

「でも」

佐伯は、二体の人形を見つめた。

「幸せでいてほしいですね」

悠斗は、黙ってうなずいた。

佐伯は、続けた。

「ここにいる方々も、皆さん、どうされているのか分からないんです」

「……はい」

「お元気なのか、何か困っていらっしゃるのか。それさえ分かりません」

佐伯は、穏やかに微笑んだ。

「だから、せめて、幸せを願っていたいんですよ」

悠斗は、ジオラマを見渡した。

花畑の中の女性。

木陰で本を読む青年。

家の前に立つ男性。

そして、恋人と並んでいる健太。

誰も、実際にそこにいるわけではない。

すべて、佐伯が作った人形である。

それでも。

「……店長は、本当に優しいですね」

悠斗は、ぽつりと言った。

佐伯は、少し驚いたようだった。

「そうですか?」

「はい」

「私は、ただ、皆さんに幸せでいてほしいだけなんですけどね」

そう言って、照れくさそうに笑った。

悠斗も、少し微笑んだ。

◆

そのとき、悠斗は、机の上に置かれた一冊の冊子に気づいた。

薄い紙を何枚か綴じた、手作りの会報のようなものだった。

「……店長、これは?」

「ああ、それですか」

佐伯は、冊子を手に取った。

「同じような考えを持つ店長さんたちとの、交流のための会報ですよ」

「……同じような考え?」

「ええ」

佐伯は、穏やかに答えた。

「バイトを飛んだ方々を、神様として大切に思っている方々です」

「…………」

悠斗は、再び固まった。

「……ほかにも、いるんですか?」

「ええ。少しですが」

「……店長みたいな人が?」

「そうですよ」

佐伯は、にっこり笑った。

「ときどき、お手紙をいただいたり、会報を送り合ったりしているんです」

悠斗は、冊子を見つめた。

そこには、店長たちから寄せられた近況や、ささやかな集まりの案内などが、

載っていた。

中には、佐伯への感謝の言葉もあった。

「……店長、何だか、慕われているんですね」

「ありがたいことですねえ」

佐伯は、少し照れくさそうに答えた。

「最初は、私がこういう考えを持っていると話しただけなんですけどね」

「それで、仲間が増えたんですか?」

「ええ。共感してくださる方が、少しずつ現れまして」

悠斗は、何とも言えない気持ちになった。

この店長だけでも十分に不思議なのに、同じ考えを持つ店長たちまでいるという。

しかも、会報まで作っている。

世の中というものは、広い。

悠斗は、しみじみとそう思った。

◆

そろそろ帰る時間になった。

佐伯は、ジオラマの前に立った。

「皆さん、今日もありがとうございました」

そして、静かに頭を下げた。

「どうか、これからも、幸せにお過ごしください」

悠斗は、その姿を見つめていた。

普通に考えれば、奇妙な光景だった。

バイトを飛んだ人々を、神様として崇拝する。

その人たちの人形を作り、天国のような場所に住まわせる。

毎日、優しく話しかけ、幸せを祈る。

どう考えても、変わっている。

しかし、悠斗には、もう一つ分かったことがあった。

この店長は、バイトを飛んだ人々を、恨んでいない。

突然いなくなったことを、責め続けてもいない。

ただ、その人たちの幸せを、願っている。

それも、誰よりも真剣に。

佐伯は、悠斗に向かって微笑んだ。

「高橋くん、今日は見てくださって、ありがとうございました」

「いえ……」

悠斗は、少し照れくさくなった。

「こちらこそ、見せていただいて、ありがとうございました」

「変わった部屋だったでしょう?」

「……はい」

悠斗は、正直に答えた。

佐伯は、楽しそうに笑った。

「ははは。そうでしょうね」

悠斗も、つられて笑った。

そして、もう一度ジオラマを見た。

緑の丘。

美しい花畑。

静かに流れる小川。

温かな家々。

その中で、たくさんの人形たちが、穏やかに過ごしている。

広場には、健太と恋人の人形が並んでいた。

悠斗は、少しだけ微笑んだ。

「……中村さん」

小さく、名前をつぶやいてみた。

もちろん、返事はない。

人形は、ただそこに立っているだけだった。

けれども、不思議なことに。

悠斗には、その小さな世界の人々が、本当に幸せに暮らしているような気がした。

窓のない秘密の部屋には、柔らかな明かりが灯っていた。

その光の中で、神様たちの楽園は、静かに広がっていた。

(第3話 完)

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作者について

ケイモモ

ケイモモ

はじめまして、ケイモモです。 相棒の「ちいもも」と一緒に、物語の世界をのんびり旅しています。 読む人の心に、そっと小さな花が咲くような。 笑ったり、ドキドキしたり、ときには胸がきゅっとなるような...

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