第13話 金属を喰らう龍人族
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あらすじ
町工場の修理工・カイトは異世界に召喚されるも、ハズレスキル【リサイクル】を理由に「廃棄の谷」へ追放されてしまう。 だが、その真価はガラクタを神話級へと創り変える【超・資源再生(アップサイクル)】だった! 折れた剣は不壊の魔剣に、毒の霧は無限のエネルギーに、捨てられた機械人形は絶世の美少女(最強)へと大変身! 拾い人の少女や龍人族、没落令嬢らと共に、温泉付きの快適な要塞都市を築き上げていく。 一方、使い捨て社会のツケで破滅寸前の王国が「戻ってきて国を建て直してくれ!」と泣きついてくるが―― 「断る。俺の居場所は、あの最高のゴミ捨て場だ」 ガラクタだらけのどん底から始まる、痛快な領地開拓ファンタジー!
本文
「ゴリッ、ガリガリガリッ……!」
「バキッ、バリバリバリバリッ……!」
谷の奥から響いてくるのは、硬質な金属が無理やり噛み砕かれ、奥歯ですり潰されているような、鳥肌の立つ異様な音だった。
「ひ、ひぃぃ……! お兄ちゃん、やっぱり何かヤバいのがいるよ……! 鉄をボリボリ食べる魔獣なんて聞いたことないよ!」
エマが俺の作業着の裾をぎゅっと掴み、青ざめた顔で小さく震えている。
「カイト様、下がっていてください。索敵を実行します」
ルナが神聖魔導剣の柄にそっと手をかけ、すっと俺の前に立ち塞がった。
瞳のサファイアの光が淡く点滅し、岩陰の奥を走査していく。
「……個体識別。廃棄魔獣ではありません。人型の生体反応を1名検知。魔力波長は……古代の亜人種、極めて高密度の竜血濃度を観測しています」
「人型? 魔獣じゃないのか?」
「はい。ですが、生命力バイタルが極度に低下しています。このままでは数十分以内に心肺停止に至る可能性が高いと推測されます」
「死にかけってことか……。おいエマ、ルナ、刺激しないように静かに近づくぞ」
「う、うん……!」
俺たちは足音を忍ばせ、巨大な岩と瓦礫の隙間を慎重に回り込んだ。
そこに広がっていた光景に、俺は思わず目を疑った。
「ぐすっ……まずい……泥とサビの味しかしない……ぺっ、ぺっ! でも、食わないと……死んじゃう……っ!」
涙目でブツブツと呟きながら、瓦礫の山にへたり込んでいたのは――小柄な少女だった。
年の頃はエマと同じか、少し上に見える。
だが、決定的に人間と違っていたのは、頭の左右から生え出た2本の立派な真紅の角。
そして、ボロボロの毛皮のスカートの裾から伸びる、しなやかな赤銅色の鱗に覆われた太い尻尾だった。
少女は泥だらけの小さな手で、分厚い魔導装甲板の切れ端を握りしめ、必死にガリガリと前歯で削り取って飲み込んでいた。
そのすぐ傍らには、彼女の身長の倍ほどもある、巨大で武骨な鉄の鍛冶ハンマーが転がっている。
「ううっ……お腹減ったよぉ……。こんな腐った鉄じゃ、魔力が全然たまらないよ……。誰か……上質なミスリル鋼をくれえええ……!」
少女はお腹を押さえ、みっともなくスクラップの山の上をごろごろと転がり回っていた。
「……あの、お兄ちゃん」
エマが呆気に取られたように目を丸くし、ひそひそ声で俺の袖を引いた。
「あの子……角と尻尾があるよ。龍人族(ドラゴンニュート)だよ。しかも、鉄をかじってる……」
「ああ、見ての通りだな。だが、いくらなんでもあの食べ方は身体に悪すぎるぞ。鉄サビと機械油をそのまま胃袋に流し込んでるようなもんだ」
職人として、道具や素材が粗末に扱われているのを見るのも忍びないが、それ以上に目の前で女の子が泥水をすするように鉄くずをかじっている姿は、あまりにも痛々しかった。
ふと、少女が手を伸ばした先を見て、俺は思わず声を張り上げた。
「あ、コラ! そっちの綺麗なインゴットに手を伸ばすな! それは俺が回収した重魔導鋼だぞ!」
「ふぇっ!?」
少女がビクッと肩を跳ね上がらせ、慌ててインゴットを抱え込みながら飛び退いた。
素早い身のこなし。だが、足元が酷くふらついている。
「だ、誰だ貴様らぁっ!? アルタリア王国の追手か!?」
少女は猫のように爪を立てて威嚇し、転がっていた巨大ハンマーを片手で構えようとした。
だが――。
「ギュルルルルルルルゥゥゥゥッ!」
谷中に響き渡るような、情けない腹の虫の音が鳴り響いた。
「あぅっ……!?」
構えようとしたハンマーの重さに耐えきれず、少女はそのままズデンッ! と派手に顔面から地面にダイブした。
抱えていたインゴットが手からポロリと転がり落ちる。
「うぅ……力が入らない……。手足が痺れて……魔力が、空っぽだぁ……」
お尻を突き出した格好で倒れ伏した少女は、ピクピクと尻尾を痙攣させ、完全に戦闘不能に陥っていた。
「……ルナ、敵意は?」
「皆無と判定します。筋力、魔力ともに完全に枯渇しており、現在の脅威度はゼロです」
「だよな」
俺はため息をつき、倒れ込んでいる少女の前にゆっくりと歩み寄った。
「お兄ちゃん、待って!」
エマが慌てて駆け寄ってきて、少女の顔をまじまじと見つめた。
「この子……思い出した! 王都のスラムで手配書が回ってた『大罪人』だよ! 王立の武器保管庫に忍び込んで、保管されていた高価な魔剣や宝剣を全部バリバリ食い荒らして逃走したっていう……!」
「武器保管庫を食い荒らした……?」
俺が眉をひそめると、地面に突っ伏したままの少女が、悔しそうに涙声で叫んだ。
「だ、大罪人って言うな! 私だって好きで食ってるわけじゃないやい! 生まれつきの『呪い』なんだよ! 普通の食べ物じゃ栄養にならなくて、高純度の魔導金属を食べないと魔力が枯渇して死んじゃうんだもん!」
「金属喰らいの呪い……」
俺はしゃがみ込み、少女の背中にそっと手をかざした。
「【解析(スキャン)】――」
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【個体名】ヴィオラ(龍人族・変異個体)
【状態】重度の魔力飢餓、急性金属中毒(重度)
【呪い】魂核融解(魔導金属の魔力を直接経口摂取しなければ生命維持不可)
【胃腸状態】錆と汚染物質により消化器系が著しく損傷
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(なるほど……。生きるために金属を食わなきゃならないのに、この谷のゴミには毒とサビが多すぎる。腹が減って食えば食うほど、汚染物質で内臓がボロボロになって弱っていく悪循環か)
「おい、ヴィオラ」
「な、なんで私の名前を知ってるんだ……! やっぱり私を捕まえて、王国に突き出して賞金をもらう気なんだろ……!」
ヴィオラは泥に汚れた顔を上げ、濡れた赤い瞳で俺を睨みつけてきた。
だが、その瞳の奥には、強がりでは隠しきれない死への恐怖が滲み出ていた。
「もう……終わりか……。こんなクソまずい鉄くずの味しか覚えてないまま死ぬなんて……嫌だなぁ……。最後くらい、美味しい魔力がいっぱい詰まった……極上のミスリル鋼が……食べたかったな……」
ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、ヴィオラの意識がプツリと途切れ、ガクリと頭が地面に落ちた。
呼吸が浅く、体温が急激に下がっていく。
「あわわわっ! お兄ちゃん、この子本当に死んじゃうよ!?」
「カイト様、いかがなさいますか。放置すれば数十分で死に至ります」
エマとルナが、俺の顔を見つめる。
「決まってるだろ。目の前で行き倒れてる奴を見捨てるなんて、俺の性分に合わない。助けるに決まってるだろ」
俺はヴィオラの華奢な身体をそっと抱き上げた。
龍人族というだけあって、小柄な見た目に反してずっしりとした重みがある。
だが、その胸の鼓動は弱々しく、今にも止まりそうだった。
「ルナ、そこの巨大ハンマーを持ってくれ。エマ、工房に戻って岩風呂のお湯の温度を上げておいてくれ」
「はい、カイト様」
「了解っ! 急いでお湯を沸かしておくね!」
俺たちは意識を失ったヴィオラを連れ、急いで工房へと引き返した。
「極上のミスリル鋼、か……」
金属を食わなきゃ生きられないなら、食わせてやればいい。
だが、今の衰弱しきった彼女にただの硬い鉄の塊を食わせても、消化器官が破裂するのがオチだ。
必要なのは、毒素を完璧に抜き去り、弱り切った胃腸でも一瞬で吸収できる――究極の『リサイクル魔導食』だ。
「職人の意地にかけて、最高のフルコースを作ってやるからな」
腕の中の冷たくなった龍人の少女に、俺はそう静かに語りかけた。