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第十五話 来訪前夜

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📅 公開日: 2026/11/6 📚 シリーズ: Reincarnation -Record of memories- 📝 5,867文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

遺した記録、貴方の記憶、その手で全て解き明かして。

本文

テリア女王がシェイン王国を訪れる。

その知らせは、城の中に静かな緊張を生んだ。

三国会議で顔を合わせたばかりとはいえ、今回は正式な会議ではない。

目的は、忘却の剣の調査協力。

そして、ノアの魔力制御への助言。

その二つは、シェインにとっても重要だった。

だが同時に、危うい。

忘却の剣はトーマの過去に繋がる可能性がある。

ノアの魔力は、本人ですら扱いきれていないほど大きい。

そして、その二つに興味を示しているのがテリア女王であるという事実が、トーマの胸に小さな棘を刺していた。

セイレン。

テリア女王の娘。

母に利用されたと感じ、紅い旗を掲げて離反した少女。

彼女の憎しみを知ってしまった以上、トーマは簡単にテリア女王を信用することができなかった。

「顔が怖い」

訓練場の端で、ソルが言った。

トーマは木剣を握ったまま振り返る。

「そんなにか」

「かなり」

「最近そればかり言われる」

「実際に出ている」

トーマは軽く息を吐いた。

朝の訓練は終わったばかりだった。

昨日から始まった「受け取る訓練」は、今日も続いている。

レナが作った一瞬の隙を、トーマが拾う。

ロイドが組んだ簡易陣形に合わせて、トーマが動きを変える。

ソルの攻撃を一人で突破しようとせず、味方の動きの中で隙を探す。

簡単ではない。

トーマの体は、まだ一人で前へ出ようとする。

けれど、少しずつ変化もあった。

レナの突進に合わせる。

ロイドの指示を先読みする。

ソルがわざと作った隙と、本当の隙を見分けようとする。

何度も打たれた。

何度も転がった。

それでも、昨日よりは少しだけ動けた。

「訓練中までテリア女王のことを考えていただろう」

ソルが言う。

「……少し」

「少しではない」

「かなり?」

「かなり」

トーマは木剣を下ろした。

「ノアが心配なんだ」

ソルは黙って続きを促す。

「テリア女王は、ノアの魔力に興味を持っている。助言をしてくれるのはありがたい。でも、セイレンのことがある」

「同じことをするかもしれないと?」

「分からない」

トーマは正直に言った。

「でも、ノアを研究対象みたいに見るなら、止めたい」

ソルは静かにトーマを見た。

「止める力はあるか」

その問いに、トーマは言葉を詰まらせた。

テリア女王は規格外の魔力を持つ。

特殊なバリアを纏い、戦闘相手が見つからないほどの実力者。

今のトーマでは、止めるどころか近づくことすら難しいだろう。

「ない」

トーマは答えた。

「でも、言うことはできる」

ソルの目が少しだけ細くなる。

「いい答えだ」

「そうか?」

「力で止められないなら、言葉で止める。言葉で足りないなら、誰かに頼る。それも選択だ」

トーマは少し考える。

「誰かに頼る……」

「シェインには私がいる。ロイドがいる。レナもいる。ノアを守るのは、お前一人の役目ではない」

そこへ、少し離れた場所で水を飲んでいたレナが反応した。

「呼んだか!」

ロイドが即座に言う。

「呼んでいません」

「でも守るなら任せろ!」

「そこは任せます」

「任された!」

レナは嬉しそうに胸を張った。

トーマは思わず笑う。

「頼もしいな」

「そうだぞ! 私は頼もしい!」

ロイドがため息をついた。

「頼もしいのは事実ですが、調子に乗ると危険です」

「褒めてから刺すな!」

ソルはトーマへ視線を戻した。

「警戒はしろ。だが、最初から敵として見るな」

「分かってる」

「テリア女王も、過ちを繰り返したいわけではないはずだ」

「はず?」

「人は間違える」

ソルの声は静かだった。

「強い者ほど、自分の正しさを疑えなくなることがある。テリア女王もそうだったのだろう」

「ソルも?」

ソルは少しだけ黙った。

「昔はな」

それ以上は言わなかった。

だが、トーマは何となく分かった。

ソルもかつて、一人で強くあろうとしたのかもしれない。

誰にも頼らず、届かない場所へ行こうとしていたのかもしれない。

「なら、俺は見てる」

トーマは言った。

「テリア女王がノアをどう見るのか。ちゃんと見る」

ソルは頷いた。

「それでいい」

⸻

ノアは、自室で魔法灯を見つめていた。

机の上に置かれた小さな水晶灯。

その中に、淡い光が揺れている。

昨日より安定している。

十分。

二十分。

ノアは少しずつ、自分の魔力を細く流し続ける感覚を掴み始めていた。

強く出さない。

押し込まない。

怖がって止めない。

ただ、流す。

自分の中にある大きすぎる水を、小さな川にして外へ出すように。

「……できてる」

ノアは小さく呟いた。

その声には、少しだけ嬉しさが混ざっていた。

けれど、その嬉しさは長く続かなかった。

明日、テリア女王が来る。

ノアの魔力を見るために。

助言をしてくれると聞いている。

テリア女王はすごい魔法の研究者で、結界やバリアの技術に優れている。

ノアにとって、学べることはきっと多い。

でも。

セイレンの言葉が、胸に残っている。

力が大きすぎる子は、大人に都合よく名前をつけられる。

ノアは自分の手を見る。

もし、自分の魔力に誰かが名前をつけたら。

「これは危険な力だ」とか。

「これは国に必要な力だ」とか。

「これは誰かの血を継ぐ証だ」とか。

そう言われた時、自分はどうなるのだろう。

自分の力を、自分で決められるのだろうか。

扉が叩かれた。

「ノア、いるか?」

トーマの声だった。

ノアは少し驚きながらも、急いで立ち上がる。

「うん。いるよ」

扉を開けると、トーマが立っていた。

手には小さな包みを持っている。

「ミアが厨房から持ってきた」

「また?」

「今度はちゃんと許可を取ったらしい」

「本当に?」

「ユナが横にいたから、たぶん本当だ」

ノアは少し笑った。

「そっか」

トーマは包みを渡す。

中には、小さな焼き菓子が入っていた。

「疲れた時に食べろって」

「ミアらしいね」

ノアは包みを受け取る。

トーマは部屋の中の魔法灯を見る。

「練習してたのか」

「うん。今日は二十分までできた」

「すごいな」

その言葉に、ノアは少し頬を赤くする。

「まだ、小さい魔法灯だけだけど」

「それでもすごい」

トーマは真っ直ぐに言った。

ノアは視線を落としながら、嬉しそうに笑う。

「ありがとう」

少し沈黙が流れた。

ノアは焼き菓子の包みを机に置き、ぽつりと言った。

「明日、少し怖い」

「テリア女王のことか」

「うん」

トーマは頷いた。

「俺も怖い」

ノアが顔を上げる。

「トーマも?」

「ああ」

「トーマはテリア女王を警戒してる?」

「してる」

トーマは隠さなかった。

「でも、最初から敵だとは思わないようにしてる」

ノアは静かに聞いている。

「セイレンのことを考えると、簡単には信用できない。でも、テリア女王が本当にノアのために助言しようとしているなら、それもちゃんと見たい」

「ちゃんと見る……」

「ああ」

トーマはノアの目を見る。

「もし嫌なことを言われたら、嫌だと言っていい」

ノアは少し驚いた顔をした。

「言っていいの?」

「ノアの力だろ」

その言葉に、ノアの胸が小さく震えた。

ノアの力。

国の力でも、誰かの研究材料でもない。

ノア自身の力。

「でも、相手は女王様だよ」

「それでもだ」

トーマの声は穏やかだったが、はっきりしていた。

「言いにくかったら、俺が言う。俺で足りなければ、ソルもロイドもいる。レナもいる」

ノアは少し笑った。

「レナさんも?」

「たぶん一番大きい声で止める」

ノアは想像して、少しだけ笑った。

「一人で我慢しなくていい」

トーマは言った。

「ノアの力の名前は、ノアが決めればいい」

ノアは目を見開いた。

その言葉は、まるで自分が考えていたことを見透かされたようだった。

「どうして……」

「何となく」

トーマは少し困ったように笑った。

「俺も、自分が何者か分からない。剣が俺を何かにしようとしているのかもしれない。でも、俺が何になるかは、俺が決めたい」

ノアは胸の前で手を握る。

「うん」

小さく、けれど強く頷いた。

「私も、自分で決めたい」

「なら、明日一緒に見よう」

「うん」

ノアの魔法灯は、まだ淡く光っていた。

揺れは小さい。

その光は、ノアの心が少しだけ落ち着いたことを示しているようだった。

⸻

その夜。

シェイン王国の会議室では、ロイドが来訪準備の確認を行っていた。

机の上には地図、警備配置図、魔力測定用具の一覧、そしてテリア女王への対応手順が並んでいる。

「来訪時は正門で迎えます。同行者はアリスとロイの予定。護衛兵は最小限」

ロイドが説明する。

ソル、レナ、トーマが同席していた。

本来トーマは参加しなくてもいい立場だが、忘却の剣の件があるため、本人も話を聞く必要があった。

「ロイも来るのか」

トーマが言う。

ソルの目がわずかに動いた。

「来るだろうな」

レナがにやりとする。

「ソル、嬉しいのか?」

ソルはレナを見る。

「なぜそうなる」

「ライバルが来るから!」

「嬉しくはない」

「そうか?」

「そうだ」

ロイドが淡々と言う。

「レナ、話を逸らさないでください」

「はい!」

ロイドは警備図を指差す。

「テリア女王陛下の魔力は非常に大きいため、城内結界と干渉する可能性があります。事前に一部の結界強度を調整します」

トーマは眉を寄せる。

「そんなに強いのか」

「はい。普段は抑えているはずですが、それでも通常のヴァルキリーとは比較になりません」

ソルが続ける。

「テリア女王のバリアは特殊だ。攻撃を防ぐだけでなく、魔力の流れそのものを歪める」

「戦ったことがあるのか?」

「模擬戦なら」

「勝ったのか?」

ソルは少しだけ黙った。

「引き分けた」

ロイドが補足する。

「記録上は、双方継続不能による終了です」

レナが目を輝かせる。

「あの時すごかったな! 訓練場が半分消し飛んだ!」

「誇らしげに言うことではありません」

トーマは息を呑む。

ソルと引き分ける。

それだけで、テリア女王の異常さは十分だった。

「ノアに助言する時、何をするんだ?」

ロイドは資料をめくる。

「事前通達によれば、魔力流路の確認、簡易測定、制御訓練の提案。直接的な魔法干渉は、本人とシェイン側の許可なしには行わないとのことです」

「つまり、勝手に何かすることはない?」

「少なくとも、書面上は」

トーマは少し顔をしかめる。

ソルが言う。

「その場には私が立ち会う」

ロイドも頷く。

「私も同席します。トーマ、あなたも希望するなら見学を認めます。ただし、感情的な発言は控えてください」

「分かった」

「本当に?」

「……分かってる」

レナが手を上げる。

「私は?」

「あなたは外の警備です」

「中じゃないのか!」

「中にいると、何かあった時に叫びそうなので」

「叫ぶぞ!」

「だから外です」

レナはしょんぼりした。

トーマは少し笑いそうになったが、我慢した。

その時、窓の外に黒い影が一瞬映った。

トーマが反応する。

ソルも同時に視線を向けた。

「ロイか?」

しかし、窓の外には何もいない。

レナも身構える。

「誰かいたのか?」

ロイドが結界反応を確認する。

「侵入反応はありません」

ソルはしばらく窓を見つめていた。

「外ではない」

「どういうことだ」

トーマが問う。

ソルは短く答える。

「視線だ」

その言葉に、会議室の空気が冷える。

誰かが見ている。

この場にいない誰か。

トーマの腰の剣が、ほんの微かに震えた。

ロイドが顔を上げる。

「レッドフラッグス?」

「分からない」

ソルの声が低くなる。

「だが、明日は注意した方がいい」

テリア女王が来る。

忘却の剣がある。

ノアがいる。

そして、セイレンは母を見ている。

それはほとんど確定に近かった。

⸻

荒野。

セイレンは紅い旗の下で、古い魔法具を覗き込んでいた。

それはテリア王国の研究塔から持ち出したものだった。

遠隔視の魔法具。

王国の結界に直接触れず、魔力の揺らぎだけを拾う。

映るのは映像ではなく、気配の流れ。

シェイン王国の魔力配置。

忘却の剣の黒い穴のような反応。

ノアの大きすぎる白い光。

そして、明日近づいてくるテリア女王の青白い魔力。

「集まってきたわね」

セイレンは呟く。

ルークは横で大剣を磨いていた。

ただし、磨く布を逆に持っている。

「ルーク」

「ん」

「それ、柄を磨く布よ。刃に使うものじゃない」

ルークは布を見る。

「そっか」

「まあ、その剣なら布が負けるだけだけど」

「うん」

ルークは気にせず磨き続けた。

セイレンは魔法具へ視線を戻す。

「母上は、ノアを前にしてどうするのかしら」

「助ける?」

ルークが短く聞く。

「そう言っているわ」

「なら助ける?」

「言葉通りならね」

ルークは少し考える。

「セイレン、信じてない」

「当たり前よ」

「でも、見たい」

セイレンの指が止まる。

ルークは大剣を磨きながら、ぼんやりと言った。

「信じてないなら、見なくてもいい。でも見る」

セイレンはしばらく黙っていた。

「……あなた、たまに嫌なところを突くわね」

「突いた?」

「突いたわ」

「そっか」

ルークは少しだけ満足そうに頷いた。

セイレンは紅い旗を見上げる。

信じていない。

そう言い切れるはずだった。

テリア女王は変わらない。

人は簡単に変わらない。

母はまた、ノアを研究対象として見る。

そう思っている。

なのに、なぜ見たいのか。

母が失敗するところを見たいのか。

それとも、失敗しないところを見たいのか。

自分でも答えが出なかった。

「明日は近くまで行くわ」

セイレンが言った。

ルークが顔を上げる。

「戦う?」

「まだ分からない」

「殺す?」

「邪魔されたら」

ルークは短く頷いた。

「うん」

その返事には何の迷いもない。

セイレンはルークを見た。

この少女は、普段は抜けていて、考えていることも分かりにくい。

けれど戦いになれば、誰よりも速く答えを出す。

邪魔なら斬る。

敵なら潰す。

強い者なら戦う。

単純で、恐ろしく、時々羨ましい。

「ルーク」

「ん」

「あなたは、ベイル女王のことをどう思っているの?」

ルークは少しだけ首を傾げた。

「ベイル?」

「あなたの母親でしょう」

「うん」

ルークはしばらく考えた。

かなり長い沈黙。

セイレンは黙って待った。

やがて、ルークは一言。

「大きい」

セイレンは目を閉じた。

「……そう」

「声も」

「それは知っているわ」

「嫌いじゃない」

セイレンは少しだけ目を開ける。

ルークは大剣を見ながら続けた。

「でも、戻る理由もない」

「そう」

「セイレンがいるし」

その言葉は、あまりにも軽く、あまりにも自然だった。

セイレンは一瞬、言葉を失った。

ルークは続ける。

「なんとなく」

「最後で台無しよ」

「そっか」

セイレンは小さく笑った。

本当に、少しだけ。

「まあ、いいわ」

夜風が吹く。

紅い旗が揺れる。

「明日、母上が何を選ぶか見届ける」

ルークは大剣を肩に担いだ。

「うん」

遠く、シェイン王国の方角に雲が流れていた。

翌日。

テリア女王が白き城へ来る。

そしてその日、トーマとノアは、ただ助言を受けるだけでは済まないものを見ることになる。

母と娘。

研究と愛。

力を持つ子どもと、それを見る大人。

その境界線が、静かに試されようとしていた。

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