第五十五話 影が奪った戦い方
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あらすじ
遺した記録、貴方の記憶、その手で全て解き明かして。
本文
最初の影が動いたのは、ロイドが後退を命じた直後だった。
焚き火の向こうから現れた黒い人影は、先ほど倒した三体よりはるかに多い。岩陰から伸び上がったものだけでも二十を越え、斜面の下ではまだ輪郭の定まらない影が幾重にも重なっていた。風で草は東へ倒れるのに、影だけが北西から押し寄せてくる。
「歓迎されてる感じじゃないな!」
レナが拳を握る。明るく叫んでも、視線は敵から離さない。
「最初から歓迎だとは思っていません。全員、荷を捨てずに移動の準備を!」
ロイドは記録板へ指を走らせた。残った水は九つの容器に分散してある。負傷した護衛兵は左腕を吊り、足を捻った封印術師は医療術師の肩を借りていた。防戦を続ければ、夜明け前に限界が来る。
「西側の退路は、さっき印がずれていました」
ユナが張った糸を引き寄せる。岩へ結んだはずの端は、別の枯れ木に繋がっていた。
「後ろへ戻るのも危険です。だからといって都市の方角へ進む根拠もまだ……」
「左前方」
トーマの声に、ロイドが顔を上げた。岩の間に影が立っている。道は見えない。
「そこを抜ければ、足場の広いところへ出られると思う」
「見えたのですか?」
「見えてない。身体が知ってるだけだ」
言ってから、トーマは唇を噛んだ。また同じ言葉だ。剣を持っていた頃の自分も知らない、得体の知れない感覚。今度は仲間の命を乗せてしまう。
ロイドは即答しなかった。前方の地形を術師に調べさせると、岩の下に浅い窪地があり、少なくとも三人は並んで通れると分かった。
「進む価値はあります。ただしトーマの感覚だけには従いません。先頭のソルが危険と判断したら即座に引き返します」
「分かった」
「ソルは先頭、トーマはその右。ミアは荷と負傷者を守り、レナは左右の敵を引きつけてください。ユナさん、隊列から離れた者に気づけるよう糸を。ノアさんは大きな膜を張り続けず、攻撃の方向が分かってから守ってください」
「了解」
ノアは頷き、胸の前で両手を握った。小さな帰星なら長く保てるが、十三人を包むような大きさにすれば魔力の負担も、隙間の増え方も違う。昨日から消耗が続いている今、持続する防御より必要な瞬間に受け止める方がよかった。
「私も出るぞ!」
ミアが短槍を構えると、ロイドは鋭く振り返った。
「中央から離れないでください」
「今は離れない! でも、そこを守るのは私だろ!」
「……ええ。任せます」
地面を踏む音が重なった。七つの影が、同じ姿勢で一斉に膝を沈める。レナが息を呑んだ。
「あれ、私の走り方だ」
次の瞬間、七体が別々の方向へ散った。
レナは一体目へ向かって走った。昨日までなら、そのまま速度を上げていたはずだった。だが、進路の両脇に同じ自分が回り込んでくるのを見ると、足を止める。
停止に合わせて前の影も減速した。右の影だけは止まらず、レナが逃げるはずの位置へ拳を突き出した。
「私なら、そこに避けると思ったか!」
レナは一歩下がって拳をかわしたものの、背後から伸びた蹴りを腕で受けてよろめいた。一人の速さでは対抗できても、同じ速さを七方向から向けられれば身体が足りない。二体の間を抜けたところへ、三体目が前を塞いだ。
「レナ、しゃがんで!」
青い糸が彼女の腰を引く。レナが膝を折ると、頭上でソルの剣が弧を描いた。二体の胴が裂けるが、黒い身体は砂へ崩れながら再び繋がり始める。
「切っただけでは駄目か」
ソルが距離を取り、ロイドが記録板へ敵の動きを写す。影の身体が薄くなると、胸の中央に黒点が残った。
「中心です! 胸の奥を壊せば再生が止まる可能性があります!」
「やってみる!」
ミアは荷車代わりの担架を護衛兵に預け、ほんの二歩だけ前へ出た。ソルが押し戻した影の足を短槍の柄で払い、倒れた胸元へ穂先を落とす。黒点が砕け、影は羽根となって散った。
「一体!」
「まだ周囲に六体です!」
「数える余裕があるなら、次の場所を教えてくれ!」
ミアは槍を引き戻し、負傷者の前に立つ。倒しに追いかけたい気持ちはあった。けれど一歩でも遠くへ出れば、足の動かない術師を守れない。短槍を握る指に力が入る。
レナは右手を持ち上げ、影を誘った。二体が揃って追いかけてきたところで急停止する。今度は無理に切り返さず、ユナの糸が引く方向へ身を任せた。飛び込んだ影の側面にソルの刃が入り、ミアの槍が黒点を貫く。
「いいぞ、レナ!」
トーマが声をかけると、レナは短く笑った。
「私一人より、みんなの方が速いな!」
その直後、後方から悲鳴が上がった。
黒い糸が地面を走っていた。細い線は踏んだ者の足首へ巻きつくのではなく、先に地面へ張られ、次の一歩を奪おうとする。ユナが見慣れた手つきで指を広げた。
「……私の糸」
彼女を模した影が、十体近く並んでいた。
黒い糸は一本ずつなら細く弱い。だが十体が交差させれば、前方の敵を避けるための横移動まで封じられる。逃げ道を消す配置はユナ自身が得意とするものだった。
「切ればいいんじゃないのか!」
トーマが短棒を振りかけると、ユナは首を振った。
「切ったところへ次の糸が来る。今は動かないで」
護衛兵の脚に絡んだ黒い線を、自分の糸で少しずつ緩める。引けば締まる罠だった。直接引きちぎるのではなく、結び目の負荷が抜ける方向へ別の糸を通す。
「痛みますか」
ロイドの問いに、兵士は苦しげに頷いた。足首には細い赤い筋が残り、立ち上がるには支えが必要だった。医療術師が手当てを始める間も、影は距離を狭めてくる。
ノアは幅の狭い防御膜を足元へ向け、次の黒い線が兵士へ届くのを弾いた。膜の向こうで糸が跳ね、乾いた音を立てる。
「ノア、もう一つ来る!」
「分かってる!」
二枚目を重ねると、指先が痺れた。連続して膜を立てれば守れるが、その分だけ次の攻撃が見えなくなる。ノアは一枚を解き、兵士が動き出すための隙間を作った。
ユナの視線は、糸そのものではなく影の指先を追っていた。敵の十体は別々に動いているようで、どれか一体が止まるとほかの糸も張り替えを待つ。模倣されたのは結び方だけではない。複数の手をひとつの罠に使う順序だった。
「私を十人に増やして、一つの罠を作ってる」
「連携できるのか?」
「できる。でも、同じ命令を繰り返してる感じ」
ロイドが一歩後ろへ下がり、状況を確かめた。
「誰かが一斉に動かしている可能性があります。各個撃破より、罠の中心を崩しましょう」
「中心は?」
「分からない。私なら、あの岩の裏に結ぶ」
ユナは斜め前の平たい岩を指した。ロイドはすぐに攻撃を命じず、術師へ地面の安全を確認させる。岩の下は乾いた砂で、踏み込めば沈むが崩落の心配はない。
「ミアさん、槍で岩の右を突けますか」
「任せろ!」
ミアはその場を離れず、柄を長く持ち直して岩の陰へ穂先を差し込んだ。隠れた糸が切れると、地面の黒い網が一度だけ緩む。
「今!」
ユナが青い糸を横へ張る。レナはその上を飛び越え、最前列の影を体当たりで突き崩した。ソルの剣が後ろへ伸びた黒点を二つ断つ。トーマも短棒で胸を突き、崩れた影が元へ戻る前に距離を取った。
網の半分が消え、担架を運ぶための幅が生まれる。
だがユナは安心しなかった。手の甲から腕へ、細い擦り傷が増えていた。自分の技が、自分では守りきれないほど広く使われる。
「ユナ、大丈夫か?」
「大丈夫。……怖かった」
ミアが驚いて顔を向ける。ユナは目を逸らさなかった。
「私の糸で、みんなが動けなくなるのが」
「でも、今は助けてくれたぞ」
ミアはそれだけ言って槍を持ち直した。ユナは短く頷き、彼女の背へ細い糸を一本結んだ。離れても戻れるようにではなく、助けが必要なときに伝わるように。
岩場の手前へ進んだところで、今度は剣を持つ影が道を塞いだ。
その立ち方を見た瞬間、ソルが足を止める。剣先を低く構え、相手の重心が移った場所だけを斬る。鏡に映したような姿勢だった。
「私か」
影が踏み込み、ソルも刃を合わせた。二つの剣は同じ角度でぶつかり、同じ間合いで引かれる。ソルが上段から斬れば、影も上から返す。二度、三度と繰り返すうちに、ソルの左腕へ鈍い痺れが広がった。
「そのままだと互角だ!」
レナが叫んだが、ソルは答えなかった。影はソルの型を知っている。ならば同じ型で戦えばよいという判断も、影の思いどおりかもしれない。
ソルは剣を振り上げた。影の刃がそれを受けようと伸びる。
そこで、彼女は剣から手を放した。
「ソル!」
トーマが声を上げる。剣は空中へ浮き、影の刃は受ける相手を失って僅かに泳いだ。ソルはその横へ踏み込み、空いた手で影の剣腕を押さえる。膝を胸へ当てて上体を崩し、落ちてくる剣を逆の手で掴み直した。
一閃。影の胸の黒点が割れた。
ソルは剣を構え直し、トーマへ目を向ける。
「私の記録を持っていても、今の私ではない」
トーマは散った羽根を見た。相手はソルの剣筋を覚えていても、今何を捨てるかまでは知らなかった。
「記録の先へ行けばいい」
その言葉に応えるように、奥の影が一つ前へ進み出た。ほかの影より背が高く、拳を握り、腰を落としている。武器は持っていない。
トーマは、理由も分からず息を止めた。
「……ゼロ?」
名前を呟いた瞬間、胸の奥が重くなる。顔のない影との共通点は、構えだけだ。それでも、足が前へ出ることだけは止められなかった。
「トーマ、戻れ!」
ソルの声に身体が反応するより先に、影の拳が飛んだ。トーマは短棒を横へ出したが、打撃は棒を押し込み、右肩に深く食い込んだ。痛みで膝が折れる。続く掌が胸元へ向かい、彼の身体は勝手に受け流す姿勢を取った。
以前なら、そのまま知らない技へ身を任せていただろう。だが今は、後ろにノアと負傷者がいる。
トーマは受け流す手を止め、短棒を両手で握った。強引に横へ弾くと、掌は頬を掠めて抜け、熱い痛みが走った。
「俺が、どう動くかまで知ってるのかよ……!」
影は答えず、また拳を構えた。
「トーマ!」
ノアが叫び、膜を彼の右側へ展開した。拳を受け止めた光の表面に亀裂が走る。ノアはすぐ膜を外したが、衝撃は手首まで伝わった。
「何度もは止められない!」
「分かった!」
トーマは影の正面から下がった。背後には治療を終えた兵士たちがいる。横へ誘えば彼らが危ない。逃げ道を失いかけたとき、ユナの糸が足首へ触れた。
「右、三歩」
「そこには岩が!」
「二歩目で止まって」
言われたとおり二歩だけ動く。影は逃げる先を読んで岩の左へ回り込んだが、トーマは三歩目を出さなかった。代わりに短棒を地面へ突き、低い姿勢でその場に踏みとどまる。
影の拳が空を切った。ソルの剣が届く位置へ、僅かに身体が流れる。
「今だ!」
ソルが斬り込む。だが影は剣身を掌で押し、刃の進路を捻じ曲げた。普通の人間の手なら深く切れるはずの一撃でも、黒い腕には裂け目しか残らない。
胸の中央が見えた。そこにあるのは黒点ではなく、白い小さな光だった。
「核が違う!」
ロイドが叫ぶ。白い光の中に、人の背中が映った。黒い髪、誰かを庇うように伸ばされた腕。その前に、白い服を着た幼い少女がいる。トーマ自身より幼く見える少年の姿も、光の縁に一瞬だけ浮かんだ。
見たいと思った。誰なのか、どうして二人がそこにいるのか、知りたかった。
その一瞬のために動きを止めれば、次の拳がノアへ届く。
「……今は、そっちを見ない!」
トーマは影の足元へ短棒を差し込み、前へ押した。ゼロに似た影は身体を引いて避けたが、下がった先にはレナがいた。彼女は攻撃せず、ぎりぎりで足を止める。影が振り向いた瞬間、ミアが短槍の柄で膝を打ち、ユナがその腕へ糸を絡めた。
「三秒だけ!」
ユナの声を聞き、トーマは息を吸った。影の構えを見て、次の拳は読める。だが、倒し方はまだ決めていない。仲間が作ってくれた三秒間を、知らない自分へ渡したくなかった。
ソルが胸元の裂け目を広げ、ノアは短い膜で影の反撃を逸らす。トーマは足を止めたまま、短棒の先を白い光へ向けた。
「俺の手で決める!」
突きが届くと、光は硬い音を立てて砕けた。その向こうの景色も、見えないまま散っていく。影の身体が大きく傾き、黒い羽根へほどけ始めた。
同時に、都市の方角から低い鐘が響いた。
戦場にいた模造体が、一斉に動きを止める。逃げるでも襲うでもなく、黒い都市へ向かって片膝をついた。トーマの前の影も、崩れかけたまま頭を下げる。
遠くから声が届いた。
「第一照合、終了」
誰の声なのか分からなかった。男にも女にも聞こえ、近くで喋った者はいない。影は次々と羽根になり、地面へ消えた。
「帰還者、二名」
トーマとノアは顔を見合わせる。
「随伴記録、確認」
声が途切れたあと、地面がゆっくり揺れた。戦いで踏み荒らされた斜面の間に、古い石畳が一本ずつ現れていく。一直線の道ではなく、岩を避けて曲がりながら北西へ伸びていた。
ロイドの記録板には、戦闘時間を書いたはずの一行が残っていなかった。次の頁を開いても、敵の数が思い出せない。写し直そうとした瞬間、見覚えのない文字が現れた。
『帰還経路、再接続。』
「……私たちを、確かめていたのでしょうか」
「さあな」
ソルは膝をつき、トーマの肩を確かめた。痛みが強く、腕を上げると顔が歪む。医療術師が手当てを始める横で、ノアはまだ石畳を見つめていた。
「トーマ。怖い?」
「ああ」
彼は迷わず答えた。戦う前よりも怖かった。敵が自分を知っていて、都市まで帰還者と呼ぶ。帰りたいと思った覚えのない場所へ、帰れと言われている。
「でも、行く。今度は皆で、ちゃんと確かめたい」
「私も怖い。でも、一緒に行く」
ユナの糸が、二人の手首へそっと触れた。
「皆もいる」
レナが胸を張る。
「今度は勝手に先へ行かないぞ!」
「成長しましたね」
「褒めたか?」
「褒めました」
「頭は?」
「私は撫でません」
ソルも首を振ったので、レナは「あとでだな!」と勝手に決めた。笑い声は長く続かなかったが、握り直した武器の重さは少しだけ違って感じられた。
ロイドは負傷者の歩ける速度を確認し、石畳の入り口に新たな印を残した。今度はその印だけに頼らず、目立つ岩の形と方向を皆で覚えてから進み始める。
──
北側の荒野でも、影たちは突然膝をついた。
テリア女王は展開していた星膜を解かずに周囲を見渡した。アリスの魔法花が散らした火の粉はまだ地面で燻り、ロイとイリスは左右から近づく影に備えていた。ルチアが息を整え、フィナは折れた杖の先を握り直している。
「第一照合、終了」
同じ声が空から落ちてきた。影が消えると、その下に古い石畳が現れた。道の縁には星を重ねたような模様が刻まれている。
「女王様、あの模様……」
アリスが言いかけると、テリア女王はゆっくりと膝を折った。手の中に広げていた星膜の縁も、同じ形に引かれている。
「知っておる気がする」
「どこの術式ですか?」
「分からぬ。分からぬはずなのじゃが……」
女王は指先を石へ近づけて止めた。まだ触れてはいけないと、誰かに言われたような気がした。思い出そうとした途端、胸の奥に懐かしさと恐怖が一緒に浮かぶ。
「写しておけ。触らずにな」
アリスは頷き、花の光で石の表面を照らした。女王は奥へ続く道を見つめたまま、しばらく動かなかった。
──
南側では、ベイル女王が自分に似た巨体の影を地面へ叩き伏せたところだった。
「軽い。形だけ真似ても、我の一撃にはならん」
ガーネが盾を上げ、カノンは次の矢をつがえる。リンはチャクラムを回収しながら、空振りした幻惑の術式を消した。
「心のない相手は、あまり好みではありませんねぇ」
「ならば体を狙え」
カノンが言うと、リンは微笑んだ。
「情緒がありませんねぇ」
「今必要ですか」
「常に必要ですよ」
そのとき影が膝をつき、先ほどまで何もなかった場所に黒い石畳が浮かび上がった。ベイル女王は一歩踏み出しかけ、足を止める。
「この道は……」
「ご存じなのですか」
ガーネが尋ねた。
「知らん。だが、嫌いな道だ」
思い出せない誰かの顔が、目の奥を掠めた。大きな手に掴まっていた小さな指の感触だけが残り、名前は出てこない。
「それでも進むのですね」
リンの問いに、女王は頷いた。
「嫌いだからだ。この先に、忘れたものがある」
──
都市に近い荒野では、ルークが大剣を担ぎ直していた。
「弱かった」
赤い旗を引き抜いたセイレンは、消えていく黒い影を見た。
「あなたが強すぎるのよ」
「違う。弱くした」
「誰が?」
「都市。通してる」
セイレンは石畳を踏んだ。罠ならば悪趣味な招待だ。自分たちが何のためにここへ来たのか、向こうは知っているつもりなのだろう。
「気に入らない。呼ばれたから行くみたいじゃない」
「行かない?」
「行くわよ」
「呼ばれたから?」
「殺すため」
「同じ」
「違う」
二人は道の先へ目を向けた。城門のような黒い影が遠くに見える。しかし、二人がどの門へ辿り着くのかまでは、誰にも分からなかった。
──
都市の最も高い建物で、黒い外套の人物が鞘に入った忘却の剣を持ち上げた。
掌の上に浮かぶ光には、荒野に現れた石畳と、その上に立つ者たちの姿が映っている。人物はしばらくトーマとノアを見つめ、次にロイド、テリア女王、セイレンへ視線を移した。
「第一照合、適合」
剣が低く鳴る。黒い都市の門が僅かに動き、石の隙間から羽根が舞い上がった。
「次は、鍵を戻す」
扉は開ききらなかった。何かが、まだ足りないらしかった。