第15話 アルタリア騎士団
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あらすじ
町工場の修理工・カイトは異世界に召喚されるも、ハズレスキル【リサイクル】を理由に「廃棄の谷」へ追放されてしまう。 だが、その真価はガラクタを神話級へと創り変える【超・資源再生(アップサイクル)】だった! 折れた剣は不壊の魔剣に、毒の霧は無限のエネルギーに、捨てられた機械人形は絶世の美少女(最強)へと大変身! 拾い人の少女や龍人族、没落令嬢らと共に、温泉付きの快適な要塞都市を築き上げていく。 一方、使い捨て社会のツケで破滅寸前の王国が「戻ってきて国を建て直してくれ!」と泣きついてくるが―― 「断る。俺の居場所は、あの最高のゴミ捨て場だ」 ガラクタだらけのどん底から始まる、痛快な領地開拓ファンタジー!
本文
「わ、私を捕まえに来たんだ……! アルタリア王国の騎士団だ……!」
ヴィオラは耳を伏せ、太い尻尾を自らの身体に巻き付けるように小さく縮こまった。
さっきまでの傲慢な食いしん坊の態度はどこへやら、その赤い瞳には怯えと絶望が広がっている。
「ごめん……! 私がここに来ちゃったせいで、お前たちまで巻き込んじゃう……! 私、すぐに出ていくから! だから――」
「落ち着けって」
慌てて駆け出そうとしたヴィオラの細い手首を、俺はひょいと掴んで引き止めた。
そのまま、もう片方の手で彼女の赤い角の間をぽんと優しく撫でてやる。
「ふぇ……?」
「勝手に出ていこうとするな。俺が食わせた極上の魔導ジュレの代金、まだ一銭も払ってもらってないぞ」
「だ、代金って……私、お金なんて1文も持ってないぞ……!?」
「だから、うちの専属護衛として働くんだろ。ここは俺の家で工房だ。大事な仲間を外の野蛮人にホイホイ引き渡すような真似は、職人の名折れだ」
俺が呆れたように言うと、ヴィオラは目を丸くし、それからぽろぽろと大粒の涙を瞳に浮かべた。
「お前……本当に、いいやつだな……!」
「お兄ちゃん、かっこいい〜!」
エマが横でパチパチと楽しそうに拍手しながら茶化してくる。
「そうだよ、ヴィオラちゃん! 今の私たちの工房はね、王都のどんな砦よりも頑丈なんだから! あんな偉そうな騎士たちなんて、怖がる必要全然ないよ!」
「カイト様、外の敵勢力の分析を完了しました」
ルナがモニターから視線を外し、涼やかな声で淡々と報告を口にする。
「重装魔導馬車が3台、随伴する騎士が24名。武装は王国の現行主力である魔導弓および魔導剣。個々の魔力出力は低調、脅威度は極めて低いと判定します」
「よし。じゃあ、ちょっと外に出て話を聞いてみるか」
「ええっ!? 話すの!? あいつら、問答無用で斬りかかってくる野蛮な連中だよ!?」
驚くヴィオラをなだめながら、俺たちは工房の正面ハッチを開け、外の荒野へと足を踏み出した。
◇
防毒結界のすぐ外側。
白百合の紋章を刻んだ魔道馬車から、豪華な甲冑に身を包んだ男たちが続々と降り立っていた。
「バルト隊長! ご覧ください、あの建物を!」
「……なんだ、あれは? こんな汚染地帯のド真ん中に、あのような拠点が存在するはずがないのだが……」
部下たちを従え、先頭に立っていたのは、金髪をオールバックに撫で付けた尊大な態度の男だった。
眉をひそめ、俺たちの工房――ピカピカに磨き上げられ、屋上に白銀の大気清浄タワーを戴く要塞輸送車を、信じられないものを見るように凝視していた。
「おい、貴様ら!」
ハッチから堂々と出てきた俺たちを見つけ、バルト隊長が馬鹿にしたような怒声を張り上げた。
「薄汚い作業着の平民に、スラムのガラクタ拾い……それに、人形だと? なぜ貴様らのような下層民が、このような整備された魔導施設にいるのだ!?」
「下層民って言うな! ここはカイトお兄ちゃんの工房だよ!」
エマがすかさず言い返すと、バルト隊長の視線が、俺たちの背後に隠れていたヴィオラへとピタリと止まった。
「……おお! いたぞ、あのトカゲ女だ!」
バルト隊長は下品な笑みを浮かべ、腰の魔導剣の柄に手をかけた。
「王立武器保管庫の宝剣を食い散らかした大罪人・ヴィオラ! 貴様を捕縛し、王都で見せしめの極刑に処す! 大人しくお縄につけ!」
「ひっ……!」
ヴィオラが思わず俺の背中に隠れる。
俺は一歩前へ出て、バルト隊長と視線を真正面から合わせた。
「おい、騎士隊長さんよ。あいにくヴィオラは今、俺の工房の大事な専属護衛兼、素材処理係なんだ。引き渡す気は毛頭ないから、お引き取り願おうか」
「……はあ?」
バルト隊長は耳を疑ったように顔を歪め、それから吹き出すように下卑た大笑いを上げた。
「ぶはははは! 平民風情が何を寝言を言っている! その凶悪な害獣をかくまうなど、国家反逆罪に値する大罪だぞ! それに……」
バルト隊長のギラついた欲望に満ちた視線が、俺の背後にある工房と、屋上で青白く光る清浄タワーへと向けられた。
「その巨大な装甲車と、上部の未知なる魔導タワー……。貴様らのようなゴミ拾いが持っているはずがない。王国の研究機関から不正に盗み出した技術に違いないな! その龍人の罪人と共に、その施設を我が部隊へ差し出せ! そうすれば、命だけは助けてやろう!」
盗品だと一方的に決めつけ、まるごと奪い取る気満々だ。
あまりの強欲さと傲慢さに、俺は呆れて大きなため息をついた。
「盗み出した技術、ね……。悪いが、この工房も屋上のタワーも、お前らがこの谷に投げ捨てた『ゴミ』を集めて、俺が自分の手で直して作り変えたものだ」
「直して作り変えただと……? ふざけるな!」
バルト隊長が顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「我がアルタリア王国は、神聖なる始源教の国だぞ! 壊れたものを使い回すなど、不浄にして神への冒涜! そのような悪魔の所業で、これほどの至高の魔導具が作れるはずがないだろうが! 嘘をつくにしても、もっとマシな嘘をつけ!」
「壊れたら捨てることしか能がないお前らには、信じられないのも無理はないか」
俺は冷ややかに言い放った。
「物を大切にできず、技術の真髄も知らず、ただ新しいものを浪費して威張り散らすだけの連中……。本当に哀れだな」
「き、貴様ああああっ! 平民の分際で、この私を侮辱するかッ!」
プライドを傷つけられたバルト隊長が激昂し、腰の剣を一気に抜き放った。
刀身に赤黒い魔力の炎が宿り、周囲の部下たちも一斉に魔導弓を構える。
「全兵、魔導弓用意! 逆賊どもを蜂の巣にしろ! あの生意気な平民も、トカゲ女も、まとめて消し炭にしてしまえ!」
ジャキッ、と数十本の弓矢が、一斉に俺たちへと向けられた。
「お、お兄ちゃん……! あいつら、本気で撃ってくるよ!」
エマが緊張で息を呑む。
だが、ルナが静かに一歩前に進み出た。
メイド服の裾を翻し、サファイアの瞳を鋭く細める。
「カイト様。害虫の駆除、許可を」
「待て、私も戦うぞ!」
ヴィオラも震えを断ち切るように前に出ると、自分の身の丈の倍もある巨大な鉄の鍛冶ハンマーを、両手で力強く握りしめた。
瞳に宿るのは、先ほどまでの怯えではなく、自分を救ってくれた仲間を守ろうとする龍人族の誇り高い闘志だった。
「私のご飯と恩人をバカにする奴らは……私が全員ぶっ飛ばしてやる!」
2人の頼もしい背中を見据え、俺はニヤリと口元を吊り上げた。
「よし、ルナ、ヴィオラ! 思う存分暴れていいぞ! ――ただし、相手の武器は壊しすぎないようにな」
「えっ? 壊しちゃダメなの?」
不思議そうに振り返るヴィオラに、俺は親指をグッと立ててみせた。
「壊しすぎたら素材にならないだろ? あいつらが持ってる最新の魔導兵器……後で俺が、全部美味しくアップサイクルしてやるからな!」