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第4話「残された言葉」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/11/7 📚 シリーズ: おしくらまんじゅう貞 📝 2,905文字 ✅ 全年齢

あらすじ

この世界では、おしくらまんじゅうを経験したことがない人間は、「おしくらまんじゅう貞」と呼ばれ、馬鹿にされる。 佐野悠太も、そんな未経験者の一人だった。 おしくらまんじゅうをしたことがあるかどうか。 それだけで人間の価値が決められるような社会に、疑問を抱きながらも、周囲の目を気にして生きている。 そんな佐野が、ある日、思いがけない出会いを経験する。 おしくらまんじゅうをしない人間は、本当に恥ずかしいのか。 奇妙な世界を舞台に、偏見と同調圧力を描く、不条理な社会風刺小説。 ■佐野悠太(さの ゆうた) 主人公。男性。おしくらまんじゅう未経験者。気が弱く、周囲の目を気にしやすい性格。 「おしくらまんじゅう貞」と呼ばれて馬鹿にされており、未経験であることに引け目を感じている。 おしくらまんじゅうそのものに強い興味はなく、経験の有無で人間を評価する社会に疑問を抱いている。 公園で偶然出会った黒田健吾と宮本美咲と親しくなり、 仲間たちとの交流を通して少しずつ考え方を変えていく。 ■黒田健吾(くろだ けんご) 男性。おしくらまんじゅう未経験者。正義感が強く、思ったことをはっきり口にする性格。 自分が未経験であることを恥じておらず、未経験者を馬鹿にする社会の風潮に強い怒りを抱いている。 公園で佐野が馬鹿にされている場面に遭遇し、差別的な発言をした人々に言い返す。 その後、佐野や宮本と意気投合する。 行動力があり、3人の中では最も積極的な人物。 ■宮本美咲(みやもと みさき) 女性。おしくらまんじゅう未経験者。落ち着いた性格で、物事を冷静に考える。 女性にもおしくらまんじゅうの経験を求める社会の風潮に疑問を持っている。 経験するかどうかは個人の自由であり、他人が口を出すことではないと考えている。 公園で佐野と黒田のやり取りを目撃し、会話に加わる。 感情的になりやすい黒田を落ち着かせることもあり、3人の意見をまとめる役割を担う。 ■高橋修一(たかはし しゅういち) 男性。故人。おしくらまんじゅう未経験者。 生前は物静かな人物だったが、未経験者への差別に強い問題意識を持っていた。 「おしくらまんじゅう貞」と呼ばれて繰り返し馬鹿にされ、 経験の有無によって人間の価値が決められる社会に疑問を抱くようになった。 数年前、未経験者への差別に抗議するために食事を断ち、餓死した。 生前に自分の考えを語った映像メッセージを残しており、その言葉が佐野たち3人に大きな影響を与える。 ■高橋和子(たかはし かずこ) 女性。高橋修一の母親。穏やかで口数の少ない性格。 数年前に息子を亡くし、修一が生前に残した映像メッセージを大切に保管している。 佐野、黒田、宮本の3人が訪ねてきた際、息子の遺志を知ってもらいたいと考え、映像を見せる。 息子の死について多くを語ることはないが、未経験者への差別がなくなることを願っている。

本文

高橋和子から返事が届いたのは、宮本美咲が連絡を送ってから三日後のことだった。

『息子のことを知ろうとしてくださり、ありがとうございます。

映像は今も手元にあります。よろしければ、見にいらしてください』

その文章を読んだ佐野悠太は、胸が高鳴った。

数年前、おしくらまんじゅう未経験者への差別に抗議し、餓死した高橋修一。

その男性が残した映像を、ついに見ることができるのだ。

約束の日、佐野、黒田健吾、宮本の三人は、高橋和子の家を訪ねた。

呼び鈴を押すと、しばらくして扉が開いた。

「いらっしゃい。お待ちしていました」

穏やかな表情の女性が立っていた。

「高橋和子です」

「佐野悠太です。今日はありがとうございます」

三人が順番に挨拶すると、和子は静かにうなずいた。

「どうぞ、お入りください」

案内された部屋には、小さなテーブルと椅子が置かれていた。

壁には、一枚の写真が飾られている。

佐野は、その写真に目を留めた。

男性が穏やかに微笑んでいた。

「息子の修一です」

和子が言った。

三人は写真を見つめた。

ごく普通の男性に見えた。

この人が、差別に抗議して命を落としたのだ。

「息子のことを調べてくださったそうですね」

和子が尋ねた。

「はい」

宮本が答えた。

「私たちも、おしくらまんじゅうを経験したことがありません」

和子は少し驚いたようだった。

「そうでしたか」

「私たちも、未経験であることを理由に、嫌な思いをしてきました」

佐野が言った。

「それで、高橋さんのことを知って、どうしても映像を見たくなったんです」

和子は静かにうなずいた。

「修一も、同じようなことを言っていました」

そう言って、部屋の隅に置かれた機器を操作した。

「これが、息子の残した映像です」

画面が明るくなった。

そこには、一人の男性が映っていた。

写真と同じ顔だった。

高橋修一。

男性はカメラをまっすぐ見つめていた。

しばらく沈黙が続いたあと、ゆっくりと口を開いた。

『私は、おしくらまんじゅうをしたことがありません』

佐野は息をのんだ。

『異性と背中や尻を押し合った経験が、一度もありません』

修一は淡々と語った。

『それだけの理由で、私は何度も馬鹿にされてきました』

『おしくらまんじゅう貞。未熟な人間。魅力のない人間。

そんな言葉を、何度も聞かされました』

黒田は黙って画面を見つめていた。

『私は、ずっと疑問に思っていました』

『なぜ、おしくらまんじゅうをしたことがないだけで、

人間として劣っていることになるのでしょうか』

『背中や尻を押し合った経験が、人間の価値を決めるのでしょうか』

修一は少し間を置いた。

『私は、おしくらまんじゅうを否定しているわけではありません』

『楽しみたい人は、楽しめばいいと思います』

『恋人同士でしてもいい。友人同士でしてもいい。大勢でしてもいい』

『ただし、誰とするか、するかしないかは、本人たちが決めることです』

宮本が小さくうなずいた。

『ところが、この社会では、

異性とおしくらまんじゅうを経験していない人間が、

まるで欠陥のある人間のように扱われています』

『同性同士で経験しても、経験したことにはならないと言われます』

『なぜでしょうか』

『背中を押すという行為に、性別による価値の違いがあるのでしょうか』

修一は首を横に振った。

『私は、そうは思いません』

『そもそも、経験しているかどうかを、他人が評価する必要などないはずです』

佐野は、これまで自分が浴びせられてきた言葉を思い出した。

おしくらまんじゅう貞。

努力不足。

人間として未熟。

何度も聞かされてきた言葉だった。

しかし、修一の話を聞いていると、それらがひどく理不尽なものに思えてきた。

『私たちは、おしくらまんじゅうをするために生きているのでしょうか』

修一が問いかけた。

『人生には、もっとたくさんのことがあります』

『誰かを大切にすること。何かを学ぶこと。

好きなことを楽しむこと。困っている人を助けること』

『そうしたことよりも、

異性と背中や尻を押し合った経験のほうが重要なのでしょうか』

画面の中の修一は、静かに言葉を続けた。

『私は、そうは思いません』

『おしくらまんじゅうをしたことがなくても、立派な人間はいます』

『おしくらまんじゅうをしたことがあっても、他人を傷つける人間はいます』

『経験の有無だけで、人間の価値を決めることはできません』

黒田が、膝の上で拳を握った。

『私は、特別な扱いを求めているわけではありません』

『おしくらまんじゅう未経験者を、経験者より偉くしてほしいとも思いません』

『ただ、同じ人間として扱ってほしいのです』

『おしくらまんじゅうをしない自由を、認めてほしいのです』

修一は一度、視線を落とした。

そして、再びカメラを見つめた。

『もし、この映像を見ている人の中に、おしくらまんじゅう未経験者がいたら、

伝えたいことがあります』

佐野は思わず身を乗り出した。

『あなたは、恥ずかしい人間ではありません』

『あなたには、何も欠けていません』

『誰かに押してもらわなければ、一人前になれないわけではありません』

『あなたの価値は、あなた自身のものです』

佐野の胸が熱くなった。

自分が、ずっと誰かに言ってほしかった言葉だった。

『そして、経験者の皆さんにもお願いがあります』

『どうか、未経験者を馬鹿にしないでください』

『自分と違う生き方をしている人を、見下さないでください』

『おしくらまんじゅうをする自由があるのなら、しない自由もあるはずです』

修一は最後に、こう言った。

『いつか、おしくらまんじゅうをしたことがあるかどうかなど、

誰も気にしない社会になることを願っています』

『人間の価値が、背中や尻を押し合った回数で決まらない社会を』

『どうか、そんな社会をつくってください』

映像が終わった。

画面が暗くなった。

部屋には、しばらく沈黙が続いた。

誰も、すぐには言葉を発しなかった。

最初に口を開いたのは黒田だった。

「俺たちが思っていたことを、全部言ってくれた気がする」

宮本もうなずいた。

「私もです。

特に、する自由があるなら、しない自由もあるという言葉が、心に残りました」

佐野は、暗くなった画面を見つめていた。

「僕は……」

言葉が詰まった。

「ずっと、自分がおしくらまんじゅう貞であることを、恥ずかしいと思っていました」

和子は黙って聞いていた。

「でも、今の映像を見て、初めて、恥ずかしがる必要なんかないんだと思えました」

和子は静かに微笑んだ。

「修一が聞いたら、きっと喜ぶと思います」

佐野は、壁に飾られた修一の写真を見た。

写真の中の男性は、穏やかに笑っていた。

数年前に亡くなった人間の言葉が、今、自分たちの心を動かしている。

佐野には、それが不思議だった。

そして、強く思った。

この言葉を、自分たちだけのものにしてはいけない。

高橋修一が残した願いを、忘れられたままにしてはいけない。

佐野は黒田と宮本を見た。

二人も、同じような表情をしていた。

三人は、何も言わずにうなずき合った。

その胸の中には、これまでとは違う思いが芽生えていた。

(第4話・完)

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作者について

ブンブン

ブンブン

AIで小説を書いています。

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