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第19話 記憶の疑念

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/1/3 📚 シリーズ: 神環ノ縁~和風ソシャゲのモブ神主に転生したので巫女たちと縁を繋いで穢れを祓います~ 📝 3,023文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

神環ノ縁~和風ソシャゲのモブ神主に転生したので巫女たちと縁を繋いで穢れを祓います~ - 第19話 記憶の疑念

本文

──陽はまだ高かったが、空は既に陰っていた。

 黒鳴渓──。かつてこの地に神環柱が立っていたとされる渓谷には、重たく濁った霊圧が充満していた。

 谷を挟んで南北に展開された布陣は、都直属の近衛軍、巫術院派遣隊、そして八雲たちの独立小隊という三組に分かれていた。

「前衛班、展開完了。後衛・結界支援陣、定点維持開始します」

 綾音の手元から霊符が舞い、空中に式陣が展開されていく。その下ではレンが霊布を巡らせ、封域強化と干渉対策を同時に展開中。

「破界種反応、距離八百。二分以内に接触します」

 響の報告は、空気を一層緊張させた。

 前哨戦。それは、本体戦の前に現れる穢れの尖兵群──まさに突端の牙。

「……さて」

 玲が戦斧を肩に担ぎ、八雲の脇に立った。

「どこまでやれるか見てもらうか。あたしたちの新しい連携ってやつをよ」

 八雲は小さく頷いた。

 俺は、もう前には出ない。守ることに徹して、彼女たちを活かす。

 左手に符、右手に霊環石。即時展開の六重式を常に再起動可能なように準備を整える。

 その時──

「じゃあ、僕たちは西側の前衛を受け持ちます」

 壮馬が声を上げた。

「了解しました」

 綾音が応じた直後、壱香が薙刀を肩に掲げる。

「お兄ちゃん、安心しててね。わたし、全員守るって決めてるから!」

「……壱香。怪我だけは、するな」

「うんっ!」

 明るく答えて駆け出す彼女の背を、八雲は複雑な思いで見送った。

 ……本当に、もう神技を使う巫女なんだな。

 ◇ ◇ ◇

 破界種──それは、神環の外側に属する穢れが霊核を失い、暴走個体と化したもの。一撃一撃が重く、破壊衝動に特化した行動様式を持つ。

「接触! 一号体来ます!」

 響の声と同時に、霊災が空を裂く。

 赤黒い霧と共に現れた異形は、瘴気の触手を振り回しながら前衛へ突進。

「八方封止・重撃遮断──式起動!」

 綾音の結界が割り込む。その直後、横合いから跳び込んだのは壱香。

「清刃・絶間斬!」

 長柄の薙刀が光を纏い、薙ぐように一閃。破界種の脚部が断ち切られ、体勢を崩す。

「今っ!」

 壮馬の声が重なり、疾風のように踏み込む。大太刀が火花を散らしながら、断ち切れた脚部を穿つように突き上げ──

「崩霊・連破の型!」

 霊波の衝撃が破界種の内核を砕き、爆発的な逆流を引き起こす。

「っく……凄まじい連携ね……」

 綾音が息を呑み、レンが小さく呟いた。

「……今の壱香ちゃん、すごく綺麗だった……。戦ってる女の子の姿って、あんなに強くて、まっすぐなんだね」

 ──八雲は、それを黙って見ていた。

 いや、見守っていた。彼女たちが、前に立っていることを。自分の知らなかった世界の強さが、そこに確かにあるということを。

 ならば、俺はこの世界の変化を──どう、受け入れるべきか。

 空を覆う瘴気の奥、破界種の更なる群れが、うごめいていた。

 ◇ ◇ ◇

 ──戦は、速やかに終息した。

 前哨戦、という言葉がふさわしい程度の衝突だった。破界種三体。すべて尖兵級。けれど、単体で神環巫女ひとりを戦闘不能に追い込める危険度はあった。

「お疲れ様、八雲くん」

 レンがそっと水筒を差し出してきた。

 八雲はそれを受け取り、口を湿らせる。

「……ありがとう」

「ねぇ、どうだった? あの子たち」

 視線の先には、陣地の傍で談笑する壮馬と壱香たちの姿。

 焚き火を囲むようにして、食事を交わしながら笑い合っていた。四人は、そこに役割ではなく居場所を持っていた。

 この世界で訓練され、共に過ごし、信頼を積み重ねて。──すでに、完成されたチームだった。

 じゃあ、俺とレンは……?

 遅れて混ざった側なのか。それとも、最初から別系統の物語なのか。

 思考が、妙に冷静になる。分析と内省が、勝手に走り出す。

 あの子たちは、俺が知らなかった神環ノ縁なのか?

 ◇ ◇ ◇

 日が沈み、仮設拠点に灯がともる頃。

 各班には本体戦への最終指令が下されていた。

 ──翌朝、第一陽光の刻──黒鳴渓主核への突入を開始する。

 ──主力班、精鋭巫女・巫術師同伴部隊をもって撃破を担うこと。

 八雲たちの班、そして壮馬たち巫術院班は、並列戦力として同一戦線に配されることとなった。

「じゃ、明日から本番ですね」

 壮馬が軽く笑い、八雲個人に声をかける。

「さすがですね。とんでもない連携を見せてもらいました。僕も自信はあったのですが、まだまだですね」

「……いいや、君たちも、見事だった」

 それは、偽らざる本音だった。

 だからこそ、だった。

 ──明日、同じ敵と対峙する。

 ──この違和感を飲み込みながら。

 八雲は空を仰いだ。

 夜空に、星は見えなかった。だが、その奥で何かがこちらを見ているような、そんな感覚だけが、妙に確かにあった。

 ◇ ◇ ◇

 ──夜風が、幕営の端をすり抜けていった。

 仮設天幕の奥、中央結界に併設された作戦帳場では、次なる戦闘に備えた配置図と霊環の配列構成が、光の糸のように宙に描き出されていた。

「……これで、戦術域は一通り共有完了です。僕たちは主核突入班の東列を担当しますので、後衛支援はお任せします」

 壮馬の声は、八雲に向けられたものだった。口調に無駄はなく、丁寧で理路整然としている。そのくせ、どこか隙のない人当たりの良さを纏っていた。

「……了解した。俺たちは南側から遮断陣を張る。霊災の流れが逸れれば、後方の術陣で処理を誘導する」

「ありがとうございます。とても助かります」

 軽く頭を下げる仕草まで、自然だった。

 八雲は無言で図面を閉じながら、ふと気づく。

 彼は年若い。にも関わらず、指揮にも言葉にも揺れがない。訓練されている、というより……この世界でずっと生きてきた空気がある。

 ふと視線を上げると、少し離れた霊石の傍で、壱香がレンと談笑しているのが見えた。その輪には綾音も玲も自然に加わっており、響も微笑を浮かべてうなずいていた。

 まるで、ずっと前から一緒にいたかのように。

 ──拒絶は、なかった。

 八雲は気づく。

 自分だけが、記憶に縛られている。

 壱香は今、巫女として戦っている。壮馬は、神技を扱う術士として職務を全うしている。この世界では、それが当たり前になっていた。

 それでも、俺は違うと思ってしまう。

 過去の記憶。レンが語った内容。自分のプレイ時代に存在しなかったキャラクターたち。

 そのすべてが、今目の前に実在しているという事実。それを受け入れるには、もう少し時間が必要だった。

「──八雲さん」

 ふいに、壮馬の声が戻ってきた。

「はい」

「……どうか、無事でいてください」

 静かだった。その一言は、戦場で交わされるありきたりな挨拶にすら聞こえた。

 だが、八雲はその奥に、かすかなまなざしを感じた。同じ構造の中に立つ者として、何かを知っている者として──そう言われたような気がして。

「……君も、気をつけてくれ。君の隣には、君を信じている仲間たちがいる」

「ええ。……それは、僕の何よりの支えです」

 そして、ほんの一瞬。壮馬の目が、八雲の背後──レンたちの方を、ちらりと見た。

 八雲の胸に、言葉にならないものが去来した。

 ◇ ◇ ◇

 ──そして、翌朝。

 空が白み始める。神環の柱が微かに震え、霊圧が戦域全体に滲みはじめていた。

「突入陣、展開準備完了」

 綾音の声が張る。

「全域、霊圧警戒レベル第三相へ移行」

 響が淡く頷く。

「来るよ」

 レンが振り返り、八雲を見る。

「八雲くん、わたしたち──準備はできてるから」

 八雲は、ゆっくりと立ち上がった。

 どれだけこの世界が変わっても、俺の立場が変わっても、それでも──。

「……行こう」

 彼女たちを守る。この構造の意味を、見届ける。

 空が、うねった。

 本体戦が、始まる。

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作者について

悠希

悠希

WEB小説投稿者 あいぺん、ノクターンノベルズ、ソリスピア、小説家になろう、カクヨム、pixiv、caitaにて作品投稿中

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