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第30話 地より現れし縁の名

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📅 公開日: 2026/1/6 📚 シリーズ: 神環ノ縁~和風ソシャゲのモブ神主に転生したので巫女たちと縁を繋いで穢れを祓います~ 📝 3,871文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

神環ノ縁~和風ソシャゲのモブ神主に転生したので巫女たちと縁を繋いで穢れを祓います~ - 第30話 地より現れし縁の名

本文

空気が、焦げていた。

 いや、それは比喩ではない。神環南方の旧祭場跡──霊脈の断層が剥き出しとなったこの土地では、目に見えるほどの霊的粒子が空中に舞い、火の粉のように揺らめいていた。

「……っ、壱香、左──!」

「了解っ!」

 壮馬の叫びを受け、壱香が素早く結界札を展開した。術式陣が浮かび上がり、脇から迫る紫黒の影を封じ込める。

 霊災──否、穢れの群れは、終わりのない奔流のように湧き続けていた。

「双葉っ、再環陣、三秒持たせて!」

「は、はいぃっ……うう、ぅっ……!」

 背後の双葉が懸命に霊圧を繋ぎ、中央の陣に回復波を流し込む。小柄な身体がぐらつきながらも、視線だけは真っ直ぐに術式の中心へ注がれていた。

「散華……ッ!」

「わかってる。まとめて潰す」

 散華が左掌を前に突き出し、空気がびりりと震えた。迸る白雷。濁流のような音圧が突き抜け、目の前の地形ごと穢れをなぎ払う。

 ──が、その直後、消し飛んだ場所の奥からさらに別の呻きが届く。

「……キリが、ない……」

 壮馬は無意識に唇を噛んでいた。倒せている。三巫女の霊技は確実に届き、敵の一群を撃破できている。だが、湧き出す穢れの勢いが、それを常に上回っている。

 消耗戦……? いや、これは……

 違和感。数と強さ、その両方が底なしのような気配を持ち始めている。地脈の何かが逆流しているのだとしたら、今の自分たちでは決定的な突破口を作れない──

 そのとき。

 音が、変わった。

 風でも雷でもない。まるで、空気そのものが音階を持ち始めたかのような──

 ──ひゅぅぅん、と。

 空を滑るような微かな反響が、辺りを包み込む。

「……八雲さん!」

 壮馬のその声は、戦場の空気に微かな安堵を落とした。

「レンっ、綾音、玲、援護──いくぞ!」

 八雲の声が放たれると同時に、光が閃いた。斜め上空から飛来する霊式光弾が穢れを撃ち抜き、その中央に、五人の姿が降り立つ。

 八雲、レン、綾音、玲、響。すでに主戦線での経験を積んできた精鋭陣の到着に、地面の霊流が一瞬、逆流したように脈動する。

「遅くなった……が、状況は把握した。綾音、玲、レン。左翼から回り込め」

「了解ですわ。レンさん、合わせて」

「はい──模写結陣、始動します」

 綾音が舞うように進み、玲が鋭く斬撃を散らす。レンの影が彼女たちの後ろを這い、そこに霊の模写陣が重ねられていく。

「再現連舞──霊環繰式、開陣!」

 レンの声とともに、光が爆ぜた。

 ──連携。

 それはただの同時攻撃ではない。互いの神技が混ざり合い、他の誰にも真似できない奏となる。

 それを、八雲は後方から見守る。

 振り返ったその先に、見慣れた姿があった。

 黒の神職衣装に身を包んだ八雲。その隣には、紅の儀礼衣を纏った綾音、金の線衣を翻す玲、そして白と水色の軽装巫女服のレン。さらに、音巫術の響が、足元の石に手を添え、地に霊波を流している。

 霊力によって前線の地脈流路を修正する。それだけで、兵たちの体感する疲労が半減し、穢れの密度が明確に揺らいだ。

「さすが、神環さま……!」

「全周霊路を再構成してくれたぞ!」

 八雲は壮馬や兵たちに頷く。

「大丈夫だ。もう少し持ちこたえてくれ、今から禍根を断ちにいく」

 八雲の声音に迷いはなかった。

 それが──深淵への第一歩だった。

 ◇ ◇ ◇

 霊流が脈動していた。

 響が伏せたまま、指先で地を軽く叩き、巫術による音の粒子を大地に染み込ませる。低く、ゆっくりと──まるで地面が息をしているかのように、霊波が共鳴していた。

「……ここ。やっぱり異常がある。地の鼓動が早すぎるわ」

 響が目を伏せたまま言う。彼女の感覚は、音そのものではなく、地霊の音を聴くことに特化していた。

 八雲はその分析に頷き、地面に結界符を展開する。

「断層の先に地下裂孔がある。……地脈が直に露出している状態だ。霊圧の還流も制御を逸脱している。──地下へ行くぞ」

 響が地に掌を当て、石組みの中心に小さな裂け目を作る。そこに、八雲が第一歩を踏み入れた。

 深い霧が、そこにはあった。

 都の清浄結界内とは明らかに異なる、濁った霊圧の渦。熱くもなく、冷たくもなく、ただ霊的に密であるだけの空間。空気を吸うたびに、意識の底へと何かが染み込んでくるような感覚。

「ここが、源か……」

 綾音が言葉少なに周囲を見渡す。

 地下空洞の広さは、神殿ひとつを収めてなお余りある。石壁には天然の霊鉱が走っており、あちこちにかすかな光が瞬いていた。

「これ、全部……地脈の露出?」

「いや。露出ではない。開きすぎたんだ。……自然にここまで開くはずがない」

 八雲は苦々しく言い切った。

「誰かが、あるいは何かが──ここを故意に開けた」

 その言葉に、四人の巫女の動きが止まる。

 空気が、重くなる。

 しん、と一拍の静寂を置いて──その何かは、音もなく現れた。

 霧の奥。半透明に揺れる地脈光の中央に、立っていたのは──

 一人の巫女。

 それは、異様なほど静かだった。

 乱れた髪でも、荒れた衣でもなく、彼女はまるで式典の途中で立ち尽くしてしまったような静けさで、そこにいた。

 白髪。柔らかく波打つ長い髪が、腰まで垂れている。淡雪のように清く、それでいて不吉な印象すら含んだ色彩。

 巫女装束は確かにこの世界のものと同じ形式。だが、どこか異質だった。衣の白が、過剰に整い、まるで映像から切り抜かれた美しさのようだった。

 八雲は、その存在に覚えがなかった。綾音も同様に、静かに眉をひそめ、手を構えて言う。

「……穢れの只中に立つなんて……何者ですか?」

 その問いに、彼女は答えなかった。

 ただ、虚ろな目で八雲たちを見つめている。口は半開き。意識があるのかすら怪しい。

「音は……生きている人のものよ」

 響が呟いた。

「……八雲くん」

 震えるような声で、レンが前に出る。

 彼女の目が、大きく見開かれていた。そして、まるで自分の目を疑うようにして、唇を震わせながら告げた。

「その人……柊ユリだよ……!」

「──……柊?」

 八雲は目を見開く。どこかで聞いたことがあるどころではない。思い出した瞬間に息が止まる。それは……

「柊ユリ……! 神環ノ縁の……キャラクター……! 私が……私が演じるはずだった…声を当てる予定だった子だよ……!」

 レンの声は、確かな恐怖と混乱を孕んでいた。

 八雲は一歩、無意識に下がった。現実と幻想の境界が、にわかに揺らぎ始めていた。

 確かにゲーム知識に囚われていた頃は、柊ユリはレンの現実世界への帰還の鍵として探していた。しかし、調査の結果、現時点では、そのような名の者は都に存在しないことはわかっていた。

 この世界に、いないはずの者が立っている。ゲームの、イベント限定の、裏ルートにしか登場しないはずのキャラクターが。

 ──その時。

 柊ユリが、ゆっくりと右手を上げた。

 小指まできれいに揃った、非の打ち所のない動作。掌を天へ向け、まるで演目の始まりのような所作だった。

 直後、地下空洞に満ちていた穢れの瘴気が、一斉に揺れた。

「っ……何か、来る……!」

 玲が咄嗟に霊障陣を展開しようとするが、それよりも早く──

 穢れた空気が、地面に吸い込まれるようにして消え始めた。

 音がない。術の光もない。ただ、霊的な在り方そのものが書き換えられたかのように、空間を埋め尽くしていた無数の穢れが、存在ごと地に還っていく。

「なっ……全部、消えて……?」

 綾音の声も、玲の瞳も、完全に凍りついていた。

 柊ユリは、何もしていないように見える。

 それでも、彼女の指先ひとつで世界が変わったのだ。

 ──そして。

「レン……綾音、離れて……っ!」

 八雲が叫ぶと同時に、柊ユリの目がわずかに揺れた。

 彼女が、もう片方の手を胸元に添える。まるで、舞台の最中に次の幕を知らせる演者のように。

 その瞬間、霊圧が弾けた。

 不可視の力が、音も衝撃もなく──斥けた。

「くっ……うあぁっ!?」

「っ八雲さま、だめ……っ!」

 綾音、玲、響、そしてレンまでもが、不可視の力に弾かれるようにして地へと吹き飛ばされていた。

 結界を介さずに吹き飛ばされた衝撃に、誰もがなすすべを持たなかった。

 残されたのは、八雲一人。

 足を半歩引きかけたその瞬間、柊ユリの姿が、静かに近づいてくる。

 その歩みは、一切の揺れを含まない。身体の線も、衣擦れも、呼吸の乱れもない。完璧すぎる静謐さが、逆に恐怖を生んでいた。

 八雲は、動けなかった。

 体が、ただ理解できないものに反応し、本能的に凍っていた。

 柊ユリは目を細めた。その瞳の奥には、色はあれど、光がない。まるで魂を与えられていないまま生きる人形のようだった。

 そして彼女は、言葉を紡いだ。

「──このカグラを守るには、あなたの力が必要なのです」

 八雲の背中にぞくりとしたものが走る。その声は紛れもなくレンと同じものだったからだ。

 そして、そっと八雲の首へ、細い腕を回す。

 その所作は、静かだった。ゆっくりと持ち上がる手。近づくたび、八雲の肌に人間の体温が触れた。

 彼女の顔が近づく。ひとつまばたきをする間に、もう唇はすぐそこだった。

 そして、ふれた。

 軽く、しかし拒絶不能な、ひとつの接吻。

 それは命を奪う刃のように、八雲の存在を、世界から引き剥がした。

 光が、炸裂する。

 白く、眩く、ただ静かに、空間そのものを染め上げていく。

「──っ、八雲くん!!」

 地に伏していたレンが、必死に叫ぶ。綾音が霊力を集めて手を伸ばすが、その指は届かない。

 玲が剣を振るおうとするが、音がない。響が鼓を打つが、その波はすべて消えていく。

 光の中で、柊ユリと八雲の姿が、輪郭ごと掻き消える。

 誰の力も届かない。

 誰の声も通らない。

 ただ、静かに、縁が引き裂かれた。

 レンの八雲を呼ぶ叫び声だけがむなしく響き渡った。

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作者について

悠希

悠希

WEB小説投稿者 あいぺん、ノクターンノベルズ、ソリスピア、小説家になろう、カクヨム、pixiv、caitaにて作品投稿中

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