第15話 暗雲
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
五色の音色に囚われて - 第15話 暗雲
本文
「……は?」
朝の準備中。
スマホに届いた新着ニュースを見て思わず声が出た。
五行輪舞と関わるようになって、だからバンド関連の記事を良く見るようになって、そういうニュースが優先的に飛び込んで来る事は別に不思議でも何でもなかった。
なのに、それでも驚きを隠せなかったのは、そこで書かれている内容が私が予想している物と全く違っていたからだ。
「アマチュアバンドライターのバン君、某ガールズバンドと蜜月の関係……!?」
以前五行輪舞を取り上げたバン君が、某ガールズバンドを記事にする見返りとしてそのバンドのヴォーカルに所謂枕営業を要求していた……という物。
それを見かねたベースがSNSで告発した、という流れ。
このヴォーカルは20代だし、時期も地域も違うから五行輪舞とは無関係だ。
けれど……バン君が記事に取り上げたバンドと良からぬ関係にあるという疑惑が浮き上がった以上、五行輪舞もあらぬ誤解を受ける事にもなりかねない。
……いや、実際に荒れている。
あくまでその界隈で話題になりだしたアマチュアガールズバンド……でしかないので大炎上って程では無いけれど。
それでも五行輪舞で検索すれば確かに様々な反応があった。
『五行輪舞もバン君に枕して記事書いてもらったんじゃね?www』
『あのバンド、顔だけはめっちゃ良いからな』
『憶測で批判してる奴って五行輪舞のライブに行った事無いんだろうな』
「なんだよコレ……っ」
五行輪舞を疑って揶揄する者。
ファン故に、擁護が行き過ぎて攻撃的になっている者。
ただただ面白半分で騒ぎを大きくしようとする者。
「恋……っ!」
そんな中最初に浮かんだのは恋の顔。
人の悪意に触れず、純真無垢に育って。
こういったニュースを読んでいるとは思えないけど、心配したクラスメイトから連絡が来てそれで知る可能性もある。
そして恋にとっては、そのどれもが心を傷付ける刃になる。
「恋……!」
電話帳を開き、恋の名前を選んでタップする。
呼び出し音が5回鳴っても恋は出なくて。
けれど留守番電話に切り替わる直前のタイミングで声が聞こえた。
『……もしもし』
「恋……大丈夫か?」
『うん、平気だよ』
「鼻声じゃねーか……変に気を回すなんて恋らしくないって」
『うん……っ、ごめんね……っ』
「謝るなって。とにかく今日は休め。学校終わったら会いに行くから」
『うん、ありがとう……』
「とにかく五行輪舞は無関係なんだから気にすんな」
『うん、うん……』
「じゃ、後でな」
『うん……』
電話を切ってから大きく溜息。
あの鼻声、全然隠せて無かった。
そして恋が泣いたりそれを隠そうとした事にも、少し驚いた。
社会に不満が無いから不真面目を学びたいとか。
誰とでも距離を詰めてすぐ仲良くなって。
才能があって、カリスマ性もあって、私みたいな凡人とは全然違う存在なんだって。
そう思っていた涼音にだって人間くさい所がちゃんとにあるって知った筈なのに。
恋がそうじゃないなんて、絶対に言える訳が無いのに。
◇◇◇◇◇
「委員長おはよー」
「おはようございます」
ひとまず普段通り学校に来た。
道すがらクラスメイトも挨拶してくるが、やっぱり微妙な空気が漂っている。
「だから、あの記事とウチらは無関係なの。
そりゃ記事を書くに当たって許可は出したけどソレだけ。
つまんない憶測でウチらを叩かないでくれる?」
「ひいぃ……で、でも金原さん!
五行輪舞ってバン君の記事のお陰で知名度上がって人気出たんでしょ?
ならその見返りに枕してても不思議じゃないって……」
「誰が言ってんの?」
「え、み、みんなが……」
「そのみんなが誰なのかって聞いてんの。アンタもその一人?」
「い、いや……その……」
「大方クラスの連中に聞いてこいって無理強いされたんでしょ?
ウチはなんら関係無い。言いたい事があるなら直接言えって伝えなさい」
「は、はい……」
教室に入ると涼音が如何にも気弱そうな子を威圧していた。
まぁ涼音の言う通り、クラスの奴らに聞くように言われたんだろうな。
不安の現れか、今日の涼音はピアスを大量に付けていて、常に左右どちらかの手でピアスに触れていた。
「金原さん」
「あら、愛花」
涼音を呼び寄せる。
当然クラスは騒つくけど、二人きりの方が話し易いからな。
「恋はどうだ?」
「凹んでるわ。本当ならずっと側に居たかったんだけど……学校の連中に釘刺しておかないとね。
最悪海里が暴れて余計話が拗れるかもしれないし」
「そうだな……でもその水城が暴れた様子は無いから少し安心した」
「来てないわ」
「……え?」
「来てないのよ、そもそも。芽衣もね。
たぶん海里が討ち入りの準備だかしてて、それを芽衣が抑えてるんじゃない?」
「討ち入り……いや、水城なら有り得るか……?」
水城に関する様々な噂を思い出し、背筋が寒くなる。
私の知る限りでは最も危険で、イカレタ女……それが水城 海里だ。
「ん?」
そんな折、スマホにメッセージが届き思わず目を向ける。
そこにチラッと見えた五行輪舞の文字に不吉な予感を覚えながら、ニュースアプリを開いた。
「ロックバンドSilver Kongのドラム、kojiが話題の五行輪舞に物申す……?」
内容は非常に腹の立つ物だった。
五行輪舞の人達は恵まれた環境で育ったのかな? とか。
いざと言う時は親に泣き付けば良い彼女達が羨ましいですね(笑)とか。
地獄を見てきた俺達と違って温室でぬくぬくと生きてきた人にお遊びでロックバンドを名乗ってほしくない、とか。
それ等は全部、恵まれた環境に苦しんで不真面目を学ぼうとした恋の努力を、音楽を否定するような物だった。
「反吐が出るわね。……あら」
「恋から?」
「違う、芽衣よ。SOSだって」
「え、何かヤバい事になってるのか⁉︎」
「いや、海里が暴れて手が付けられないんでしょ」
「この記事見たのか……ん?」
私のスマホにも着信。相手は……
「恋っ⁉︎」
『ひぐ……っ、ひ……っ、愛花ぁ……』
「恋! どうした⁉︎」
『ぼ、ボク……もっと悪い子にならないと駄目なのかなぁ……っ』
「っ、恋! あんなの恋を知らない奴が勝手に言ってるだけだっ!」
『でも言ってるのホントだもん! ボクにロックの魂が無いから薄っぺらいって!
そのせいでみんなに迷惑掛けちゃうから……だから……っ』
「落ち着け! とにかく今からそっちに行くから馬鹿な事考えんなよ!」
通話ボタンを叩いて涼音と目を合わせる。
「行くのね?」
「あぁ。涼音も一緒に……」
「行きたいのは山々だけど、あの暴れ猿を大人しくさせないとね。……これ、持っていきなさい」
「鍵?」
「恋の家に鍵が掛かって入れない時はアタシの部屋から乗り込みなさい。
窓も閉めてたら思いっ切り蹴破ってやると良いわ」
「やれる事は何でもやるさ。ありがとう!」
「良いこと? 絶対に恋に道を踏み外させるんじゃないわよ。
……こんな状況で真っ先に頼られたんだからね」
「涼音……」
あぁ、そうだ。
涼音は今までずっと恋を守ってきて、それなのに恋が連絡を寄越したのは私の方で。
内心は穏やかじゃない筈なのに……
「行ってくる!」
「行ってきなさい」
受け取った鍵と想いを胸に、恋の元へ走った。
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