※ 第7話 磔られた神
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
売りに出されて三年目、神様のお世話係に任命されました - ※ 第7話 磔られた神
本文
それからまた幾許かの月日が流れ。
筑摩家を訪れる人が増えていき、その度に筑摩家の活気が増していくのを感じます。
それに比例して旦那様の機嫌も良くなり、その要因である私の扱いもまた他の下女と比べて良くなりました。
妬まれる事もありましたが、旦那様の覚えが良く、明確に小春様のお気に入りなので直接手出しされるような事はありません。
深い事情を知っている人は、お世話係をやらされては堪らない……と殊更に我関せずの姿勢を貫いています。
そんなある日。
大勢のお客様……にしては服装が粗野でしたが……が訪れ、旦那様は彼等を引き連れてお屋敷を出ていかれました。
お客様の中に一人だけ身なりの良い男性が居たので、その人の部下だったのでしょうか?
そんな疑問を抱きつつもお仕事は待ってはくれず、私の頭は長い廊下を雑巾がけする覚悟を固める事でいっぱいになったのでした。
※※※※※
翌日。いつもの様に兎と握り飯をお盆に乗せて神様の元へ向かいます。
そして神様の在わす部屋に灯りを付けた瞬間……
「……神様っ!?」
思わず悲鳴を上げてしまいました。
沢山のお札が貼られた檻に囚われている神様は、更に鉄の枷によって縛められていたのですから。
両手はまるで肩が抜けそうな程に真横に引っ張られ、足首に付けられた枷によって神様は両脚を開いた所謂大の字の姿勢で固定されています。
そして、首の枷で神様は俯く事すら出来ません。
普段から服を着ていないので、その全てが曝け出されています。
そこで、昨日の大勢のお客様は枷や滑車を取り付ける為の職人さんだったのだとようやく思い至りました。
枷や檻に新しいお札が貼られている所を見るに、陰陽師の方も居らしていたのでしょう。
きっとただでさえ自由を奪われている神様を陰陽術で責め立て弱らせ、大勢で寄って集って枷を付けたに違いありません。
恐らく旦那様はあの身なりの良い男性と、屈辱的な姿勢を強制された神様を眺めながら商談でもしていたのでしょう。
「神様……っ!」
この気持ちは怒りなのでしょうか。悲しみなのでしょうか。
いずれにせよ正常な心理状態で無い事は自覚出来ます。
心の中が黒い泥で満たされていくような……身体が熱くなって呼吸も乱れてしまうのです。
「みこ……」
「っ!? 神様、申し訳ございません! すぐ楽に致しますっ!」
私には枷を外す手段などありません。
滑車の取っ手を回して神様の鎖を緩める事しか出来ません。
先ずは首。その次は両手。その次は脚……滑車を回す作業は思ったより重労働でしたが、どうにかある程度の自由は取り戻せたようです。
「神様、捧げ物をお持ち致しました」
「みこ……」
「神、様……?」
あぁ、神様。
普段ならすぐに兎に掴みかかって牙を突き立てるのに。
なのに今は怯えた表情で私を見つめるのです。
「やつが……ろくじょうのものが……」
「ろくじょう? それが神様を封印している者の名前なのですか?」
「しばらくこなかった。しかしきのう、きた。
しきがみで、れいじゅつで……われをおさえつけ、こうげきした……」
「神様……っ」
私は少しでも何かしたくて、お力になりたくて……格子の隙間に腕を差し入れて目いっぱい伸ばします。
頬が鉄に食い込んで痛みますが、神様の受けた痛みに比べれば……
「み、こ……」
「ここにおりますよ」
「われは……」
神様の声は震えており、まるで小さな子供のようでした。
実際は旦那様より背の高いお方なのですが、今はとても小さく感じたのです。
「みこ……」
「はい」
「みこ」
「私は一生をかけて神様にお仕え致します」
「ん……」
神様は伸ばした手の平に頭を擦り付けてきました。
次に私の手を掴んで口に含んで甘噛みします。
神様の慰めになるなら指の一本や二本は差し出そうと思っていました。
しかし神様は私の手を離すと、ぺたぺたと四つん這いで私のお側まで歩いて来たのです。
「お待ちを」
兎を檻の側まで持ち上げて差し出します。
神様は両手を伸ばし、兎の身体を引き千切り解体して食べ始めました。
その様子は普段とお変わりなく、少しは元気になられたのかと胸を撫で下ろします。
兎を平らげた後は握り飯も完食されました。
その後、普段よりも多く言葉を交わし、最後に信仰の証として神様の手の甲に接吻けをしてから地下道を後にしました。
……血の味というのは何とも不安にさせられる物ですね。
※※※※※
「よし!」
一言気合いを入れて、目の前の布を引っ掴みました。
神様のお召し物を作ろうと思ったのです。
買おうにも安い物ではなく、そもそも神様の背丈にあった服などそうそう売っていません。
特注すれば作って貰えるかも知れませんが、それこそ私の給金では到底足りません。
なので、作ります。
と言っても、私に製服の技術はありません。
精々見よう見真似で布を縫い合わせるだけ。
神様は手枷を付けられていて袖を通す事が出来ないので、袖の部分は開くようにします。
腕に被せた後に紐で縛る形式です。
……正直に言って、神様に服は必要無いのです。
普段から裸ですし、あれ程弱っていたのは裸で拘束されていたから……ではなく『ろくじょう』なる陰陽師に攻撃され、お札が貼られた枷を付けられていたからでしょう。
だから、これは私の自己満足なのです。
あのような姿勢を強いられた神様の肌を見せたくなかったから……そんな自分勝手な理由なのです。
だからこそ、精いっぱいに良い物を仕立てようと思いました。
布も糸も決して高価な物ではなく、丈夫さも裁縫店で働く人から見れば粗末な物となるでしょう。
刺繍も入れてみたいと思います。
金糸なんて手が出せる筈もなく黒一色となってしまいますが……それでも、少しでも神様の美貌に見合う物にしたいのです。
下女として働く傍らに、神様の服の製作。
朝は神様に捧げ物をお届けし、以降はお仕事。
それが終わると小春様との蜜月の時間……服作りの時間は寝るまでのほんの僅かしかありません。
ですが、小春様と過ごす時間は私にとっても大切な物なのです。
神様への贈り物の為に小春様との時間を減らすのは、私にはどうしても出来ません。
寧ろ、寝るまでの間に小春様の前で服作りさせて貰える事を許して頂いている……というのが現状です。
小春様は神様の事を良く思っていないにも関わらず、私の神様への献身を認めてくれています。
ただ……私が針で指を刺す度にお舐めになるのは止めてほしいです。
ご病気になってしまいます、とお願いしても聞き入れてはくれないのです。
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