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第12話 心の中の黒いもの

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/1/10 📚 シリーズ: 売りに出されて三年目、神様のお世話係に任命されました 📝 2,516文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

売りに出されて三年目、神様のお世話係に任命されました - 第12話 心の中の黒いもの

本文

お客様が来られる二週間の内にやれる事はやりました。

と言っても、麗鬼様は私の言った事は簡単に出来るのです。

なので、どちらかと言えば私の立ち振る舞いの訓練、と言った方が正しいでしょうか。

麗鬼様を神様としてではなく、犬や猿のつもりでお相手する……少なくとも訓練の間はそれを徹底しました。

当の麗鬼様が、私が撫でる時に嬉しそうに目を細めてくれるのが唯一の救いです。

……私の心の負担を軽くする為の演技なのかもしれませんけれど。

「やぁやぁ武中殿。お合い出来て光栄です!」

「こちらこそ名高き筑摩家当主、勇一殿とお会い出来て光栄です」

旦那様とお客様……武中さんは硬く握手を交わしました。

噂によると武中さんは実業家……との事ですが、裏では武器商人として名を馳せているそうです。

恐らく、麗鬼様をお目当てに来るのは武中さんのように裏社会、もしくはそこに近い方々なのでしょう。

「して、その少女が?」

「えぇ。ウチの鬼を調教している者です。ほら、挨拶しなさい」

「お初にお目にかかります。筑摩家所有の鬼のお世話をさせて頂いている鯨井 美子と申します。以後、お見知りおきを」

「おぉ、お若いのにしっかりしておられる」

「ありがとうございます」

お褒めの言葉を頂いたので、私は深く頭を下げました。

「それで、鬼は何処に?」

「こちらになります」

旦那様と武中さんを先導して蔵まで進みます。

予め持たされていた鍵で錠前を外し、お二方を招きます。

「足元、暗いのでお気を付けください」

「えぇ、ありがとうございます。いやぁ、蔵に地下へと続く隠し通路……雰囲気がありますな!」

「いやはや、大っぴらに出来る物ではありませんからな。隠し通すのも一苦労ですよ」

ランプを灯しながら進む私の後ろでお二人がお話に花を咲かせています。

武中さんは噂の鬼を目前にした興奮で。

旦那様は恐らく、それによって齎される更なる利益に。それぞれの高揚感が感じ取れます。

「着きました。少々お待ちください」

「おぉ……!」

神様の在わす部屋。その明りを灯した瞬間、武中さんの感嘆の声が聞こえました。

その視線は……魅惑的な肢体を惜しげも無く晒している麗鬼様に釘付けです。

「これが鬼……その角、その背丈。人間と似通う部分もありますがやはり異形の存在ですな」

「えぇ。力ばかり強くて苦労しておりますよ。

訓練で言葉を話す事は出来るようになりましたが、果たしてどこまで理解しているか」

はっはっは! と旦那様は笑っておられます。

見えない位置で手の甲を抓ってどうにか平静な表情を保ちました。

「……それでは只今より、芸を披露させて頂きます。

危険なのでこの線より先に進まないようお願い致します。……さぁ、鬼ちゃん」

「ぐるる……!」

「はい、良い子良い子」

「んっ」

檻の中に差し入れた手に頭を擦り付けて来る麗鬼様。

恐れ多いと思いつつ、その手触りが心地良いとも思いつつ。

「お座り」

「ぐるっ」

「伏せ」

「わふっ」

「お回り」

「がぅ!」

「お手」

「んっ」

「おかわり」

「んっ……!」

「よーしよしよし! 鬼ちゃんは賢いわね」

締めであるおかわりは特に気合いを入れる麗鬼様です。

私は両手を差し入れてわしゃわしゃと撫でくり回します。

「はい、ご褒美ですよ」

「わぅ!」

懐から骨付き肉を投げ入れます。

麗鬼様はそれを掴んでばりばりと噛み砕きました。

これは偏に私の細やかな抵抗です。

麗鬼様は骨すら簡単に噛み砕ける程お強い御方なのだと。

犬のように人に躾られて従順になっている訳では無いのだと。

……旦那様やお客人からすればただの餌やりにしか見えないのでしょうけれど。

「はい、鬼ちゃん。次はこの球を取ってきてね」

「がぅ!」

「ほぅ……」

麗鬼様が球を追って振り向いた瞬間、武中さんが声を漏らしました。

その視線が何処に注がれているのかは、見なくても分かります。

それを二度繰り返した後……

「どれ、私にも遊ばせては頂けませんかな?」

「それは……」

「構いませんよ。ほら、球をお渡ししなさい」

「……くれぐれも線より先に立たないようお願い致します」

「勿論ですとも。では……」

武中さんが球を放ります。それは格子に当たって跳ね返り、麗鬼様の手の届かぬ所へ転がりました。

「あぅっ」

「はは、まるで猫ですな」

「いや全く。美子、球を取って来なさい」

「かしこまりました」

姿勢を低くし、格子の隙間から腕を伸ばす麗鬼様に目配せし、球を拾い上げて武中さんに渡します。

「それ、もう一度」

放物線を描いたそれはまたもや格子に当たり先程と同じく檻の外側に転がりました。

麗鬼様の痴態を見たいが為に態とやっているのか、とも思いましたが単に下手なだけでしょう。

ともあれこれで納得しない事は分かり切っているので球を拾って再び渡します。

「三度目の正直……それ!」

今度は上手く格子の間を抜けて檻の中に入りました。

それを追い掛ける麗鬼様を見て、旦那様と武中さんはまた嗤いました。

「これにて、本日の催し物は終了とさせて頂きます」

「いやはや、楽しい見世物でした。一生の自慢話が出来ましたよ」

「楽しんで頂けて何よりです。今後とも是非良きお付き合いを」

「えぇ、お互いに」

「では戻るとしましょう。行くぞ、美子」

「申し訳ございません。後片付けがございますのでお先にどうぞ」

「そうか? では行きましょうか、武中殿」

「えぇ。鯨井さん、良い物を見せて頂きました。またいつか」

「光栄です。またお会い出来る日を心待ちにしております」

深く頭を下げてお二人を見送ります。

反響する足音でお二人が地下道を出た事を察して、私は膝を着きました。

「う、うぅ……っ」

「泣くな、美子よ」

「ひっ、ぐ……っ!」

「我は構わぬ。美子はただ己が役目を全うする事だけを考えれば良いのだ」

違います。違うのです、麗鬼様。

恐れ多い。こんな事させたくない。そういう思いが強いのは本当なのです。

ですが、ですが……ほんの少しだけ、犬の様に扱われる麗鬼様に興奮を覚えてしまっている自分が居るのです。

可愛い、とすら思ってしまった自分が居るのです。

あぁ、あぁ、なんて不敬。なんて恥知らず。なんて浅ましい。

そんな自分が恐ろしくて、けれど麗鬼様にそれを打ち明ける事も出来なくて。

私はただ、顔を覆って泣き崩れる事しか出来なかったのです。

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作者について

生獣(ナマ・ケモノ)

生獣(ナマ・ケモノ)

ほのぼのな百合も過激な百合も好き。

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