第16話 鬼神 麗鬼の表紙画像

第16話 鬼神 麗鬼

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/1/14 📚 シリーズ: 売りに出されて三年目、神様のお世話係に任命されました 📝 3,358文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

売りに出されて三年目、神様のお世話係に任命されました - 第16話 鬼神 麗鬼

本文

「この辺りで良いか」

「あぅあぅ……」

人が立ち入らないであろう山奥。

優しく地面に下ろされて、それでも私は頭がふらふらしてしまいます。

「っ、小春様!」

それでも小春様の状況を思い出して、同じくそっと地面に寝かされた小春様に駆け寄ります。

「凄い血……っ」

小春様のお着物をはだけてお腹の傷口を抑えます。

ですが、鉄砲によって空けられた穴から流れ出る血はそんな事では止まってくれません。

「あぁ、小春様……! そんな、そんな……っ、早くお医者様の所に連れていかないと……」

「その怪我では医者に診せても無駄だろう」

「そんな……何とかならないのですか!?

お願いします麗鬼様! 私、小春様を助ける為なら何でもします……っ」

「美子に出来る事は無い」

「……うぅ」

分かってはいた。分かってはいたのです。

この大怪我は、人の命を奪うに十分過ぎる物だと……

そんな私に出来る事と言えば、徐々に冷たくなっていく小春様の手を握り続ける事ぐらいでした。

「……一つ、手が無い訳ではない」

「……!? ほ、本当ですか!? いったいどうやって……」

「小春も我の眷属にするのだ。望みは薄いが、耐えられれば命を繋ぐ事も出来よう。

しかし、我の眷属になるという事は人の理から外れるという事でもある。美子、お前と同じくな」

「私と、同じ……?」

「或いはこのまま人として死なせてやった方が幸せかも知れぬ。

美子よ。それでもお前は小春を延命させたいというのか?」

「……」

少しだけ、迷いました。

小春様は常日頃から麗鬼様を化け物と呼び、嫌っていました。

そんな小春様が麗鬼様の眷属になるなど……それで生き永らえたとして、そんな自分を許容出来るのか。

私には小春様がどう思うのか分かりません。

ですが、ですが、それでも私は小春様に生き延びて欲しいと思ったのです。

私の我儘で、私の身勝手で、私の自己満足で。

それでも私は、愛するこのお方を助けたいと強く願ったのです。

「お願い致します……っ」

「……分かった」

麗鬼様は一息深呼吸をして、脇腹に残っている血をご自身に唇にさし、そして私の時と同じ様に小春様へ接吻けを落としました。

「あ"、あ"あ"あ"ぁぁああああぁあ……っ!」

「小春様⁉︎ どうされたのですか⁉︎」

「身体が別の物へと作り替えられるのだ。想像を絶する苦痛であろう」

「え……? で、ですが私を眷属にして頂いた時は全然痛くありませんでしたよ?」

「先の問答で言ったな? 以前までは眷属と言っても口約束の仮契約だと。

逆に言えば、仮契約は済ませてしまっていたのだ。

お前が幼い頃に交わした仮契約……その上毎日我の元を訪れ、毎日食事を捧げ、我を神として信仰し続けた。

故に、徐々にではあるが眷属化していたのだ。

美子が歳の割に成長が遅いのもその影響であろう」

「そうだったのですか……」

「しかし小春は違う。いきなり眷属化し、急激に身体が作り替えられている。

我を敵視し、拒絶しているのも多分に関係しているのだろうな」

「あ、あぁ、うぁぁ……っ」

「小春様……!」

小春様は身体をのけ反らせながら悶えます。

そのお顔は苦痛に歪み、大粒の涙が流れていました。

「手を握ってやれ。このまま耐え切れば腹の穴も癒える。しかし耐え切れなければ……待つのは死だ」

「ぎうぅ……っ、が、あぁ……こ…ん……っ」

「小春様っ!」

「み、こ……ちゃ…ゔぅ……ごめ…にげ……あ"ぁ……ぐぅぅあぁっ、あ"ぁぁ……!!」

「小春様……っ! 私は、私はここに居ります! 小春様が守ってくださったおかげで私は怪我一つ負いませんでした……!

どうか、どうか耐えてください! 私はずっと小春様のお側に居ります!」

小春様の左手を両手で握り締めます。

普段の綺麗なお声からは想像も出来ない悲鳴。

優しい笑顔とは程遠い苦痛に満ちた表情。

私を傷付ける事など一度もなかったのに、今は万力のように私の手を締め付けて爪も食い込んでいます。

あぁ……ですが、ですが、この程度の痛みがどうしたと言うのでしょう。

私を庇って鉄砲に撃たれた小春様はもっと痛かった筈です。

身体が眷属に作り替えられる苦痛はもっとお辛い筈です。

「小春様……っ」

あぁ、無力な自分が恨めしい。

※※※※※

あれからどれ程経ったでしょうか。

徐々にではありますが小春様の悲鳴も小さくなり、何時しか悲鳴も身体の悶えもなくなりました。

万が一を考えてしまい背筋が凍りましたが、静かな呼吸音で眠っているだけだと分かってほっと胸を撫で下ろします。

小春様の汗や涙、土を拭き取ろうとしたその時、小春様の薄く開いた瞳が私を捉えました。

「小春様っ!」

「あぁ、良かった……無事だったのね、美子ちゃん……」

あぁ、あぁ、このお方は……

あんな目に遭ったというのに、真っ先に私の心配をして……

「はいっ! 小春様の、おかげです……!」

「ごめんなさいね、私のせいで危険な目に遭わせてしまって……

それで、私はどうなっているの? 確か鉄砲で撃たれた筈なのだけれど……」

「それ、は……」

小春様が上体を起こすのをお手伝いしながら、事の経緯を説明させて頂きます。

「……そう、私も化け物と同類になってしまったのね」

「申し訳ございません、それをお願いしたのは私です!

責めるならどうか私を叱責してくださいっ!」

「美子ちゃんを怒ったりなんてしないわ。

化け物にも一応感謝しているしね。けれど、一つだけ化け物に聞きたい事があるの」

「我にか? 答えられる事なら答えるが」

「……お前は何者なの?」

「我が名は麗鬼。今は美子と小春の主人、と言った所か」

「それよ」

小春様は鋭い目付きで麗鬼様を睨みました。

「別段怪異に詳しいわけでは無いけれど、ただの妖が眷属を作れるとは思えないわ。

遥か昔から筑摩家に囚われていたお前……単なる鬼という訳では無いのでしょう?」

「……然り。我は元々は鬼神と呼ばれる存在であった。

神格としては低級であったが……平安時代に筑摩家と契約を交わし筑摩家を守護していた」

「それが何故檻の中に……」

「時代が進むに連れて人間と我等の関係は変わった。

知恵を付けて妖への恐れが小さくなり、力を付けて神に頼る事が少なくなった。

戦国の世になると妖を打倒せしめる鉄砲が発明され、遂には神の生まれ変わりを自称する者も現れた。

神や妖の力は弱まり……そして、筑摩家の者も我を“神”ではなく“異形"と捉える事が多くなった」

麗鬼様は悲しそうに、寂しそうに目を伏せました。

「我のような低位の神は人の認識に引っ張られる。

筑摩家の者が我を異形と看做し、我は徐々に知性無き鬼へと変貌していった。

そして遂には人間に害するようになり、六条の者に封印されたのだ。

やがて戦国の世が終わり、我は商売の為に檻の中で見世物にされていた。

そして今になり……お前と出会ったのだ、美子よ」

今度はふわっとした微笑み。

優しく頭を撫でてくださいました。

「美子は我を“神”と崇め、毎日参拝し、食事を供物として捧げてくれた。

そのおかげで僅かではあるが神格が戻り、人の言葉を話す事が能うようになった。

それに浮かれて眷属の仮契約をしてしまったのは我の失態だ。

そこで踏み留まれば多少長生きなだけの人間として生を全う出来たろうに……」

「私は麗鬼様の眷属にして頂いた事を後悔しておりません! そのおかげでこうして生きているのですし」

「そうだな……檻の結界を破るには、我を信仰している美子を正式な眷属にし、我の神格を高める必要があった。

あの場では、そうするしか無かった。

しかし、これで美子と小春は人間では無くなった。

これ以上成長する事も老いる事も無くなり、大切な者が自分より先に死んでいく……」

「別に構わないわ。化け物の眷属っていうのは癪だけど、可愛い美子ちゃんと永遠に生きていけるのなら最良の人生よ」

「しかし筑摩家にはもう戻れぬぞ?」

「どうでも良いわあんな家。そもそも家を慮るならお前の事を密告したりなんかしないわ。

私と美子ちゃんを引き離そうとしたんだもの。それぐらいの罰は受けて然るべきよ」

「……お前は我を化け物と呼ぶが、美子一人の為に自分の一族を破滅させるお前もまた化け物と呼ぶに相応かろうな」

「そう思うなら人の事を知らなさ過ぎよ。人間っていうのは愛した人の為なら人生だって命だって懸けられるのよ」

そう言い切る小春様の瞳には一切の淀みが無く、真っ直ぐに麗鬼様を見据えていました。

ジャンル・タグ

, , , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 2 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

生獣(ナマ・ケモノ)

生獣(ナマ・ケモノ)

ほのぼのな百合も過激な百合も好き。

👥 フォロワー: 8人

作者ページを見る