第17話 私の本性
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
売りに出されて三年目、神様のお世話係に任命されました - 第17話 私の本性
本文
「さて、それはそれとして」
かと思うと、私の方に振り返って先程とは真逆な、悪戯っぽい笑みを浮かべます。
「眷属としては美子ちゃんの方が先輩なのよね?
だったら私は美子ちゃんの言う事なら何でも従うわ」
「え? いえ、そんな……っ」
「何をしたいの? 何をして欲しいの?
あぁ、呼び方も美子ちゃんのままでは失礼ね……
ふふ、どうぞこの私めを存分にお使いください、美子様?」
そう言って、ごろんと私の膝に頭を乗せました。
その艶めかしい表情と、猫のように甘える仕草に私の心臓は早鐘を打ちます。
「あ、あの……お、お戯れはおよしになってください……っ」
「ふふ、顔真っ赤。可愛いわ美子ちゃん」
小春様はくすくす、と笑いながら身体を起こします。
私は火照った顔を冷まそうと両手でぱたぱたと煽ぎますが、それもまた可愛いと笑われてしまいました。
「もう……! 幾ら少し早く眷属になったからと言って小春様への敬意は変わりません!
麗鬼様も小春様も私にとっては敬愛し、敬い、崇敬すべきお方です。
そんなお方を自分より下に扱うなど出来よう筈もありません」
「本当にそうかしら?」
「は、はい? 私の麗鬼様と小春様に対するこの気持ちは、紛れもない本心であると自負しておりますが……」
「えぇ、それに関しては微塵も疑っていないわ。
私が言いたいのは別の事。自分より下に扱うなど出来ない……それも本当なのかしら?」
「な、何を……」
「私はね、美子ちゃんの事なら何でも分かるのよ?」
小春様は両手で私の頬を包み、お互いに見つめ合う姿勢となりました。
「美子ちゃんはあの化け物に芸をさせていたけれど……それに対して何一つ愉しい気持ちが無かったと言い切れる?
可愛い、ぐらいの事は何度も思っていたんじゃない?」
「それ、は……そんな事は……っ」
「さっきの事もそう。私が美子ちゃんの言う事を何でも聞くと言った時。
そして私が美子様と呼んだ時……そこにあったのは恥ずかしさ? それとも恐れ多いという恐怖心?
いいえ違うわ。あれは高揚感……想い人の素敵な未来を想像する可愛らしい乙女そのものだったわ」
「わ、わた、しは……! お二人の事を本当に敬愛していて……っ」
「えぇ、そうでしょうね。でもね、それは両立する物よ?」
「え……?」
「相手を支配したい、意地悪したいという加虐心。
これが美子ちゃんの心の奥底に眠っている本当の気持ち。
でもね、それが美子ちゃんの愛し方なの。
ね? 敬愛する事と愛する事は両立出来るのよ」
「そう、なのでしょうか……?」
「そうよ。その為の手解きもしてあげたでしょう?」
「てほどき……」
その瞬間、小春様との情事の記憶が一斉に脳内を掛け巡りました。
そういえば私に対してとにかく優しかった小春様も、その時ばかりは意地悪になっていました。
もしかして私の本性を見抜いた上で、正しい愛し方を教えてくださって……っ!?
「ふふ、美子ちゃんは私にどんな事をしてくれるのかしら?」
「わ、私は……わひゃ!?」
小春様の蠱惑的の視線に囚われた直後、身体が浮遊したかと思うと麗鬼様の腕に抱き抱えられていました。
「我とて美子が望めば犬にも猿にもなる。事実、美子と共に在る為に今まで犬の真似事をしてきたのだ。
……それはそれとして、奴等が山に入ってきた」
「……!?」
「此処は人が立ち入らぬ場所ではあるが……我等を探す為なら踏破するだろう。
人間は暗闇を照らす光と、獣を追い払う武器を持っているのだからな」
「そう。ならさっさと移動しましょう。別にこの地に未練がある訳でもし」
「この地を去ったとして、私達はどうなるのでしょうか? どうすれば良いのでしょうか?」
「政府が何処まで我等を追うつもりかは分からぬ。
巫女共も筑摩から脱した我に対する態度は不明瞭だ。今はとにかく逃げるしかない」
「少なくとも、老いないなら長く人里には留まれないわね」
「時には山で過ごす必要も出てくるだろう。
山の主が寛容であるか、今の我でも勝てる相手であれば……だが」
麗鬼様は、山神が出てきたらどうしようないが……と、不安げな様子で呟きました。
「そろそろ行くぞ。しっかり捕まっていろ」
麗鬼様はもう片方の腕で小春様を抱えます。
小春様も振り落とされる気は無いのか、しっかりその腕にしがみ付きました。
きっと、筑摩家は麗鬼様にとっては裏切られ、軽んじられ、商いの為の道具にされた場所で。きっとお辛い記憶が多いのでしょう。
小春様もご自身が仰っていたように、どうでも良いのでしょう。
寧ろ家のしがらみにうんざりしていましたし。
ですが私は……八歳の頃に筑摩家に売られてから約七年。
小春様に可愛がって頂き、麗鬼様とも出会えました。
私にとって、筑摩家での日々は大変だったり不本意な思いもしつつも、素敵な思い出なのです。
なので、これからこの地を去る事に少し郷愁を感じつつ。
ですが、それでも小春様と麗鬼様が一番な事に変わりは無いのです。
「参りましょう、小春様、麗鬼様。私は何時までも、お二人にお仕え致します」
私の言葉を聞いて、お二人が少し笑ってくれた気がしました。
私は最後に筑摩家の方向に振り返って、そして真っ直ぐ前を向きます。
麗鬼様が少し腰を落として、そして猛烈な加速を伴ってこの因縁の地を駆け抜けたのです。
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