第19話 神様が去った日
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あらすじ
売りに出されて三年目、神様のお世話係に任命されました - 第19話 神様が去った日
本文
「ゔぅ……」
「お気を確かに。もう少しの辛抱ですから」
出雲へ向かう道すがら。
どうしても船に乗る必要があり乗船しました……が。
なんと小春様が船酔いで臥せってしまわれました。
今は私の膝枕で唸りながら到着の時を待っておられます。
「むぅ、小春ばかり不公平ではないか?」
「お許しください麗鬼様。今は小春様を看病せねばなりません」
麗鬼様も船は不慣れな筈ですが船酔いはしておられません。
もっとも、ぴょんと高く飛び、馬車よりも早く駆ける麗鬼様は船の揺れぐらいどうって事無いのかもしれませんけれど。
各言う私も気分が良いと言う訳では無いのですが……それでも小春様より酔いは軽いです。
「んっ」
「ひぁっ!?」
そんな事を考えていると、麗鬼様が頭を擦り付けてきました。
こうして見ると大きな猫ちゃんのようです。
美人さんな顔立ちですが、甘えてくる麗鬼様や小春様は可愛らしく感じます。
本来なら求められるままにその御髪を梳き、撫でて差し上げたいのですが……今目立つ訳には参りません。
「麗鬼様、今は人の目がございます」
「小春は甘えているだろう?」
「小春様は御気分が優れないのです。目立ってしまえば六条さんの目に留まってしまうかも知れませんし、麗鬼様もまだ変化の術に不慣れですし……今術が解けてしまえば騒ぎになってしまいます。
どうか今はご容赦し、変化に集中して頂きたく存じます」
「……分かった」
麗鬼様が渋々と言った様子で私から離れます。
これは後が大変そうです。
※※※※※
「酷い目に遭ったわ……」
「御気分は如何ですか?」
「美子ちゃんのおかげで少しは良くなったわ。
後は麗鬼が美子ちゃんから離れればもっと気分が良くなるわね」
「駄目だ」
船を降りるや否や麗鬼様は私を抱き締め……そして小春様にお小言を言われたら隠すように腕を回しました。
まだ人目はありますが、そこで機嫌を損ねて御気分を乱し、変化の術が解けてしまえばそれこそ事です。
小春様もそれは分かっているのか、お言葉程剣呑な様子ではありません。
「それで、頼る神の宛はあるのでしょうね?」
「……宛は、有った」
「は?」
「まだ確信は無い。出雲大社に往くぞ」
「道は分かるの?」
「……うぅ」
そんな子犬のような顔をなさらないでください。
つい最近まで監禁されていた麗鬼様が今世の道筋など分かる訳が無いのですから。
「ここよ」
かと言って、私も地理に明るい訳ではありません。
結局は小春様が地図を読んで導いてくださいました。
……だと言うのに、麗鬼様のお顔は優れません。
まるで嫌な予想が当たったと、そんなお顔です。
「麗鬼様? 神様に拒否されたのですか……?」
「それならまだ良かった……居ないのだ」
「はい?」
「出雲に居る筈の八百万の神々が……消えている」
「それはどういう……」
「……もし、神主さん。少し宜しいかしら?」
呆然とする私と麗鬼様を見かねてか、小春様が箒を掃く神主さんに声を掛けました。
「おや、ここいらでは見ない顔ですね。何か御用でしょうか?」
「旅行に来た者なのですけれど、聞いていた雰囲気と少し違うと言いますか……最近何か変わった事等はございましたか?」
「あぁ、それは白い鳩が居なくなったからでしょう。
戦争が始まるといつの間にか居なくなっておりましてな。
きっと神様が鳩に憑依して戦場に向かったのでしょうなぁ」
「まぁ、それはそれは……心強い限りですわ。
愛らしい鳩さんが見られないのは残念でしたが、きっと兵隊さんを……そして日本を護ってくださっているのでしょうね。
お話ありがとうございました。何か美味しい物でも食べて気分転換致しますわ」
「それなら出雲ぜんざいはどうでしょう? 若いお方にも人気ですよ」
「まぁ素敵! うふふ、是非。連れと一緒に散策がてらお店を探してみますわ」
「えぇ、どうか出雲旅行を楽しんでいってください」
「はい、ありがとうございました。神主さんもお元気で」
小春様は終始穏やかな顔で神主さんとお話しなさっていました。
まるで前もって台本が用意されているかのような応対でしたが……やはり小春様はとても聡明なお方です。
小春様は神主さんに手を振りながら私達の元へ戻って参りました。
「……それで、理由は掴めた?」
「神主が神の気配を察していたのか、もしくはただ単にそう解釈したのかは定かでは無いが……事実として神々は居なくなっている。
恐らく神主の言う通り、白鳩に乗り移って戦場に向かったのだろう」
「では……」
「うむ、神の保護は求められぬ。ならば六条の者に見付かる前に再び山に籠るしか……」
「余所者の私達を受け入れて、尚且つ巫女共と戦える力を持った妖が治める山に、ね。
そんな義侠心溢れる妖は戦争に参加してるでしょうけど」
「む、むぅ……」
「どの道、人の目に触れていては巫女さんに見付かってしまいます。
先ずは山に向かい、人の目から逃れる事が先決ではないでしょうか?」
「……すまぬ、ようやく人里で生きさせてやれると思っていたのだが」
「そんな! 麗鬼様のお側こそが私の居場所です。
山であろうと町であろうとそれは変わりません」
「今はとにかく美子ちゃんの安全が最優先よ。
神の保護が得られない以上はより安全な場所に向かうべきだわ」
「そうだな……」
麗鬼様は申し訳なさそうに。
小春様はやれやれ、と言いたげに。
私達は出雲を離れ、再度山に向かう事を決めたのでした。
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