池袋 — 猫とフクロウの共存地帯 文明を捨ててなお、生き残った人々の姿
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう
本文
池袋はもともと谷の地形で風が溜まりやすかった
人が消えて
その谷に集まるようにして
猫とフクロウが“棲み分けの王国”を築いていた
サンシャイン60のガラスが割れ
内部には柔らかな光が差し込み
そこにフクロウたちが巣をつくる
かつて展望台だった場所は
今や都市全体を見渡すフクロウの高巣となり
静かに翼を畳んだまま
獲物を見つめる影がいくつも止まっていた
地上では猫が支配している
道路は草に飲まれ
ペデストリアンデッキの上には
茶トラや三毛が並んでひなたぼっこをしていた
首輪をつけたままの猫もいる
彼らはもう飼い猫ではない
しかし飼い猫だった記憶を落としたまま
穏やかに群れをつくっている
東池袋の高速道路跡は
金属の骨組みだけを残し崩れかけているが
その奥の暗い空間は
夜になるとフクロウたちの狩り場になる
小動物が増え
フクロウは迷いなく滑空して
獲物を静かにさらっていく
一方で猫たちは
フクロウを襲わない
フクロウも猫を襲わない
両者が縄張りを守りながら
不思議と争わず共存している
人間が作った複雑な都市構造が
それぞれの棲み分けを自然に作ってしまったのだ
サンシャイン水族館は屋根が開き
雨が降り注ぐ大きな池になり
金魚やコイが群れ
猫たちは時折そこで水を飲み
時には魚をじっと眺めている
飛びつくことはしない
なぜかこの東京では
“獲物を追うより眠る方が優先”のように見えた
夜になると
ビル風が冷たく吹き抜け
池袋の空は星で満たされる
光害のない世界の星空は
まるで湖の水面のように震えていた
フクロウの鳴き声が遠くで響き
どこかで猫が低く返事をする
その声は争いのそれではなく
ただ
静かな夜の中で
種を越えた「生のやりとり」のようだった
池袋は廃都ではあるが
死んではいない
人間が去っただけで
街はゆっくりと
“動物たちの新しい秩序”として
再生していたのだ
人類だけが罹る致死性ウイルスに世界が沈んでから、東京の地表は自然の波に飲まれていった
けれど、人は完全には消えなかった
ほんの“わずか”だけ、免疫を持つ人々がいた
ただ彼らは、文明を再興する道を選ばなかった
かつての社会の喧騒も、都市の機能も、もう必要なかった
彼らの暮らし
ビルの谷間に自然が戻り、ススキが風になびく
服は漂着した布や革を継ぎ合わせた素朴な装い
かつての家電やスマホはもう道具ではなく、ただの“不思議な石”のような扱い
動物たちが自由に暮らし、ヒトはその傍らで静かに寄り添う
生き残りの人間の姿
彼らは争わず、群れを作ることも少ない
小川沿いの廃ビルの屋上に、ひっそりと暮らす少女
日陰になった高速道路の下で、焚き火を囲む小さな家族
文明よりも自然の声の方が大きい世界で
人はただ、動物と同じ一個の生命として生きている
動物たちと共生する光景
ペンギンの巨大コロニーの近くで、
人間の子どもが静かに見守りながら木の実を拾っている
上野から溢れたキリンが、ビルの窓に生えた若葉を食べ、
その足元で人間が日向ぼっこをしている
シロクマが豊洲市場跡の冷暗室を縄張りにし、
人間はそれを遠巻きに眺めて、同じ川の水を分け合っている
“文明を捨てた”というより、
“自然に帰った”というべき世界
この東京は、かつての喧騒や競争から解放され
ヒトも含めた全ての生き物にとって“公平な大地”になっている
作品統計
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