渋谷で出会ったもう一人の生き残り
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう
本文
名は「サヤ」
20代後半から30歳にかかる頃
シオナと同年代
だからこそ
言葉を交わす前に
互いの孤独を察することができた
サヤの過去
“街の中で消えていった家族”を背負う女性
サヤは
終末前は都内の小さな花屋で働いていた
花に囲まれ
土に触れる仕事を愛していた
そんな彼女の家族が
ウィルスの蔓延で
一週間のうちに全員いなくなった
父は救急搬送の途中で昏睡
母は看病の末に感染
弟は気丈に振る舞いながら最後の二日で発症
サヤだけが感染しなかった理由は
誰にも分からなかった
人のいなくなった街で
彼女は花屋に戻り
しばらくは
枯れた花を一つずつ土に帰していた
その日々が
彼女の心をかろうじて繋ぎ止めていた
シオナとサヤ
二人が“似ている”理由
二人とも孤独に適応した
それが根底にある
シオナは静寂に
サヤは植物に
それぞれ自分の居場所を見つけていた
だから出会った瞬間
言葉を交わす前に
互いの生き方が
匂いのように分かってしまった
敵ではない
利用しようとも思わない
ただ 似た生き残り
その感覚が
二人の距離を縮める
二人の最初の“共に歩く時間”
宮益坂から渋谷へ向かう道
草に飲まれた246号線を
二人は無言で歩いていた
話さなくてもよかった
声がなくても
呼吸がある
生身の人間の足音がある
それだけで
十分過ぎるほどの救いだった
サヤは時折
花屋で使っていた剪定鋏を取り出し
道を塞ぐ枝を音もなく切り落とす
その仕草は柔らかく
植物に謝るようだった
シオナは
やや離れた後ろを歩きながら
90式のキーが腰のポーチで揺れる音を
無意識に確かめていた
“家がちゃんとある”という安心がある
そして
サヤは一度だけ
振り返って微笑む
「……うん、あなたと歩くの悪くない」
風がそよぎ
草が二人の足元で波をつくる
二人の関係性
― 友情でも恋でもなく“寄り添い”に近い絆 ―
この世界では
言葉よりも
行動の静けさが信頼になる
二人は同じ寝床を使わない
一定の距離を保ち
一緒に食事をしても
会話は少ない
けれど
焚き火の火が小さくなると
サヤは
草を分けてシオナの近くに座る
シオナも
それを拒まない
寄り添う
温め合う
でも
依存しない
この世界で
最も健全な“人と人の近さ”だった
そして旅は二人で続いていく
二人はまだ
互いの深い過去を語らない
ただ
同じ景色を見て
同じ風に吹かれ
同じ終末を歩いている
それだけで
旅として成立していた
サヤの持ち物
― 花屋だった彼女の人生が詰まった道具たち ―
1. 古いリュック
色あせた深緑
花屋で使っていた配達用のもの
底や側面を自分で縫い直した跡がある
背負うと背中のラインにすっと馴染む
まるで身体の一部のように扱っている
中身は
軽いものと必要最低限のものだけ
彼女は重荷を持たない
心にも物にも
2. 剪定鋏(せんていばさみ)
花屋時代から使っていたもの
刃には鋭さが残り
木の枝や草を静かに切り分けることができる
サヤはこの鋏を抜く時だけ
必ず小さく植物に“ごめんね”と心で言う
戦うための刃ではなく
植物を傷つけすぎないための刃
終末の世界で
これほど“優しい刃物”を持つ人はいない
3. 猟銃(アンティークに近い古さ)
肩に提げているが
銃床にはヒビがあり
弾も少ない
もはや“脅し”以外には使えない
サヤは銃を撃ちたくない
動物も人も傷つける気がない
だから
これは“孤独が始まった頃の名残”であり
今はお守りのようなもの
シオナと出会った時
銃身を下げたのは
もう武器として見ていなかった証
4. 小さな古い手帳
花屋時代の名残
花の仕入れ
客のメモ
家族の誕生日
母が書き残したレシピ
全部残っている
彼女は時々これを開いて
書かれた名前を指でなぞる
もう会えない人たち
でも
忘れないために持ち歩いている
ページの合間に
道で拾った花びらを挟む癖があり
開くたびに
乾いた花の香りがほんのり漂う
5. 水筒と簡易浄水器
無人となった東急ハンズで拾ったもの
錆びつきながらも使える
自然と共に生きる彼女は
水を一番大事にする
シオナが持つ無骨な装備とは対照的に
サヤのは軽くてシンプル
◆ 6. 布袋
彼女が花屋の端切れで作ったもの
中には
薬草
乾燥させた花
傷用の葉
小さな布切れ
旅の途中
弱った動物を助けるため
自分の怪我に使うため
どちらにも使う
シオナのポーチが“生存”なら
サヤの袋は“癒し”
7.窓ガラスの割れた109ビルで拾ったガラス玉のネックレス
色は淡い青
太陽光に当たると
海の表面みたいに光る
サヤは“最後に家族と出かけた海”を
思い出すために身につけている
装飾としてではなく
記憶の石
彼女が泣かないための小さな錨
サヤにとって“不要なもの”
逆に彼女が一切持たないものも描くと
人柄がより鮮明になる
武器
大量の荷物
便利な機械
迷彩服
重い防具
彼女は戦わず
逃げる
隠れる
風と植物に寄り添うように進む
だから
シオナの90式と並ぶと
対照的なのに
不思議と調和する
シオナとサヤ
装備の対比が二人の関係を象徴している
シオナ
無骨な90式
迷彩のコート
ナイフ
装備は“生き抜くための道具”
サヤ
剪定鋏
古い花屋のリュック
ガラス玉
持ち物は“記憶と優しさ”
まったく違う旅人なのに
同じ景色を歩けるのは
二人が孤独の形を理解し合っているから
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