しながわ水族館へ向かう
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう
本文
アクアパーク品川を出ると、
二人は再び90式に戻った。
品川駅前の広場は相変わらず静まり返っている。
ハッチを閉じると、低いエンジン音が車体に響いた。
「もう一つ、水族館あるんだよ」
シオナが言う。
「え?」
「しながわ水族館。
さっきのメモにも書いてあった」
サヤは少し考えてから頷いた。
「じゃあ、行ってみよう」
90式は再び国道15号線へ出る。
広い道路はほとんど障害もなく、
履帯の音だけが静かな街に響いていた。
ビルの谷間を抜けると、
やがて緑の多い一帯に出る。
しながわ区民公園。
その奥に低い建物が見えてきた。
しながわ水族館。
シオナは戦車を公園の入口付近に停めた。
館内は暗く、
アクアパーク品川と同じように水槽は静まり返っていた。
ガラスの向こうには、
やはり魚の姿はない。
サヤが小さく呟く。
「やっぱり……」
シオナは壁に残された掲示を見つける。
そこにも似たような記録が残されていた。
電力不足により魚類水槽の維持は断念。
水生哺乳類・鳥類は京浜運河へ放流。
最後まで飼育スタッフが世話を続けたことが、
短い文章の中に読み取れた。
「同じだね」
サヤが言う。
「うん」
その時。
館内の奥で小さな足音がした。
ぺた、ぺた……
二人は顔を見合わせる。
次の瞬間、
通路の向こうから一羽のペンギンが現れた。
「……え?」
サヤが思わず声を上げる。
ペンギンは二人をちらっと見たが、
特に驚く様子もなく歩き続ける。
ぺた、ぺた……
床を滑るように進み、
館内の奥へ向かっていく。
シオナが小さく笑った。
「ついていこう」
二人は静かに後を追った。
ペンギンは迷う様子もなく、
館内の裏手へ進んでいく。
やがて壊れた非常口から外へ出た。
外の光がまぶしい。
草が伸びた小道を歩き、
ペンギンはさらに先へ進む。
潮の匂いが少しずつ強くなる。
「運河だ」
シオナが言う。
視界が開け、
京浜運河の水面が広がった。
水面は静かに光っている。
その岸辺で、
二人は思わず立ち止まった。
ペンギンがいた。
一羽ではない。
十羽ほどの群れが、
岸の岩の上で羽を休めている。
水面には黒い影がいくつも動いていた。
泳いでいる。
ペンギンたちだ。
さらに遠くの岸では、
アザラシらしき丸い影が寝転んでいる。
サヤが息を呑む。
「……生きてる」
シオナも小さく頷いた。
「放したんだね。本当に」
さっきのペンギンは、
仲間の群れへ自然に歩いていく。
誰も驚かない。
まるで、ずっとここにいたかのように。
水面には小魚が跳ね、
そのたびにペンギンが潜る。
人のいなくなった東京で、
海は静かに戻り始めていた。
サヤが少し笑う。
「なんか……よかった」
シオナも同じ気持ちだった。
人の世界は終わっても、
命はまだ続いている。
二人はしばらく、
運河の生き物たちを黙って見ていた。