羽田空港跡 ―“飛ばない世界の滑走路”
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう
本文
90式は京急平和島駅を超えたあたりで産業道路に入る。
トレーラーやバスが放置されたままになり、
道路の中央からヤナギの若木が何本も生えている。
サヤがふと横を指差す。
「あれ……馬?」
「いや……ポニーかな……どこかから逃げたのが繁殖したんだね」
旅を重ねるうちに、
“人がいなくても動物たちは逞しく生きる”という光景に
二人はもう驚かなくなっていた。
大鳥居交差点で環状8号線に入り羽田空港へ向かう。
90式の履帯が落ち葉と砂利を踏みしめながら滑り込んでいく。
「ここを抜けると、もうすぐ空港だよ」
サヤはうなずき、
背中のバックパックを抱え直した。
少し緊張しているようにも見える。
視界が一気に開けた。
海風が吹き渡り広大な滑走路が草原のように広がっている。
かつて旅客機がひっきりなしに行き交った場所は、
今は鹿の群れがゆったりと歩く聖域になっていた。
ターミナルビルはガラスが抜け落ち、
吹き曝しの巨大な箱のようになっている。
それでも構造体はまだ残り蔦が壁を覆って森の城のようだった。
サヤが息をのむ。
「……きれい。こんな羽田、見たことない……」
シオナは戦車をゆっくり止めた。
エンジン音が消えると静寂の中で海鳥の声だけが響く。
二人は天板に腰を下ろし、
空港跡を見渡した。
「ここなら、しばらく休めるね」
「うん……なんか、平和だよね」
潮風が心地よい。
海も空も広く、誰もいないのに豊かだった。
この世界が“終末”なのは、人間にとってだけなのだろう。
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