羽田空港・整備地区 ― 鉄と静寂の迷宮
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう
本文
ターミナルを離れ二人は湾岸沿いに伸びる、
滑走路脇の道路を90式でゆっくり進んでいった。
草原と化した誘導路の向こうに巨大な格納庫が幾つも並んでいる。
格納庫前
扉は半ば崩れ落ち蔦が絡まりきって動かない。
けれど開口部は十分に広く90式ならギリギリ通れる。
「……中、暗そうだね」
「うん。でも航空燃料の整備設備があればフィルター類は流用できるかも」
戦車用の純正部品はもう手に入らない。
だから生き残りの旅人は“使えるものは全部使う”主義だった。
シオナがハッチを閉め、ライトを点灯しながら格納庫の影に90式を進める。
中はひんやりしていて空気が少し金属の匂いを帯びている。
かつてジャンボ機が収まっていたであろう巨大な空間も、
今は鳥の影すらない静寂の箱だ。
サヤが足元を照らしながら歩く。
「……工具、残ってるね。意外と錆びてない」
棚から取り出したのは航空機のタイヤ交換にも使われる大型トルクレンチ。
油膜が乾いてはいるが、まだ動く。
「これ、履帯のテンション調整に使えるよ」
さらに奥へ進む。
ラックの中に真空パックのような箱が積まれていた。
長いこと放置されているのに密封が保たれている。
サヤが慎重に開けると――
“戦車にも使える宝物”が眠っていた
中には小型ながら高性能な産業用バッテリーと、
電動工具用の急速充電器が入っていた。
「これ……奇跡じゃない?」
「航空機整備員って、こういうのを予備で持っておくんだよね。気が利いてる」
シオナは箱のロゴを指で撫でる。
密閉型リチウムユニット。
未開封。
90式の補助電源にも十分転用できる。
「これがあれば、夜間のエンジン停止中でも照明が使えるね」
「長期の旅が、ちょっと楽になるよ」
格納庫を出て隣接する燃料設備へ向かう。
配管は錆びているが地下タンクの蓋はしっかり残っていた。
サヤが匂いを確認しながら小さく頷く。
「……ディーゼル、まだ酸化してない。使える」
「空港用は品質いいから戦車にも十分」
二人はポータブルポンプを使って慎重に汲み上げる。
90式の燃料タンクが満たされていく頼もしい音が格納庫に響いた。
日が傾き、赤い光が格納庫の壁を染める。
二人は回収した工具とバッテリーを90式の後部に積み込み、
履帯の張りを調整し給脂を済ませた。
「……ねえ、シオナ」
サヤが戦車の装甲に背を預けながら言う。
「人は滅んでも、こういうものは残るんだね。
誰かを守るために作られた道具は」
シオナは静かに頷いた。
「だからこそ使わなきゃ。生き残った私たちがね」
海風が吹き抜け、静寂の空港に夕焼けの匂いが溶けていく。
90式はまだ走れる。
東京の荒野を、そしてその先を。
二人の旅もまだ終わらない。