羽田空港・滑走路端 ― 夜のキャンプ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう
本文
燃料補給と整備を終えた二人は、90式で滑走路脇の広いスペースへ移動した。
夕焼けは既に沈み空には星が出始めている。
かつて旅客機が飛び立った場所も今は静寂と風の音だけ。
シオナは90式の側面に背を預け折り畳みの小さなタープを装着した。
戦車の車体は風を避ける壁にもなる。
サヤが焚き火の代わりに戦車の補助バッテリーから繋いだLEDランタンを点ける。
薄橙色の光が周囲をふんわり照らした。
「……こうして見ると飛行機の音がない空港って不思議だね」
「うん。静かすぎて逆に落ち着くくらい」
鳥の声だけが響いている。
かつて騒がしかった空間が、まるで“大地が原点に戻った”ようだった。
二人は集めた保存食を少しずつ分け合う。
サヤは缶詰を開け簡易コンロで温めながら言った。
「文明がなくなっても缶詰って本当に強いね……百年くらい残りそう」
「こういうの前の時代からの贈り物だよ。私たちへの置き土産みたい」
湯気が夜の冷気に溶ける。
90式の金属がじんわり温かく背中に心地よく伝わってきた。
食事を終え二人はしばらく星空を見上げた。
滑走路は、まるで宇宙へ続く一本の道のように伸びている。
誘導灯はとうに消えているが草原の向こうに黒い帯が続いているのがわかる。
サヤがぽつりと呟いた。
「……この空の下にも、まだ誰か生きてるのかな」
「うん。きっとどこかで。
人は減っても世界は広い。まだ全部を見たわけじゃないし」
シオナは静かに微笑んだ。
風に髪を揺らしながら二人は戦車の上に並んで座る。
寝床はシンプル。
戦車の砲塔の上に敷いたマット
その上に寝袋
タープが小さな屋根になって雨露を防ぐ
サヤが寝袋に潜り込みながら言う。
「……戦車の上って、意外と寝心地悪くないね」
「でしょ? 揺れないし、夜でもあったかい。
それに――高いところは安心する」
夜風が少し冷たい。
けれど、90式の金属は昼のわずかな熱を残しており、背中がじんわり温かかった。
シオナが空を見上げ囁く。
「明日は……どこへ行こうか」
「うーん、海ほたる?それとも川崎の工場地帯?」
「どっちも捨てがたいね」
二人の声は滑走路の闇に溶けていった。
やがて――
広すぎる夜空の下で、
戦車の上の小さなキャンプは静かに眠りについた。