木更津上陸 ― 陽光と廃墟の匂い
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう
本文
アクアラインを抜けると、
千葉側は東京湾よりもさらに緑が濃く、
道路はほとんど“草の川”と化していた。
シオナが90式をゆっくりと走らせながら言う。
「……ここまで来ると、完全に自然が勝ってるね」
サヤ
「うん。千葉の植物の生命力、ほんとすごい」
90式の履帯をゆっくり進め木更津金田ICから下道に降りると、
袖ケ浦の市街に入る前に大きな建物が見えてきた。
かつて家族連れで賑わっていたであろう、
観覧車の目立つ郊外型のショッピングセンター跡。
駐車場は草原
車止めは蔦に覆われ
入口の自動ドアは落ち葉で塞がっている
看板の色はところどころ抜け落ちている
サヤ
「……なんか地方の終末って感じだね」
シオナ
「うん、東京より静かだ」
二人は90式を広大な駐車場に停め慎重に中へ。
モールの内部は風の吹き抜ける巨大な空洞であった。
中は天井の一部が崩れ光が差し込んでいた。
その光に照らされて植物たちが階段やエスカレーターを覆っている。
サヤが小声で笑う。
「これさ……完全に自然に飲まれたテーマパークだよね」
シオナ
「現代美術館と言っても通じそう」
二人はゆっくりとモールを巡る。
スーパーには空になった棚だけが並ぶ
家電店には展示用のダミー商品が散乱している
フードコートの椅子はひっくり返って苔むしている
ゲームセンターの天井からは植物のツルが降りている
シオナが落ちたポスターを拾う。
「“オープン15周年大感謝祭”……懐かしいね」
サヤ
「15周年で止まった時間かぁ」
モール奥の非常用備蓄品倉庫は比較的無事で、
そこにはまだ使える品がいくつも残っていた。
水に強いパック米
真空パックの調味料
大量の缶詰
エマージェンシーブランケット
新品のアウトドア用ライト
サヤが思わず声を上げる。
「すごい……こんなの、まだ残ってるなんて」
シオナ
「地方型モールの底力だね。備蓄量が多いんだよ」
二人は必要なものを丁寧に選び90式のもとに戻ると外部ラックに積み込んだ。
あらためて駐車場に出ると太陽を浴びた千葉の景色が広がっていた。
遠くに房総の森
港に隣接した工場やタンクの群れ
アクアラインの橋がかすかに見える
空はどこまでも青い
「……ねえシオナ」
「ん?」
「終末だけど、なんか……幸せだよね、今」
シオナは少し照れながら微笑んだ。
「うん。人が消えて、世界は静かになったけど……
こうして旅してると、生きてる実感ある」
90式が金属の重みを残しながら風を受けて佇んでいる。
その影はどこか優しく二人を守っているように見えた。
再びモールに歩みを進めて大きな建物群の中に入っていく。
薄暗い吹き抜け。
舗道には落ち葉が吹き込んでいる。
かつてのブランド店が並んだ一帯はシャッターが半分落ちたまま固まっている。
そこで二人が見つけたのは──
稼働していた蓄電型自販機と保存状態の良い非常食ラック。
モールの非常電源が地下で自然放電を続けていたらしく、
太陽光型の補助電源がまだ生きていたらしい。
自販機のパネルがかすかに光っている
中には賞味期限が長い水、缶コーヒー、プロテインバーなど
地震対策の施されたラックには備蓄食がほぼそのまま残存
さらに防災センターの扉が半開きで中には簡易調理器具・医療キットが
サヤが思わず息を呑む。
「生きてる……こんなの初めて見た」
シオナは興奮を抑えつつバッグをそっと下ろす。
「ここ、まだ使える。しばらく休む? 夜はここに籠もってもいい」
二人は顔を見合わせ、まるで子どもみたいに笑みをこぼす。
長い旅路で初めて文明が残っている光景に出会った瞬間とも言える。
湿気でむせ返るような空気の中を進んでいくとシオナがなにかに気づく。
「これ……まだ使えるかも」
指さしたのは災害時用の耐水パック入りの備蓄食料箱。
賞味期限はあと1年ほどだが乾パンと水のパックは状態が良さそうだ。
奥に進むと次々と生活の希望が姿を現す。
二人が防災センターで見つけたもの
① 個人携行用レスキューバッグ(未使用)
・手動式LEDライト(回すと光るタイプ)
・応急手当キット
・サバイバルシート
・ホイッスル
・簡易ツールナイフ
シオナ
「これ旅行バッグに詰め替えて持っていこう」
サヤ
「まるで私たちを待ってたみたい」
② 災害時携帯担架(折りたたみ)
90式の車内でベッド代わりに使える。
サヤは目を輝かせて「今夜これ、敷いて寝られるよ……!」と喜ぶ。
③ 手回し発電機つきラジオ(奇跡的に動く)
ノイズしか入らないけれど、かすかに周波数を拾う瞬間があり希望になる。
④ 保存されていた雨具と作業手袋
90式の外作業や草木に覆われた道路を進む際に便利。
サヤが黄色のレインコートを羽織って笑う。
「似合う?」
シオナ
「うん。森の妖精みたい」
静かなモールに二人の声だけがやさしく響く。
アウトドアショップで見つけたもの
1. 高性能な登山用バックパック(70L級)
サヤは迷わず手に取る。
90式の車内はそこそこ広いと言っても
日常装備をまとめておく大容量バッグはありがたい。
2. サバイバルナイフとマルチツール
シオナが軽く試し握りして
「……これ刃こぼれしてない」
と呟く。
工具としても武器としても使える頼もしさ。
3. ポータブルソーラー発電パネル
窓ごしに差し込む夕日がパネルに反射して光る。
これは二人にとって電力の生命線。
携帯機器やライトの充電に最適。
4. 折り畳み式の軽量ストーブ一式
ガス缶もまだ数本残っていた。
これで温かいスープも飲めるし夜営の質が段違いに上がる。
5. 断熱性の高い寝袋(冬山対応のマミー型)
二人は色違いを選んで笑い合う。
シオナは深緑、サヤは焦げ茶。
6. 防水の大型タープ
雨避けにも日除けにも、90式の横に張って小さな拠点を作れる。
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