袖ケ浦を後にして ― 東京湾沿岸を北へ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう
本文
ショッピングモールで得た装備は確かな戦力だった。
新品同様の高耐久テント
防寒仕様のアウトドアジャケット
4シーズン対応の寝袋
サバイバルナイフ
そして、運良く見つけた未使用のポータブルソーラーパネル
サヤ
「これだけ揃えば旅の幅が広がるね」
シオナ
「うん。戦車があっても装備がなきゃ生き延びられないし」
二人は新しい装備を90式の後部ラックに積み込みモールを後にすると、
国道16号線へとつながる道を抜けて東へ東へと向かった。
路面は割れ雑草がアスファルトを押しのけている。
そんな中を90式はゆっくりと進む。
戦車の履帯は簡単に草を分け外界の静寂に低い駆動音を響かせた。
シオナ
「この道をまっすぐ行けば市原だね。あの辺り……工場地帯どうなってるんだろ」
サヤ
「タンクとか煙突とか、きっと自然に飲まれ始めてるよ」
途中、野生化した動物たちが道路を横切る。
イノシシの親子
鹿の群れ
どこかの動物園から逃げ出して定着した孔雀
そして、時折馬の群れまで国道沿いに見える
人類が姿を消しても自然は、こんなにも早く本来の姿を取り戻すのだ。
倒れた標識、雑草に埋もれた交差点、海鳥の鳴き声。
かつての渋滞街道は今では自然の回廊になっていた。
サヤ
「ねえ、シオナ……」
「うん?」
「世界って……滅びたはずなのに、なんか心が落ち着くね」
シオナは笑った。
「私たちが忙しすぎただけだよ。
本当の世界って、こういう静けさなんだと思う」
空は澄んでいた。
その時だった。
サヤが砲塔の上から、ふと顔を上げる。
「……あれ」
遠く。
湾岸の工業地帯の方角。
細い煙突の先に小さな炎が揺れているのが見えた。
シオナも目を細める。
「……火?」
サヤが少し身を乗り出す。
「火事かな」
だが、しばらく見ていて気づく。
違和感。
煙突以外の場所は、どこも燃えていない。
黒煙も上がっていない。
ただ先端だけが規則正しく静かに燃えている。
シオナがぽつりと言う。
「……違うね」
「うん」
サヤも頷く。
「火事にしては、変」
少し考えてからシオナが言う。
「フレアスタックかも」
「フレア?」
「余ったガスを燃やすやつ。工場とかで」
サヤはもう一度その炎を見る。
風に揺れながらも消えない。
「じゃあ……」
「うん」
シオナはゆっくり前を向く。
「まだ動いてる」
工場が。
配管が。
電気が。
人はいないのに。
サヤが小さく笑う。
「なんかさ」
「うん」
「ここだけ世界が終わってないみたい」
シオナも同じことを思っていた。
だからこそ。
そのあと国道16号に入ったとき、
看板の灯りに気づけた。
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