海ほたるは“海の生き物たちのオアシス”へ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう
本文
◆海ほたるの動物相(終末版)
①カモメ・ウミネコ類
海ほたるの“主”と言える存在。
屋上のフェンスや手すりが巣だらけ
レストランの屋根裏にも巣を作る
時には90式の砲塔に乗ってくる
サヤ「……あのコ、絶対こっちを見てるよね」
シオナ「人間の方が珍しい存在なんだよ」
餌は海魚、フライドポテトの残骸、落ちた袋菓子。
人がいなくなっても逞しく生きている。
②アオサギ・コサギ(東京湾の常連)
静かな海と廃墟化した建物は彼らには“理想の狩場”
デッキに羽を広げて乾かしている
レストランの窓枠に止まって休む
ゆったりと滑空してくる姿が神々しい
静寂の海ほたるに似合う、凛とした訪問者。
③野良猫
人間の退避前後に、
車に乗っていた猫やペットショップから逃げた猫が、
ここに住み着いた可能性が高い。
ベンチの下で暮らす
売店跡に寝床
魚を狙って海岸へ降りる
人懐っこい者はもういない。
野生に戻った目をしている。
④カワウ
海ほたるの裏側、
潮風の当たらない梁の上にコロニーができている。
水中に潜って魚を捕る
海上構造物とは抜群の相性
糞害がひどい(終末でもそこは変わらない)
シオナ「……匂いで分かるね、この辺にいるの」
サヤ「うん……これは文明が滅んでも残っちゃう種類の匂いだ」
⑤アザラシ
人がいなくなった東京湾では、
アザラシ類が湾奥まで泳ぎ込む可能性が上がる。
もし来ていれば――
海ほたるの階段下で日光浴
船着き場跡でひっそり休んでいる
人がいないので堂々としている
見つけたら二人にとっては癒しそのものだ。
⑥ペンギン
東京湾が寒冷化した世界なら、
“迷いペンギン”が海ほたる周辺に来ることもある。
特にフンボルトペンギンは海水域に適応するため、
海ほたる桟橋に群れで休む
階段の段差をよちよち登る
ガラス窓に興味津々に首を傾げる
サヤ「ねぇ……あれペンギンじゃない?」
シオナ「え、ウソ……ほんとだ」
サヤ「……かわいい」
シオナ「文明がなくなっても、尊さは残るんだね……」
◆ 海ほたるに棲みつくアザラシたち
東京湾は本来アザラシの繁殖海域ではないけれど、
人類の活動が止まって漁も船もない世界では、
海洋生物の行動範囲は一気に広がる。
そして“海ほたる”は……
海に囲まれた広くて静かな構造物。
潮風が気持ちよく天敵もいない。
波が穏やかで日当たりも良い。
アザラシたちにとっては
「ここ、めっちゃ休憩しやすいんですけど!」
という環境だった。
◆ 朝のデッキに転がるアザラシたち
薄明るい空が海面に反射し青と白の境界が滲んでいく。
翌朝、二人が目を覚ますと――
海ほたるの中央デッキには、
数頭のアザラシが日向ぼっこをしていた。
コロコロした若いアザラシ
大きくてどっしりした成獣
子ども同士で鳴き合う小さな個体
海へ降りる階段で滑って遊んでいる者までいる
シオナとサヤが戦車の上で伸びをしたその時――
「……ねえ、あれ」
サヤが指さした先。
かつてウッドデッキだった場所の陰から、
ころんと丸い影がぬるりと現れた。
アザラシ
丸い耳、黒いつぶらな瞳、つやつやした体。
どう見ても人工的な天敵のいない安全な場所で
のんびり育った“平和な野生”。
サヤ「……かわ……」
シオナ「……いいね、この終末……東京湾、がんばったね」
サヤ「人が減って静かになったから……安心して住んでるんだね」
アザラシたちは人間に興味がないわけではなく、
90式の匂いに誘われて近くまで寄ってきたり、
砲塔に前足をかけて覗き込んできたりする。
「ウォッ!」
「キューウ、キュッ」
戦車の装甲に跳ね返るアザラシの鳴き声は、
静かな海ほたるにとても心地よく響いた。
◆ 食堂のテラスは“アザラシ専用”に
かつて観光客で賑わったテラス席は、
朝になるとアザラシたちが乗り込み、
テーブルの上やベンチの上でゴロゴロしている。
風よけの壁があるため居心地がいいのだ。
日陰で寝ている子アザラシ
手すり越しに海を覗く成獣
自販機の残骸に顔を突っ込んでいる好奇心旺盛な若者
サヤ「……人類が減って幸せになったのは君たちかも」
シオナ「いや本当に」
アザラシは警戒しながら近づいてくる。
サヤがしゃがんで手を差し出すと、
ぽすん。
小さな前ヒレでそっと触れてきた。
アザラシはどうやら遊んでほしいらしく、
デッキの上をずりずりと転がりながら、
二人の足元をくるくる回る。
サヤ「ちょ、くすぐったい……!」
シオナ「この子、懐っこい……人間のこと怖がらないんだね」
アザラシはシオナの靴紐を軽く引っ張って遊び、
サヤの手をぺろりと舐め、
しまいには戦車の履帯の陰でお腹を見せて寝転んだ。
完全に気を許している。
シオナ「……連れて行きたいけど無理だね。
海のほうが、この子には楽園だよ」
サヤ「そうだね。
でも少しでも触れ合えただけで……なんか元気出た」
アザラシは最後に一声「クゥ」と鳴き、
ゆっくり海へ戻っていった。
終末の世界に静かで優しい朝が流れた。
アザラシ以外にも、
カモメ
トビ
ウミネコ
時期によってはイルカの群れ
そして潮に乗ってやってきた魚の群れ
が集まる。
まるで海ほたるそのものが
孤立した小さな生態系になったかのようだった。
人が作った建造物が、
人がいなくなってから“やっと自然にとって役に立つ存在になった”。
そんな美しい逆転現象。
シオナとサヤは装備を片付け、
90式のエンジンを再び始動させた。
海ほたるに響く重低音。
アザラシがびっくりして海に飛び込むのが見えた。
サヤ「行こっか。今日はどんな景色を見られるんだろ」
シオナ「千葉側は自然が多いから、もっと動物が増えてるかもね」
二人を乗せた90式はゆっくりと大型車駐車場を回り、
合流路を抜けて千葉方面へ走り出す。
人工の海上施設を離れ、
自然に飲まれた終末の大地へ――