第七章「竜の涙」
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
たまたま拾った一本の指輪。 それが、世界を救う “始まり”だった。 人と不思議な生物〈ユニオン〉が共に生きる世界。 指輪〈ユニオンリング〉に選ばれた少年・明道ヤマトは、 未来から来た少女アスカ、そして孤独な青年リョウガと出会う。 炎、風、時―― 相棒と心を重ね、戦い、別れ、そして再び巡る運命。 これは、 「相棒との絆」が、神さえも超える物語。 ――たまたま拾った指輪で、世界を救う物語。
本文
夜の祠に、雨が降っていた。
静かに、しかし絶え間なく。
その雨音は、まるで
誰かのすすり泣きのように響いていた。
アスカは石段に腰を下ろし、
風の羽根を掌に乗せていた。
淡く光るその欠片は、竜の意識の一部。
彼女の心に、時折、囁きが届いていた。
『――アスカ。』
「……ゴッドドラゴン?」
『我は、お前の心を見ている。
だが今、お前にも
“我”
を見せよう。』
光がゆっくりと広がり、
アスカの視界が白に包まれた。
――そこは、遥か昔の空。
まだ封印が生まれる前の、
世界の始まりだった。
無数の竜たちが大空を舞い、
人々がその下で祈りを捧げている。
人と神が共に歩んでいた、
ほんの一瞬の時代。
その中で、ひときわ大きな竜が
地上を見下ろしていた。
金色の鱗、深紅の瞳。
それが、ゴッドドラゴン。
『我は、彼らの祈りを
“力”
と呼んだ。
彼らはそれを
“信仰”
と呼んだ。
――だが、
やがてそれは
“恐れ”に変わった。』
人々の手が、槍を握る。
火が上がり、風が濁る。
竜の翼が、悲鳴の風に晒された。
『我は戦わなかった。
ただ、見ていた。
信じていた。
――彼らが、
思い出してくれると。』
アスカの胸が締めつけられる。
涙が勝手にこぼれ落ちた。
『だが、世界は静寂を選んだ。
我は封じられ、竜たちは夢に還った。
残されたのは、
“痛み”だけ。』
ゴッドドラゴンの瞳から、
一粒の雫が落ちる。
それが地に触れた瞬間、
大地が花開く。
「……それが、
“竜の涙”。」
『涙とは、失ったことを
悔やむためのものではない。
それでも信じたいと願う心の証だ。
――お前の世界では、どうだ?』
アスカは微笑んだ。
「同じよ。
泣くのは、諦めるためじゃなく、
もう一度信じたいから。」
風がそっと彼女の頬を撫でた。
その温もりは、
まるで竜が微笑んでいるようだった。
『ならば――
お前はもう、我の
“友”ではなく、“翼”だ。
人と神を繋ぐ風の翼。』
「……翼、か。」
『行け、アスカ。
この涙の意味を、
お前自身の戦いで証明せよ。』
光が弾ける。
アスカは再び現実へと戻った。
「……アスカ?」
リョウガの声がした。
彼女は目を開ける。
外は雨のままだが、
風だけが優しく吹いていた。
「……見てきたの。竜の過去を。」
「過去?」
「そう。
封印される前……彼は人を信じていた。
裏切られても、信じ続けた。
それでも泣いたのは、まだ
“希望”
があったから。」
アスカは涙を拭い、笑った。
「――だから、私たちも同じ。
何度裏切られても、
もう一度信じればいい。
それが、風の力。」
リョウガは黙って頷いた。
そして空を見上げる。
雲の切れ間から、
一筋の光が差し込んでいた。
「……光が戻ってる。」
「ええ。きっと、彼が泣き止んだから。」
二人は立ち上がった。
そして――その時。
空が、再び割れた。
雷でも風でもない。
“空間”
そのものが、引き裂かれた音。
「っ……この反応、まさか!」
リョウガが即座に構える。
祠の奥から、黒い霧が立ち上がる。
光を喰うような闇。
「美しい光景だな。
――だが、甘い。」
その声は低く、
凍てつくように冷たい。
霧の中から、一人の男が歩み出る。
黒い外套、片腕には
竜の意匠を刻んだリング。
ヴェルザーク。
「……やっと出てきたわね。」
アスカが風を巻き上げる。
彼は笑う。
「神と
“友”
になる女か。
滑稽だな。
神は人に背を向けた。
お前はそれを忘れた愚か者だ。」
「神が背を向けたんじゃない。
人が“背を向けさせた”のよ!」
「言葉は綺麗だ。
だが、結果は同じだろう。」
ヴェルザークは右手を掲げた。
闇が渦を巻き、竜の影が形を成す。
「俺は信じる。
――人が神を超える世界を。」
リョウガが前に出る。
「お前の信じる
“世界”
は、支配だろう。」
「支配と秩序の違いを知らぬ者が、
口を出すな。」
黒い竜の輪郭が、背後で咆哮した。
風が吹き荒れ、祠の壁が崩れる。
アスカは目を細めた。
風のリングが光り、
彼女の背に翼が広がる。
「リョウガ、行くよ。」
「……ああ。あいつを止める。」
風と闇。
二つの力が、
同じ瞬間にぶつかろうとしていた。
――それは、避けられぬ宿命。
雨が止み、風が静まる。
そして、空に雷鳴が走った。
「さあ、“友”の力……
見せてもらおうか。」
ヴェルザークが笑う。
次の瞬間、世界が閃光に包まれた。