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プロローグ「過去より来た影」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/9 📚 シリーズ: たまたま拾った指輪で異世界を救う物語 📝 3,055文字 ✅ 全年齢

あらすじ

たまたま拾った一本の指輪。 それが、世界を救う “始まり”だった。 人と不思議な生物〈ユニオン〉が共に生きる世界。 指輪〈ユニオンリング〉に選ばれた少年・明道ヤマトは、 未来から来た少女アスカ、そして孤独な青年リョウガと出会う。 炎、風、時―― 相棒と心を重ね、戦い、別れ、そして再び巡る運命。 これは、 「相棒との絆」が、神さえも超える物語。 ――たまたま拾った指輪で、世界を救う物語。

本文

――風が、境目を越えた。

空は透きとおり、

昼と夜の色がひと筋で分かたれている。

そこにぽっかり口を開けた

“傷”

から、二つの影が落ちてきた。

翼のように広がる蒼と、細い刃の闇。

アスカとリョウガだ。

彼らを受け止めたのは、地上の風だった。

騒がしい街の気配――

バスのブレーキ音、遠くのサイレン、

ソーダの抜ける炭酸。

ユニオンワールドの現代。

見慣れたはずの空気が、

今は少しだけ音量を上げている。

「……帰ってきた、のかな」

アスカが小さく息を吐く。

掌に浮かぶリングが、

ひと拍おいて淡く光った。

金の竜紋が、鼓動のように脈を打つ。

「帰ったのはお前の風だろう」

リョウガは乱れたコートを整え、

視線を街の遠景に投げた。

スカイレールが走り、

ガラスの塔に雲が映る。変わっていない。

だが、変わっている。

外伝で見たあの

“裂け目”

の名残が、空の奥に薄く揺れていた。

屋上のドアが軋み、少年の影が差す。

――やっぱり、

あの風は二人だったんだな」

明道ヤマト。

手にしていた文庫本を閉じ、

笑って、少しだけ泣きそうな顔をした。

彼の指のリングが、懐かしいように、

そして新しいように光っている。

「久しぶり、ヤマト」

アスカの声が、少しだけ震えた。

次の瞬間、三人の間に風が駆け抜け、

屋上の古い旗がぱたんと鳴った。

挨拶のかわりの、風の抱擁。

「外の向こうで何があった?」

ヤマトの問いに、アスカは短く答える。

「竜と友達になった。

……でも、それで終わりじゃなかった」

リョウガが視線を落とし、掌を握る。

皮膚の内側で、

黒蛇の刻印がじわりと疼いた――

まるで遠雷が骨の底を這うように。

「“次”が来る。

こっち側へ。

俺たちだけじゃ止めきれない流れだ」

ヤマトは頷き、二人を屋上の縁へと招く。

下には街。

どこにでもある午後、

どこにでもない均衡。

「じゃあ、もう一回。

……拾った指輪で、守ろう」

アスカは微笑む。

「うん。今度は

“時”も数に入れて」

風が、三人のリングを

一度に撫でていった。

炎、風、闇――

違う鼓動が、同じ拍に重なる。

――その瞬間、

街の遠くで空が

“鳴った”。

肉眼では見えない微細な波紋が、

ビルの影と影の隙間に走る。

鳩が一斉に飛び立ち、

信号の青が一瞬だけ滲む。

看板の電光が、

一文字ぶん遅れて点滅した。

「感じる?」

アスカが囁く。

「時間の

“目減り”。

何かが、こっちに近づいてる」

「誰だ?」

ヤマトの問いに、

リョウガは静かに答える。

「名はまだ影だ。

だが――

“蛇の匂い”

がする」

彼の言葉に、

風の温度がひと度だけ下がった。

闇は冷たさではなく、

記憶の手触りでやって来る。

封印の祠、古い紋章、そして

“選べ”

という問い。リョウガの体内で、

そのすべてがゆっくりと重なっていく。

階下の喧騒がほんの少し遠のいたように

感じられたとき、彼のリングが

不意に熱を帯びた。

視界の隅、

フェンスの影が一本、蛇行する。

影が影を孕み、文字にならない呼吸が、

耳の裏に近づく。

――――リョウガ。

――――お前は、まだ“怖い”か。

彼は目を閉じ、深く吐き出す。

「……怖いさ。

だからこそ、握りしめる」

ヤマトが肩で笑う。

「なら大丈夫だ。

怖さから逃げなかった奴は、

必ず前に進める」

「言い切るな。お前はいつだって前だ」

「後ろで背中押してくれる人がいるからね」

ヤマトがそう言って、

アスカと目を合わせた。

三人の間に、照れくさい沈黙。

風だけが素直だ。

その沈黙を、別の風が破った。

街の中央、広場上空。空気が逆流する。

見えない指が布をつまむように、青空が

内側へ引き寄せられ――

現れたのは、薄い輪の縁。第零の欠片。

輪の内側は

“静かすぎた”。

音のない霧、光のない影。

そこから声がする。

声というより、乾いた舌の動き。

擦れ合う鱗の囁き。

《観測:ユニオンリング群。

識別:フェニックス、

イーグル、ヴァイパー。》

《優先度:高。試行:侵入――》

無機の抑揚、なのに冷たい悪意。

ビルの窓に走る線がひび割れに見え、

交差点の白が蛇腹のように折れた。

アスカが風翼を展開し、

リョウガが一歩前に出る。

ヤマトは拳を握り、

リングを胸元で鳴らした。

「来るよ」

「分かってる」

「上からだ」

輪が一段深く回転し、

薄皮一枚むけた空から

“それ”

が覗いた。

蛇ではない。人でもない。

時の外縁でつくられた、歪な

“媒介(メディウム)”。

金でも黒でもない、色のない機構。

円環をいくつも重ねた、無声の触手。

《問:蛇神、所在。》

《応:不定。解:封印者の座標へ同期》

触手が風を掴み、広場の砂埃が

時計の針のように巻き上がる。

その中心へ、リョウガの影が引かれた。

アスカが滑り込み、風で軌道を曲げる。

ヤマトの炎が、見えない指に

赤い線を入れる。

「離せよ」

リョウガの声は低く、よく通った。

次の瞬間、彼の足元から黒い稲妻が走り、触手を真っ二つに裂く。

空中に散った切片は、

砂時計の砂のように逆流して輪へ戻った。

《解析:対象“封印者”反応。蛇神共鳴率、上昇》

《補正:喰イ直シを開始――》

輪がわずかに笑ったように見えた。

ヤマトは眉を上げ、

アスカに目で合図する。

「話は後。止めるのが先だ」

「了解。風、全域展開」

「闇、必要分だけ使う」

短い言葉が、刃物より速く交わされる。

三人がほぼ同時に跳んだ。

そのとき――

遠い底から、別の呼び声が立ち上がった。

砂の下、時間の下、祠の下。

記憶ではない、現在の声。

――――封印者。

――――もう一度、問う。

――――お前は、誰を赦す。

リョウガは笑い、答えた。

「まず、自分だ。

次に――

蛇神を」

黒蛇の紋が、痛みを越えて熱へ変わる。

アスカの風がその熱を抱き、

ヤマトの炎が芯をつくる。三つの色が、

ひとつの

“今”

に重なった。

輪が悲鳴を上げる。

「音のない悲鳴」

ほど、世界を震わせるものはない。

街灯の影が一瞬だけ短くなり、

カラスが時間を三拍飛ばす。

《異常:共鳴式、外部からの逆算を受領》

《識別不能の位相――

“旧蛇神階”

より応答》

屋上の空が深くなり、

ヤマトのリングが小さく鳴いた。

アスカの耳に、別の風が囁く。

――友よ、恐れるな。

――我は、そなたの翼の内側にいる。

竜の声。温度を持つ金の記憶。

アスカは頷き、両手を開いた。

「繋ぐよ。今度は

“時”ごと」

風が街を走り、落ち葉を、声を、光を、

そして後悔を巻き上げて、

輪の中心へ押し戻す。

ヤマトの炎が渦の縁を縫い、

リョウガの闇が余計な刃を折る。

三つ巴の力が、

“侵入路”

の歯車を一枚ずつ外していく。

輪は閉じかけた。だが、完全ではない。

縁に細いひびが残り、そこから

“長い影”

が滑り出す。

言葉を持つ影――

否、言葉の前段階。

“意思”そのもの。

《観測:蛇神原位、目覚め》

《移動先:封印者の時代》

影は一度だけ三人を見て、笑った。

「まだ名は要らない」

そう言った気がした。

次の瞬間、影は糸のように細くなって、

現代の空の高みへと消えた。

静寂。

風だけが残った。

だが誰も、勝利だとは思わなかった。

「……行ったな」

「うん。

たぶん、私たちを

“わざと”

見逃して」

「いや、誘ってだ。

“来い”って」

三人は同時に頷いた。

ヤマトが笑う。

少しだけ、昔の少年みたいに。

「じゃあ、追いかけよう。

――“いつものように”」

アスカは空を見上げ、風を吸い込む。

「繋がる風は、行き先を選ばない。

だったら、私たちが選ぶだけ」

リョウガは拳を握り、リングを撫でた。

「戻るぞ。始まった場所へ。

蛇神の試練は、俺が受ける」

ヤマトが二人の肩に手を置く。

「三人で、だ」

風が、三人の足元から街路へ降りていく。

十字路の白が眩しく、信号は青。

走り出すための色だ。

遠く――

まだ名を持たない

“次の敵”

が、時の薄皮を指で弾いた。

世界は一瞬だけ、未来へ傾く。

そして物語は、三度目の旅路へ。

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作者について

りゅーと

りゅーと

はじめまして! ファンタジーが大好きで、 物語を書いています。✨✨ 剣と魔法の世界や、 心が少し強くなれるような 冒険譚を描くのが好きです。✨✨ 読んでくださる方の心に、 小さな灯り...

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