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配信38回目 間取りにない部屋【前編】――図面に載っていない扉がある

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/1 📚 シリーズ: 影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます 📝 3,732文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます - 配信38回目 間取りにない部屋【前編】――図面に載っていない扉がある

本文

【前書き】

 引っ越し先の間取り図に、部屋が一つ多かった。

 夜になると、廊下の先に扉が出る。

 死後側からじゃないと、分からないことがある。

*****

 相談メールの文面は、短かった。

『引っ越してきた部屋の間取りに、存在しないはずの扉があります。夜だけ廊下の突き当たりに出て、朝になると消えています。毎朝、物が少しずつ動いています。先生の配信を見て、連絡しました』

 私がそれを読み上げると、

 朔夜さくやはコーヒーを一口飲んで言った。

「よし、行くぞ」

「え、今夜?」

「今夜」

「え〜〜〜!見たい配信あったのに……」

「えーじゃない。現地確認が先だ」

 ぬいが冷蔵庫の上でのそりと起きあがった。

 灰白色かいはくしょくのふわふわした体が、ゆるりと揺れる。

「夜の物件か。じとっとした匂においがするのう」

「それ毎回言うよね」

「毎回そういう案件しか来ないからじゃ」

 何も言い返せない。

―――

 依頼人の真崎まさきさんは、三十代前半くらいの女性だった。

 新しい職場に近い物件を探して、二週間前に引っ越してきたばかりだという。

 写真で見た印象より、目の周りが暗かった。

 眠れていない顔だ。

 玄関先で出迎えてくれた時、最初に謝られた。

「わざわざすいません。こんな話、おかしいと思われるかもしれなくて――」

「おかしくないですよ!」

 私が即答すると、真崎さんは少し驚いた顔をした。

「……あなたの配信、怖くて最後まで見られなかったんですけど。連絡してよかったです」

「ありがとうございます」

 朔夜が無言で中へ入る。――コイツに愛想は期待しない方がいい。

―――

 1LDKの部屋は、生活感の薄い空間だった。

 段ボールがまだいくつか積んである。

 引っ越しの荷解きにほどきが、途中で止まっている。

「止まったんです、荷解き」

 真崎さんは言った。

「扉が出るようになってから、この部屋に長くいるのが怖くて」

 朔夜が間取り図を広げる。

 LDK、寝室、バスルーム、玄関収納。

 それだけの、普通の一人暮らし用の間取りだ。

「扉が出るのはどこですか」

「廊下の突き当たりです。寝室に向かう手前のところ」

 朔夜が廊下へ行く。

 私とぬいもついていく。

 廊下は短かった。

 玄関から寝室まで、七、八歩もあれば届く。

 突き当たりには、壁があった。

 普通の、白い壁。

「今は出ていませんね」

「夜の十一時過ぎくらいから出るんです。毎晩」

 朔夜が壁に手を当て数秒、何かを確かめるように立ち止まった。

「ここは……境界が薄い」

「扉が出る理由になる?」

「なるな。この壁の向こうが、向こう側あの世とほぼ繋がりかけている。夜、気温と湿度が下がると、境界がさらに薄くなって、扉として形が出る」

「形として出るってどういうこと」

「向こう側にある"扉"が、こっちに透けて見えるようになる。向こう側は、こちら側と構造は重なってる。だから夜だけ見える」

 ぬいが廊下の端で、小さく唸うなる。

「廊下の空気が違うのう。端っこだけ温度が一段低い」

 言われてみると、私も感じた。

 廊下の突き当たりだけ、すうっと冷えている。

 六月手前の夜にしては、不自然な冷たさだ。

「真崎さん、この部屋、内見の時に気になることはありませんでしたか」

「特には……。少し古い物件だとは思いましたが」

「以前の住人について、何か聞きましたか」

「……」

 真崎さんの表情が、少し変わった。

「不動産屋さんに聞いたら、前の方は急に引越しされたって言っていました。理由は教えてもらえなかったです」

 朔夜が壁から手を離した。

「今夜、十一時まで待ちます。扉が出たら確認したい」

真崎さん「私も一緒にいていいですか」

「いない方がいいですが、真崎さんの意思なら止めません」

「......一緒にいます」

 真崎さんは、はっきりと言った。

 自分の部屋に出た怪異から、逃げないと決めた顔だった。

―――

 十一時五分。

 扉が出た。最初は輪郭だった。

 壁の中に、四角い線が浮かぶ。

 うっすらと、でも確実に。

 ドアノブの形まで、きちんと出ている。

「出た……」

 真崎さんが息を呑む声がした。

 ぬいが私の肩の上で身を固くする。

「こっちからと向こうからで、廊下の長さが合わないのう」

「え?」

 ぬいの言葉の意味が、すぐには分からなかった。

「見てみい。玄関からここまで何歩じゃった」

「七、八歩くらい」

「では向こうからは?」

 私は扉の形を見た。

 向こう側に廊下がある。

 同じ廊下だ。

 同じ壁の色、同じ床材、同じ電球の光。

 でも、扉の向こうに見える廊下は、こっちより長い。

「長い……」

「向こうの廊下は、こっちより三倍は長いじゃろう。同じ建物のはずなのに」

 朔夜が静かに言った。

「向こう側では、この物件の構造が違う。廊下の先に、こっちには存在しない部屋がある」

 間取りにない部屋。

 そういうことか。

「その部屋に何かいるの?」

「その可能性が高い。ただ、今夜は確認だけだ」

 朔夜が配信機材を構える。

 スマホのカメラを扉の形に向ける。

「ゆら、霊体で入れるか」

「え」

 私は扉を見た。

 向こう側の廊下が、長くこちらへ伸びている。

 薄い電球の光。

 古い壁紙。

 誰もいないのに、人がい・た・気配のする場所の空気。

「生身では入れない。扉はあくまで形だ。実体じゃない」

「霊体なら入れる?」

「霊体なら境界の薄い場所を通り抜けられる。ここなら、その条件を満たしてる」

 つまり。

「死んで入れってことか!!」

「正確には、霊体状態で境界を通過してもらう。向こうの構造を確認して、核の場所だけ教えてくれれば十分だ」

 ぬいが私の耳元で囁ささやく。

「嫌なら嫌と言えばよい」

「嫌なんだけど、真崎さんがいる前で嫌って言うのも嫌なんだよ」

「お前の悩みはいつも面倒じゃのう」

 私は真崎さんを見た。

 真崎さんは、黙って扉の形を見ていた。

 自分の部屋に、毎晩扉が出る。

 毎朝物が動く。

 眠れない夜が続いている。

 でも逃げなかった。

 ため息をついた。

「分かった。行く」

「待て」

 朔夜が私の腕を掴つかんだ。

「向こうで何かに声をかけられても、答えるな。誰かに見えても、触れるな。これだけ守れば戻れる」

「何かいるの?」

「可能性の話だ」

「可能性があるから言ってるんじゃないの」

「……守れるか」

「守る。守るから早く行かせてくれ、怖いから早く終わらせたい」

 朔夜が手を離した。

 私は廊下の突き当たりに向かって、一歩踏み出した。

―――

 次の瞬間、世界の温度が変わった。

 寒い。

 六月前の夜じゃない温度だ。

 もっと遅い秋か、冬の入口みたいな寒さ。

 そして、廊下が長かった。

 さっきまで七、八歩だったはずの廊下が、ずっと先まで続いている。

 振り返ると、扉の向こうにリビングの光がある。

 真崎さんと朔夜の輪郭が見える。

 声は聞こえない。

「……向こう側に入れた」

 自分の声が、少し遠く聞こえる。

 ぬいが肩の上で、爪を立てた。

「生きとるか」

「生きてる」

「霊体に見えるが」

「それは毎回そうじゃない?――今回は痛くなくて、よかった」

 廊下の先を見る。

 長い。

 すごく長い。

 でも、突き当たりは見える。

 扉がある。

 木製の古い扉。

 ノブは錆さびかけた金色。

 すりガラスのはまった扉だ。

「何かいる?」

「……分からぬ」

 ぬいの声が、珍しく慎重だった。

「生きている何かじゃない。でも強くもない。何か残・っ・て・い・る・、って感じじゃ」

 残っている。

 私は扉に近づいた。

 すりガラスの向こうに、光がある。

 電球の黄色い光じゃなくて、もっと白くて冷たい光。

 扉に手を当てた。

 その瞬間、ガラス越しに見えた。

 部屋の中に、テーブルがあった。

 椅子が二脚、向かい合って置かれている。

 テーブルの上に、コップが二つ。

 片方は中身が入っている。もう片方は空だ。

 テーブルの横に、段ボール箱が積まれている。

 中身は荷物だ。引っ越しの途中で、止まったまま。

「……荷解きが、途中で止まってる、って真崎さんいってたっけ」

 ぬいが静かに言った。

「おいおい、こっちの話ではないぞ。向こう側の話じゃ」

 私は唾を飲み込んだ。

 あの世に残っているのは、誰かが「行けなかった場所」の残留だ。

 引っ越しの途中で、止まってしまった人の残留――。

 続く。

*****

【後書き】

■ 登場キャラクター

影森かげもりゆら

今回も霊体での現地確認を引き受けた。死後側に入ると生身では見えない「向こう側の構造」が見える適性を、今回もフル活用させられている。扉の向こうに見えた「途中で止まった引っ越し」の意味を、まだ飲み込みきれていない。

夜見よみ朔夜さくや

現地確認と生身での侵入は不可と判断し、ゆらの霊体投入を即決した。腕を掴んで注意事項を言った割に、手を離すのは早かった。

ぬい

「じとっとした匂い」で最初から察知していた。向こう側でも珍しく慎重な言い方をしている。「残っている」の正体に、うっすら気づいている。

真崎さん

新居に引っ越してきたばかりの依頼人。眠れない夜が続いているのに逃げなかった。自分の部屋のことを自分の目で確かめる、と決めた人。

■ 今回の話について

リミナルスペース回の前編です。「間取り図に載っていない部屋」という怪異は、向こう側と現実の空間が重なっているという構造から来ています。生身では見えない「廊下の長さの差」「向こう側の扉」が、霊体のゆら視点だからこそ分かる、という形で死後潜入パートを自然に組み込みました。今回見えた「途中で止まった引っ越し」の残留については、後編で明かされます。

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作者について

勇者ヨシ君

勇者ヨシ君

愛知県安城市で「ギルド酒場るすと」というゲームバーをやりながら、小説を書いています。 レトロゲーム、ボードゲーム、シーシャ、酒場の空気感が好きです。 異世界×ゲーム×酒場の作品や、 ホラー×...

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