配信40回目 事務所に泊まる羽目になった――VHSの中の声が、知っているの表紙画像

配信40回目 事務所に泊まる羽目になった――VHSの中の声が、知っている

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/1 📚 シリーズ: 影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます 📝 5,860文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます - 配信40回目 事務所に泊まる羽目になった――VHSの中の声が、知っている

本文

帰れない夜は、たいていろくでもない理由がある。

 深夜、古い機材から声が聞こえた。

 誰かが配信していた記録が、まだそこに残っていた。

*****

 終電を逃したのは、私のせいじゃない。

 そこだけははっきり言っておきたい。

 夜見よろず相談事務所の机の上でメールの返信を打ちながら、時計を見たら日付が変わっていた。電車はとっくに終わっていた。帰れない。そういうことだ。

「……詰んだ」

「なんじゃ」とぬいが冷蔵庫の上から言う。

「終電なくなった」

「ふむ。まあ、そうなるじゃろうと思っておった」

「思ってたなら教えてくれよ!」

 朔夜はソファに沈んだまま端末を見ていて、私の方に目も向けない。

「泊まれ」

「え?」

「ソファがある」

「それだけ?」

「それだけだ」

 普通なら「帰れないならタクシー代出せ」と言うところだが、朔夜の財布のヒモの固さは私が一番よく知っている。

 るなにレインを送った。「今日帰れない」と。三秒でレスが来た。

『えぇ〜!朔夜さんとこ!?なになになに!?』

「何もないんだよ」と返したら「うそだぁ〜」が来た。

 母には「友達の家に泊まる」と送った。朔夜がそれを横から見て「嘘をつくな」と言った。

「じゃあなんて言えばいいの」

「怪異相談屋の事務所」

「そんなの言えるわけないだろ、バカ!」

 結局「友達の家」で押し通した。朔夜は一言「勝手にしろ」と言って、それきり関心をなくした。

 ぬいがソファの背でくるりと丸くなった。

「まあ、今夜はここにいた方がよかろう」

「なんで」

「……あの棚が、温かいのじゃ」

 事務所の奥、古い機材が積み上がっている棚。目を向けると、確かにその棚だけ空気が少し違う気がした。

「機材の熱とかじゃないの」

「電源が入っておらん機材が、温かいのはおかしい」

 朔夜が端末から目を上げた。ぬいの言葉を聞いていたらしい。

「今夜はここから出るな」

「え、なんで急に」

「何かいる。外に出た瞬間に、追ってくる可能性がある」

「それって私が囮おとりってこと?」

「事務所から出るなと言っている」

「答えろ! 守ってるの? 囮なの?」

 クズ朔夜は答えなかった。

 答えないことが、今夜は少しだけイヤだった。

―――

 日付が変わって一時間が過ぎた頃、棚が動いた。

 動いた、というより、音がした。

 がたり、という小さな音。棚の奥から、乾いた機械音が低く鳴り始めた。

「……朔夜」

「聞こえてる」

 朔夜が棚へ向かう。積み上がった機材をよけながら奥を探ると、一番奥に古いVHSデッキが一台あった。接続されていない。電源コードは抜けている。なのに、テープを巻き取るような音が、確かに中から鳴っている。

「触るな」

「触ってない!」

「ぬいも触るな」

「触らんわい」

 朔夜がデッキをじっと見た。数秒、動かない。

「テープが入っている。誰かが入れたのか、もともとあったのかは分からない」

「どうするの」

「確認する」

「再生するの?」

「コードを繋がずに確認する手段がある」

 朔夜は護符を一枚、デッキの上に置いた。薄く光る。それだけで、棚の周りの空気が少しだけ固まった気がした。

 ぬいが耳をぴっと立てる。

「……中に何かおる。強くはない。でも古い」

「古いってどういう意味」

「長い間、ここにあったということじゃ。誰にも見つけられんまま、ずっと」

―――

 朔夜がコードを繋いだのは、それから三十分後だった。

「再生するの?」

「少しだけだ。何が入っているか確認して、すぐ止める」

「止めきれなかったら?」

「止める」

 強引な答えだった。でも朔夜がそう言う時は、たいていちゃんと止める。

 再生ボタンを押した。

 画面が砂嵐になった。

 音声だけ、鮮明に流れてくる。

「今夜も来てくれてありがとう。……この場所が、どれだけ続くか分からないけど」

 男の声だった。

 朔夜に似ていたが、朔夜じゃない。もう少し若くて、少し掠かすれている。

「……誰の声?」

 朔夜が答えなかった。

「配信してたの? 昔、誰かが」

 答えなかった。

 ぬいが、私の肩の上で小さく息を吐いた。

「……わしは、この声を知っとる」

 その一言で、部屋の空気が変わった気がした。

「どういうこと? ぬい、誰の声か分かるの」

「……今は言えぬ」

「なんで」

「”今は言えぬ”、と言っておる」

 音声が続く。

「……いつか、ここに誰かが来てくれるといい。俺がいなくなっても、この場所が」

 そこでテープが止まった。

 朔夜が電源を切った。コードを抜くと、静かになった。

「朔夜」

「なんだ」

「あの声、知ってる?」

「知らん」

「嘘っぽい」

「知らん、と言った」

 それ以上は聞かなかった。朔夜が「知らない」と言う時の声の温度を、私は覚えてきてしまっていた。本当に知らない時と、知っているのに言わない時で、同じ「知らない」でも少しだけ違う。

 今夜は、後者だった。

―――

 午前二時を過ぎた頃。

 朔夜は机で仕事を続けていた。私はソファで横になっていたが、眠れなかった。

 棚が、また鳴った。

 今度は音じゃなかった。

 VHSデッキの、電源を抜いたはずの画面が、薄く光った。

「……え」

 砂嵐じゃない。

 画面の中に、この事務所が映っていた。

 今のこの事務所が。机も、書類も、配信機材も、全部同じ配置で映っている。カメラが一台、三脚の上に立てられていて、そこから今の事務所を映している構図だ。

「朔夜」

「見た」

「あれ、今の事務所じゃないの」

「そうだ」

「どういうこと?」

「テープの中に、今の映像が入り込んでいる」

 ぬいが棚から跳び降りて、私の肩に乗った。爪が少し食い込む。

「……ゆら。あの画面を、じっと見るな」

「なんで」

「映ってしまうから」

 言われた瞬間、視線を外そうとした。

 でも遅かった。

 砂嵐の画面の中に、私の後ろ姿が映っていた。

 今のソファに横になっていた、私の後ろ姿が。

「……え」

 画面の中の私が、ゆっくりと振り向いた。

「いや待って、こっち向くな——」

 画面から、手が出てきた。

 VHSデッキの小さな画面から、人間の腕が出てくる。物理的にありえないサイズのはずなのに、出てくる。白くて細い手が、こちらへ伸びてくる。

 朔夜が護符を構えた。

 でも一瞬早かった。

 手が、私の首に巻きついた。

「っ——!」

 冷たい。指が細い。でも力が強い。

「離せ!」

「影森!」

 朔夜が護符を叩きつける。手がぶれる。でも離れない。むしろ一段強くなった。デッキが火花を散らす。護符が弾かれる。

 ぬいが叫ぶ。

「朔夜! 引き込もうとしている!」

「分かってる!」

 引き込もうとしている。画面の中へ。首を掴んだまま、向こう側へ私を引き摺り込もうとしている。

 もう一枚、護符が飛んだ。今度は手首に当たる。

 手が一瞬だけゆるんだ。

 その隙に、私は逃げようとした。

 一歩、踏み出した瞬間。

 手が、首を掴み直した。

 今度は全力だった。

 ぎし、と音がした。

 首の骨が、鳴った。

 嫌な音だった。聞いたことのない種類の音だった。自分の体の中から、ごきり、と固いものが折れる感触。

 痛みより先に、視界が白くなった。

「あ——」

 それだけ出た。

 声にもならなかった。

 意識が一点に絞られて、次の瞬間にはもう、何もなかった。

 私は、また死んだ。

―――

 気づいたら、テープの中にいた。

 古い事務所に似た空間だった。でも家具の配置が少し違う。壁紙の色が違う。窓の位置が違う。

 カメラが一台、三脚の上に立っている。

 その前に、椅子が一脚。

 ぬいが肩の上にいた。

「生きとるか」

「死んでるだろ」

「そうじゃったな。すまん」

「謝るくらいなら止めてよ」

「止められんかった。すまん」

 二度謝った。珍しい。それだけ今回がまずいということだ。

 部屋を見渡す。出口が分からない。来た場所、つまり画面の方向も分からない。

「核コアは?」

「あのカメラじゃ」

 ぬいが言う。三脚の上のカメラを見る。レンズが、こちらを向いている。

「あのカメラが核なの?」

「視聴者の怨念が積み重なっとる。見られ続けた記録が、怪異になった。見る側を取り込もうとしている」

「見られすぎて怪異になったって……」

「配信というものは、恐ろしい」

 カメラに近づく。レンズの中に、映像が見えた。今の事務所が映っている。朔夜が護符を積み重ねながら何かをしているのが分かった。生きている方の世界だ。

 そして、カメラの横に何かが見えた。

 棚の隅に、古いノートが一冊。

 配信記録だった。

 日付と、視聴者数と、一言だけのメモが続いている。

 最後のページに、一行だけ書いてあった。

『誰かが見てくれている間は、ここにいられる』

「……」

 私は朔夜の声を思い出した。

『今夜も来てくれてありがとう。この場所が、どれだけ続くか分からないけど』

 テープに残っていた音声。

 誰かがここで配信していた。見られることで、ここにいられた誰かが。

「ぬい」

「なんじゃ」

「この部屋、知ってるって言ったじゃん。さっき」

 ぬいが少し間を置いた。

「……後で話す」

「後でじゃなくて今」

「今は無理じゃ。今はそれより——」

「——逃げろ!」

 カメラのレンズが、赤く光った。

 録画が始まった音がした。

 記録される。映される。取り込まれる。

「走れ!」

 カメラから離れた方向へ走った。ぬいが肩に爪を立てる。部屋の端まで走ったが、壁だった。窓がある。外は砂嵐だ。

 外じゃない。画面の方向を探す。

 奥だ。暗い方。

「あっちか!」

 カメラの赤いランプが、こちらを追って向きを変えた。三脚が、誰も動かしていないのに回転している。

「気持ち悪っ!!」

「走れ!」

 走った。暗い方へ。壁に手をついたら、そこだけ温度が違った。

「ここ!」

「そこが出口じゃ!」

 外から、朔夜の術式が届いた。

 "記録焼却"ログ・イレイズ。

 テープの記録が端から焼かれていく感触。部屋全体がぐらり、と揺れた。

 続いて、"位相固定"フェイズ・ロック。

 出口の壁が、光った。

「行けっ!」

 壁に飛び込んだ。

 体が、向こう側この世へ出た。

―――

 事務所の床に叩き出された。

 体がある。生身だ。

 でも首が痛い。骨が折れているかもしれない。というか、折れた音を聞いた。でも動いているということは、蘇生処理が入っているということだ。

「がっ……くそ……!」

 床に手をついて起き上がろうとしたら、背中から朔夜の手が入って引き起こされた。

「起きるな。まだ補修が終わってない」

「補修って.....」

「首の骨が折れてた。接合した。痛いのは当たり前だ」

 当たり前じゃない。当たり前に言うな。

「……死んだ?」

「死んだ。一回だ」

「VHSに首折られた……」

「そうだ」

「最悪すぎる死に方してる私……」

「毎回最悪だ」

 フォローになってない。でも今は突っ込む気力もなかった。

 VHSデッキを見た。画面は消えている。テープが出てきていた。朔夜が焼いたのか、端が少し黒くなっている。

「……ぬい」

「なんじゃ」

「さっきの部屋、知ってるって言ってたじゃん。後で話すって」

 ぬいが私の膝の上に降りてきた。しばらく黙っていた。

「……今は言えぬ」

「また今は言えぬ」

「すまんの」

 朔夜が、ぬいを見た。

「ぬいに聞け。テープの中の部屋を知っているか」

 ぬいは朔夜の目を一瞬だけ見て、そらした。

「……知っておる。でも今は言えぬ」

「なぜ」

「まだ、わしにも整理できておらんから」

 朔夜は何も言わなかった。

 でも、何かを確認した顔をしていた。

 私には分からない何かを、二人は知っている。あのテープの中の声も、あの部屋も、何か繋がっていて、朔夜もぬいも、まだそれを言わない。

 今夜はここまでだ、と思った。

 聞いても答えが返ってこない夜がある。この事務所には、そういう夜が多い。

―――

 朝が来た。

 ソファの上で目が覚めた。体が痛い。首が特に痛い。昨日骨が折れたから当然だ。

 事務所には誰もいなかった。

 朔夜はどこかに出かけているらしい。ぬいも見当たらない。

 机の上を見ると、二つの『もの』が並んで置いてあった。

 トーストが一枚。

 請求書が一枚。

 ゆらはしばらく両方を交互に見た。トースト。請求書。トースト。請求書。

 請求書を手に取る。

 蘇生費。深夜割増。護符消費三枚分。VHSデッキ修繕費(焼損につき実費)。

 合計、増えた。

「…………」

 くしゃっと握り潰した。

 (やっぱりアイツはクズだ。死ね。)

 トーストを一口かじった。うまかった。

 ぬいが窓の外から戻ってきて、私の横に降りた。

「起きたか」

「起きた」

「トーストは」

「うまい」

「じゃあよかったのう」

「よくない。請求書もある」

「そうじゃのう」

 ぬいは私の膝の上に転がって、短く息を吐いた。

「……昨日のテープの話、いつか話す。まだ整理できておらんが、いつか」

「うん」

「それまで待ってくれるか」

「待つよ」

 私は窓の外を見た。五月の朝だ。事務所の窓から見える景色は、どこにでもある街の朝だ。

 でも昨日の夜、このビルの奥の棚に、誰かがずっといた。見られることでここにいられた誰かが。その記録がテープになって、ずっとここにあった。

 まだ何も分からない。

 でも、いつか分かる日が来るんだと思った。

「帰る前に、借金の今の総額聞いていい?」

 朔夜から、レインが来た。

『帰ったら計算する。増えてる』

「知ってる」

 トーストの残りをかじって、ソファから立ち上がった。

 私の人生初めての異性とのお泊りは、こうして最悪な死に方デス・デートで終わったのだった。

*****

ゆら「配信っていうか、もう半分、業務報告だよね。――四十回。」

【後書き】

■ 登場キャラクター

影森かげもりゆら

VHSデッキの画面から手が出てきて首を折られた女子高生。今回の死に方は自分でも「最悪すぎる」と言っている。テープの中の部屋でカメラの核を確認し、朔夜の術式と連携して戻ってきた。朝のトーストはうまかったが請求書は握り潰した。

夜見よみ朔夜さくや

「出るな」と言った理由を最後まで「囮か守りか」どちらか答えなかった。テープの音声に一瞬だけ反応したが「知らない」と言い張った。朝のトーストと請求書を同時に置いて出かけた。性格は終わっている。

ぬい

「あの棚が温かい」と最初に気づいた。テープの中の部屋を「知っとる」と言いかけて「今は言えぬ」と引いた。54話への明確な伏線。朔夜にも同じことを聞かれて目をそらした。いつか話すと約束した。

■ 今回の話について

VHSアナログ怪異回です。テープの中に残っていたのは「視聴者に見られることでその場にいられた誰かの配信記録」が怪異化したもの、という構造にしました。見られることで存在できた記録が、今度は見た側を取り込もうとする、という反転が今回の核です。

死のシーンは首の骨が折れる音から意識消失まで、今回はっきり描きました。

また、ぬいが「この部屋を知っとる」と言いかけて引いた場面は、今後の伏線になりそうです。テープの音声・あの部屋・ぬいの出自が、後の話でつながります。

「少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!」

ジャンル・タグ

, , , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

勇者ヨシ君

勇者ヨシ君

愛知県安城市で「ギルド酒場るすと」というゲームバーをやりながら、小説を書いています。 レトロゲーム、ボードゲーム、シーシャ、酒場の空気感が好きです。 異世界×ゲーム×酒場の作品や、 ホラー×...

👥 フォロワー: 2人

作者ページを見る