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配信41回目 最悪の先輩が来た【前編】――知らない人が「朔夜くん」と呼んだ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/1 📚 シリーズ: 影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます 📝 3,349文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます - 配信41回目 最悪の先輩が来た【前編】――知らない人が「朔夜くん」と呼んだ

本文

事務所に、知らない男が来た。

 朔夜さくやが「先輩」と呼んだ。

 その瞬間から、空気がおかしくなった。

*****

 五月の昼下がり、事務所は平和だった。

 平和というのは「怪異が来ていない」という意味で、「朔夜の機嫌がいい」という意味では全然ない。少なくとも今日はまだ誰も死んでいないし、請求書も来ていない。それで十分だ。

 私はメールの返信を打ちながら缶コーヒーを飲んでいた。ぬいは冷蔵庫の上で丸くなって寝ている。朔夜はソファで端末を見ている。五月の光だけが窓から差し込む、静かな午後。

 そこに、ノックもなしに扉が開いた。

「よ、朔夜くん。久しぶり」

 聞いたことのない声だった。でも「朔夜くん」と呼んだ。

 そこには男が立っていた。三十代前半くらい。背は朔夜と同じくらいだが、纏まとっている空気がまるで違う。黒っぽい髪を無造作に流して、くたびれたジャケットを羽織っている。

 また、特徴的なのが――この男、表情が笑っている。ずっと笑っている。でも目の奥だけが、どこか遠くを見ていた。瞳は光を反射しているのに、何も映していない目。

 そして、見た目だけなら、朔夜と同等か好みによってはこの男のほうがいいという異 性もいるだろう。渋めのトレンディドラマの中年役が十分やれるルックスだ。

(ということは、朔夜と同じくこいつもクズなのかな)などと私が思いつつ

「……誰、この人」 と聞いた。

 私が呟くより先に、朔夜が端末から目を上げた。私が見たことのない種類の無表情になった。

「何しに来た」

「挨拶が終わってないじゃん」

 男は笑ったまま事務所に入ってきた。ノックなし、許可なし、遠慮なし。棚を一瞥いちべつして、機材を一瞥して、私を見た。目が合った。

「あー、いるじゃん。ちゃんと」

 その言い方が引っかかった。「いる」じゃなくて「ちゃんといる」だ。最初から私の存在を知っていた言い方だ。

「ゆらちゃん、でしょ。俺のこと知らないよね。初めまして、黒瀬くろせ夜刀やとだよ」

「……黒瀬、さん?」

「夜刀でいいよ」

 朔夜が立ち上がった。今まで見た中で一番速い立ち上がり方だった。

「おい、ゆらから離れろ」

「怖い怖い。挨拶しただけじゃん」と 夜刀と名乗った男は手を万歳のポーズにして言う。

「ゆら、こっちに来い」

「え、なに、なんで」

「いいから来い」

 私は缶コーヒーを持ったまま朔夜の近くに移動した。夜刀は笑ったまま、ソファに勝手に腰を下ろした。誰の事務所だと思っているの、この人――。

 冷蔵庫の上でぬいが目を開けた。夜刀を見て、片耳だけぴっと立てる。

「……なんじゃ、お前」

「久しぶりだね、ぬい。覚えてる?」

「……知っとる。けど、なんでここにおる」

「会いに来たんだよ。朔夜くんに。あとゆらちゃんにも、ちょっと、ね――」

 ぬいが私の肩に飛び降りてきた。普段より爪が食い込んでいる。

「ゆら。こいつとは、あまり話すな」

「なんで」

「聞くな。とにかく話すな」

 夜刀はおかしそうに笑った。

「ぬいまで怖い顔して。俺、そんなに警戒されること何かした?」

「した」と朔夜が言った。「"した"の一言で済む話じゃないが」

「うわ。俺、一応先輩なんだけど~~」

「先輩だからこそだ」

―――

 結局、その後も夜刀はしばらく帰らなかった。追い出そうとした朔夜と五分ほど応酬があったが、夜刀は笑いながら全部受け流して、最終的にソファに居座り続けた。

朔夜が「出ろ」と言うたびに「上からの確認もあるしね~」とかわす。その「上から」という一言が出るたびに、朔夜の眉間の皺しわが深くなった。

「あの、夜刀。朔夜とどういう関係なの」

「朔夜くんと俺は、まあ似たようなもの同士かな。同じ系譜けいふ、というか。俺の方が先にここに来てて、朔夜くんが後から来た感じ」

「ここ、って?」

「この街。もっと広くいうと、現世うつしよ全般」

 現世。その言い方が、普通の人間の言葉じゃなかった。

「配信、続けてるんだね。朔夜くんらしくない気もするけど」

「俺のやり方に口出しするな」

「してないしてない。むしろ感心してる。登録者を燃料にするって、効率いいじゃん。俺の頃はそんな仕組みなかったから」

「お前の頃のやり方の結果がどうなったか、覚えてるか」

 夜刀の笑顔が、一瞬だけ止まった。本当に一瞬だった。次の瞬間にはもう笑っていて、見間違いだったかもしれない。でも止まった。

「覚えてるよ」と夜刀は言った。「だから来たんじゃん」

―――

 昼が過ぎて、夕方になった。夜刀はまだいた。

 時々スマホを触り、時々棚を眺め、時々私の方を見る。その「時々私の方を見る」が、じわじわ気になってきた。

「なんで私のこと見てるの」

「見てないよ」

「見てた」

「気のせいじゃない?」

「気のせいじゃない」

 夜刀は少し笑って、今度はちゃんとこちらを向いた。

「ゆらちゃんってさ、死後側に入れるんだって? そういう子って、珍しいんだよね。入るだけじゃなくて、ちゃんと戻ってこれる子は特に」

「ゆらに話しかけるな」

 朔夜の声が、今日一番低かった。

「話してるだけじゃん」

「こいつ夜刀とは話すなと言ってる」

 夜刀は肩をすくめた。私はその二人のやり取りを見ながら、何かを掴みかけていた。朔夜が夜刀を嫌っている理由。単純な嫌悪じゃない。もっと別の何か。

「朔夜待って。夜刀、一個だけ聞いていい?」

「どうぞ」

「本当に何しに来たの。上からの確認だけ?」

 夜刀は少し間を置いた。

「半分はそれ。あと半分は……まあ、ゆらちゃんに会いたかったのかな」

「初対面なのに?」

「聞いてたから。よく残る子・・・・・がいるって」

 よく残る子・・・・・。その言い方を、私は前に聞いたことがある。蒐集しゅうしゅう商会の人間が使った言葉だ。

「……その言い方、蒐集商会の人と同じだ」

 夜刀の笑顔が、また一瞬止まった。

 今度は朔夜が動いた。夜刀と私の間に、す、と入る。

「今日はここまでだ」

「追い出す気?先輩を」

「そうだ」

「つれないなぁ」と夜刀は言いながら、ゆっくり立ち上がった。「まぁ、また来るし」

「二度と来るな」

「来るよ。上からの確認、まだ終わってないし」

 夜刀が扉に向かう。その背中を見ながら、私はぬいに囁ささやいた。

「ぬい、こいつ何者」

「……後で話す」

「今日二回目だよ、それ」

「後で話す、としか言えぬ」

 夜刀が扉の前で振り返った。人差し指を1本立てて、朔夜に向けながら。

「朔夜くん、一個だけ」

「なんだ」

「もうちょい、焦った方がいいよ。上は、もうゆらちゃんに値段つけてるから」

 朔夜が何も言わなかった。夜刀は笑ったまま出ていった。

 扉が閉まる。事務所が静かになった。

 私は朔夜の背中を見た。

「ねぇ……朔夜」

「なんだ」

「あの人、信用できる?」

「できない。するな」

「でも、嘘はついてない?」

 長い沈黙があった。

「……ついてない、と思う」

 その答えが、一番嫌だった。

 ぬいが私の肩でため息をついた。

「ふぅ……ゆら」

「うん」

「しばらく、朔夜のそばを離れるな」

「……夜刀から離れろってこと?」

「そういうことじゃな」

 私は閉まった扉を見た。また来る、と言った。本当に来ると思う。笑いながら、何でもないふりをして、また来る。

 それが一番怖かった。

*****

【後書き】

■ 登場キャラクター

影森かげもりゆら

知らない男に「ゆらちゃん」と呼ばれた。断る間もなかった。蒐集商会と同じ言い回しをされて、嫌な予感だけが先に来ている。

夜見よみ朔夜さくや

夜刀が来た瞬間に立ち上がった。ゆらと夜刀の間に入った。今日一番機嫌が悪かった。それ以上のことは言わない。

黒瀬くろせ夜刀やと

初登場。朔夜の先輩で、同じ系譜の存在。笑ってばかりいるが目が遠い。「上からの確認」を口実に来たが、本音の半分はゆらを見に来ることだった。「よく残る子」という言い方が蒐集商会と重なる。その理由は、まだ言わない。

朔夜と同じで超イケメン(イケオジの部類)。クズかどうかはまだわからない。

ぬい

夜刀を知っていた。「あまり話すな」と言った。「後で話す」と言ったまま話していない。

■ 今回の話について

帰還者・黒瀬夜刀の初登場回です。前編はコメディ寄りの温度で、夜刀のちょっかいと朔夜の機嫌最悪を軸に動かしました。夜刀が何者かはまだ明かしていませんが、「上からの確認」「よく残る子」「値段がついてる」の三点が不穏として残ります。後編では花嫁因子への言及と、朔夜が本気で怒る場面に入ります。

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作者について

勇者ヨシ君

勇者ヨシ君

愛知県安城市で「ギルド酒場るすと」というゲームバーをやりながら、小説を書いています。 レトロゲーム、ボードゲーム、シーシャ、酒場の空気感が好きです。 異世界×ゲーム×酒場の作品や、 ホラー×...

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