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配信42回目 最悪の先輩が来た【後編】――このままじゃダメだって、分かってるでしょ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/1 📚 シリーズ: 影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます 📝 3,243文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます - 配信42回目 最悪の先輩が来た【後編】――このままじゃダメだって、分かってるでしょ

本文

翌日、夜刀がまた来た。来るなと言ったのに。

 差し入れのコンビニ袋に、余計なものが付いてきた。

 朔夜さくやが、初めて本気で怒った。

*****

 翌日、夜刀やとは本当に来た。

「来るなって言ったぞ」

「来ないとは言ってないよ」

 朔夜が舌打ちした。私は「ほんとに来た……」と引いた。ぬいは無言で冷蔵庫の上に避難した。

 夜刀はコンビニの袋を机に置いた。中身はプリンが三つだった。

「仲直りの印」

「お前と仲違なかたがいした覚えがない」

「今、してるじゃん」

 朔夜は受け取らなかった。でもプリンを捨てもしなかった。

 ぬいが袋の方をじっと見ている。

「……ゆら」

「なに」

「その袋に触るな」

「は? なんで」

「なんかついとる」

 夜刀が「あー」と間延びした声を出した。

「そういえば来る途中、変な路地通ったんだよね。何か踏んだかも」

「何か踏んだかも、じゃない!」

 朔夜が袋を確認しようとした、その瞬間だった。

 袋の底から、白い靄もやみたいなものが床に滲にじんだ。私が気づいた時にはもう、足首に巻きついていた。

「っ、え」

 引かれる。下に。床の下に。

「影森!」

 朔夜の声が聞こえた。

 次の瞬間、視界が暗くなった。

 足首の感触が消えて、床が消えて、それで終わった。

 また、死んだ。

―――

 起き上がった時、床が冷たかった。

 朔夜が私の首元に二本指を当てていた。脈を確認する。一拍置いて、短く息を吐く。

「戻った」

「戻った、じゃない……っ」

「蘇生費は後で引く」

「えっ今それ言う!?大丈夫かとか言えないのアンタ!」

 夜刀が「ごめんごめん」と言いながら頭をかいていた。申し訳なさそうではあったが、笑顔は崩れていなかった。

「まじで踏んだだけだって。こっちも予想外」

「お前が来るたびに厄介事が増える」と朔夜が言った。「昨日と今日で二倍だ」

「でも戻ってきたじゃん」

「それはそうだが」

「……俺のところには、戻ってこれなかったから」

 その一言だけが、空気から浮いた。

 夜刀は笑ったままだったが、声だけが違った。

 朔夜が何も言わなかった。

―――

 昼前、朔夜に槙野まきのから電話が来た。別件の確認らしく、朔夜は「少し待て」と言って廊下へ出た。

 事務所に、私と夜刀が残った。

 ぬいが「行くでない」と小声で言ったが、さっきの一言がまだ頭に残っていて、私はソファから動けなかった。

 夜刀が机のプリンを一つ、私の前に押した。

「食べていいよ。俺のせいで死んだし」

「死なせといて、なんでプリンで解決しようとしてるの」

「それプリンしか解決手段がない」

「最悪すぎ……」

 でも手は伸びた。蓋を開けた。食べた。うまかった。まぁうまいよね。プリンだもの。甘いし。こういう時、自分ってなんて単純な女なんだろう――って思っちゃう。

 それから、 夜刀がテーブルの上をぼんやり見ながら言った。

「ゆらちゃんさ、死後側に入るたびに、少しずつ向こうに馴染なじんでいってるの、分かってる?」

「……馴染む、って」

「向こう側が、ゆらちゃんのことを覚えていってる。毎回入るたびに。最初は他人の顔だったのに、だんだん知り合いの顔になっていく。向こうの引力が、少しずつ強くなる」

「それって、まずいの」

「まずいかどうかは朔夜くんが一番知ってる。でも朔夜くんは、たぶんゆらちゃんには言わない」

「……なんで」

「言ったら、ゆらちゃんが怖がって離れるかもしれないから。それが嫌なのか、別の理由なのかは、俺には分からないけど」

 黙った。夜刀が続けた。

「俺はさ、一回、同じことをやったんだよね」

「……同じこと」

「大事な子が向こうに馴染んでいくのを、見てたんだ。止められると思ってた。最後まで」

 その声だけが、笑っていなかった。

 プリンのスプーンを置いた。

―――

 朔夜が戻ってきた瞬間、空気で分かったと思う。

 夜刀とゆらの間に流れていた温度が、まだ残っていたから。

「何を話した」

「世間話」と夜刀が言った。

「嘘をつくな」

 夜刀が立ち上がった。笑顔のまま、でも今日一番まっすぐ朔夜を見た。

「ゆらちゃんに言ってないんだね。向こう側に馴染んでいってること」

「お前には関係ない」

「関係あるよ。俺、同じことやったから」

「だから関係ない。お前の失敗と、俺のやり方は違う」

「本当に?」

 沈黙が落ちた。

 朔夜が動いた。夜刀の胸倉むなぐらを掴んだ。片手で、そのまま壁に押しつけてしまいそうな勢いがあった。術式でも護符でもない、ただの怒りで人に触れる朔夜を、私は初めて見た。

「二度と同じことを言うな」

 低い声だった。温度がなかった。

 夜刀は抵抗しなかった。掴まれたまま、朔夜を見ていた。

「……ごめん。それは言いすぎた」

 笑顔じゃなかった。初めて笑っていない夜刀の顔だった。

 朔夜が手を離した。

 少し間があって、夜刀がジャケットの襟えりを直した。そのまま、静かに続けた。

「でもさ、朔夜くん。このままじゃダメでしょ」

「……」

「上も見てるし、蒐集しゅうしゅうも動いてる。ゆらちゃんが向こうに馴染みきる前に、ちゃんと決めないと。俺みたいになってからじゃ遅いよ」

 朔夜が振り返らなかった。

「決める必要があるとすれば、俺が決める。お前じゃない」

「そうだね」と夜刀は言った。「そうであってほしいとは、思ってる」

 その一言だけは、本当のことに聞こえた。

―――

 夜刀が扉に向かった。今度こそ帰るらしい。

 扉を開ける直前、私の方を向いた。

「ゆらちゃん、一個だけ」

「なに」

「向こう側で、誰かに会ったことない? 静かな子に。足音のない」

 頭に、顔が浮かんだ。色素の薄い髪。白に近い肌。「また死んだの?」と言う、諦めと親切が同居した声。

「……会ったことある、かも」

「そっか」

 夜刀は何も聞かなかった。それだけ言って、扉を閉めた。

 足音が廊下を遠ざかっていく。

 事務所が静かになった。

 私は朔夜を見た。朔夜は扉を見ていた。夜刀が出ていった扉を、ずっと見ていた。

「……朔夜」

「なに」

「向こう側で会う、静かな子って」

「忘れろ」

「忘れられないよ」

 朔夜は答えなかった。

 ぬいが冷蔵庫の上から、小さな声で言った。

「……ゆら」

「うん」

「あの子に、また会ったら」

「うん」

「礼を言うといい。お前のために、動いてくれとる子じゃから」

 朔夜がぬいを見た。ぬいは目を逸らした。

 机の上のプリンを見た。三つあったのが、私が食べた一つ分だけ減っている。

 夜刀が信用できるかどうか、まだ分からない。でも嘘をついていないのも、たぶん本当だ。

 それが一番、扱いに困る。

 残ったプリンを朔夜の前に一つ押した。

「これ、食べる?」

「……蘇生費は引く」

「知ってた」

 やっぱりクズだ。でも受け取ったので、まあいい。あと、ちょっぴり今回、蘇生代が安かった。本人は認めないけど。

*****

【後書き】

■ 登場キャラクター

影森かげもりゆら

今回は夜刀が来る途中で踏んだ怪異の余波で死んだ。死因が「先輩の経由地」という終わった理由。蘇生後にプリンを食べた。向こう側の話を聞いて、笑えなくなった。

夜見よみ朔夜さくや

今回、術式でも護符でもなく、ただの怒りで夜刀の胸倉を掴んだ。それだけのことを言われた。手を離した後、「決めるのは俺だ」とだけ言った。プリンは受け取った。

黒瀬くろせ夜刀やと

胸倉を掴まれた時だけ笑顔が消えた。謝った。「このままじゃダメでしょ」という言葉だけは、脅しでも催促でもなく本当のことに聞こえた。去り際に玻璃はりを匂わせた。朔夜と同等かそれ以上のルックスだが、クズかどうかはまだ不明。

ぬい

「礼を言うといい。お前のために動いてくれとる子じゃから」と言った。玻璃とゆらの繋がりを知っている。それ以上は言わなかった。

玻璃(気配のみ)

名前は出ていないが、ゆらの頭の中に浮かんだ。足音のない、静かな子。

■ 今回の話について

帰還者・黒瀬夜刀の初登場後編です。冒頭に夜刀の経由地怪異でゆらが死ぬ場面を入れ、「俺には戻らなかったから」という夜刀の一言で玻璃の存在を遠く匂わせています。その後、花嫁因子の言及と朔夜が本気で怒る場面を軸に動かしました。夜刀が「このままじゃダメでしょ」と言った裏に何があるかは、今後明かされる予定です。

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作者について

勇者ヨシ君

勇者ヨシ君

愛知県安城市で「ギルド酒場るすと」というゲームバーをやりながら、小説を書いています。 レトロゲーム、ボードゲーム、シーシャ、酒場の空気感が好きです。 異世界×ゲーム×酒場の作品や、 ホラー×...

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