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ハチ公の故郷

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/28 📚 シリーズ: 終末世界90式の旅 📝 3,548文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう

本文

大館市街へ入ったころには、もう夕方の色が濃くなっていた。

雪はちらつく程度だったが、空は暗い。

日が落ちきる前に泊まれる場所を探す必要があった。

シオナは国道7号線沿いを、速度を落としたまま進んだ。放置車両はある。閉まった店舗も多い。だが、道路そのものは完全には塞がれていない。誰かが雪を寄せ、車を端に動かした跡がある。

サヤが車長ハッチ側から外を確認する。

「前方、ホテルっぽい建物。駐車場広い」

ミズホが地図を見る。

「国道沿い。市街中心に入りすぎない位置だね」

シオナはすぐに判断した。

「今日はここにしよう。暗くなる前に止まる」

90式はホテルの駐車場へゆっくり入った。

入口付近には雪が積もっていたが、駐車場の端には十分な余地がある。シオナは建物から見える位置に車体を停め、エンジンを切った。

静かになった瞬間、周囲の音が戻ってきた。

遠くの風。

雪を踏む三人の足音。

どこかで軋む看板の音。

ホテルは無人だった。

ロビーの自動ドアは動かない。電気は来ていない。

三人は手動で扉を開け、懐中電灯で中を照らした。

サヤが小声で言った。

「真っ暗」

ミズホは足元を照らす。

「でも荒らされてはいない。使えそう」

シオナはロビーを見回した。

フロントには古い宿泊案内。

観光パンフレットの棚。

大館市内の地図。

秋田犬の写真が表紙になった冊子。

その隣には「忠犬ハチ公のふるさと」と書かれたパンフレットが置かれていた。

その文字に、シオナの視線が一瞬だけ止まった。

だが、まずは宿泊場所の確認だった。

三人は低い階の部屋を選んだ。

窓から90式が見える。出入口にも近い。何かあればすぐ外に出られる。

電気はない。

暖房も動かない。

けれど、手持ちのランタンとライトで明かりは作れた。能代で補給したカイロもある。食事は持参した保存食と乾麺、缶詰でどうにかなる。

サヤは荷物を置きながら言った。

「電気なしホテルかあ」

ミズホが手早くランタンを置く。

「灯りはある。食べ物もある。布団もある。今日は十分」

シオナは窓から外を見た。

90式は雪の中で静かに停まっている。

秋田から能代、ふたつい、大館。今日はよく進めた。

「大浴場を確認してみよう」

サヤが顔を上げた。

「お風呂?」

「使えるかは分からない。でもホテルならボイラーが残っているかもしれない」

三人は浴場へ向かった。

大浴場は暗かった。

照明は使えない。脱衣所も冷えている。浴槽には湯は張られていない。

だがボイラー燃料がまだ残っていた。完全な管理状態ではないが、最低限なら使えそうだった。給水も細く生きている。

ミズホは慎重に確認した。

「大浴場全部を普通に使うのは無理。でも、浴槽に湯を貯めるだけならいけるかもしれない」

サヤの表情が少し明るくなる。

「今日もお湯がある?」

シオナはうなずいた。

「電気はないけど、燃料が生きてる。無理しない範囲で湯を張ろう」

時間はかかった。

照明は手持ちのライトだけ。

湯量も勢いよく出るわけではない。

だが、浴槽の底に少しずつ湯が溜まり、やがて三人が体を温められるくらいにはなった。

サヤは浴槽の縁に手を入れて、感心したように言った。

「あったかい」

ミズホが答える。

「ありがたいね。電気がなくても、燃料と水があればここまでできる」

シオナは湯気を見つめた。

「にしめはシャワー。ここは大浴場。場所によって残り方が違う」

「終末温泉めぐりみたいになってきたね」

サヤが言う。

ミズホがすぐ返した。

「目的は青森だよ」

「分かってる。でも、お湯は大事」

「それは否定しない」

三人は順番に体を洗い、湯船に入った。

暗い大浴場に、ランタンの光だけが揺れている。

窓の外は雪。

湯気が静かに上がる。

にかほの露天風呂のような開放感はない。

西目のようなシャワーだけの侘しさでもない。

ここは暗く、静かで、少し心細い。けれど湯は確かに温かかった。

サヤは肩まで沈んで息を吐いた。

「今日、大館まで来たんだね」

ミズホがうなずく。

「予定より順調だった。ふたついで道路がつながってるって確認できたのが大きい」

シオナは湯面を見ていた。

「沿岸に出なくてよかったと思う」

「うん」

ミズホは短く答えた。

「101号線に入っていたら、今どこで止まっていたか分からない」

サヤは少し黙ってから言った。

「ちゃんと道を選べるようになってきたよね。私たち」

シオナは小さく笑った。

「前は選ぶというより、進めそうな方に行ってた」

「今は止まれそうな方も見る」

ミズホが言った。

三人はしばらく湯に浸かっていた。

体が温まると、暗い浴場も怖くなくなった。

外の雪も、少し遠く感じた。

風呂から上がると、脱衣所は寒かった。三人は急いで体を拭き、乾いた服を着た。ドライヤーは使えない。髪はタオルでしっかり水気を取るしかない。

サヤは厚手の靴下を履きながら言った。

「今日も靴下が偉い」

ミズホは髪を拭きながら答えた。

「靴下とカイロは偉い」

シオナもネックウォーマーを整えながら言った。

「あとボイラー燃料」

「それも偉い」

部屋に戻ると、ランタンの明かりの下で夕食にした。

缶詰を開け、湯を沸かしてインスタント麺に注ぐ。温かいものがあるだけで、部屋の冷たさは少し和らいだ。

食後、ミズホは記録をつけた。

能代出発。

雪ちらつくが風なし。

道の駅ふたついで大館方面通行可を確認。

国道7号線を進み、夕方前に大館市中心部へ到達。

国道沿いホテルへ投宿。

電気なし。手持ち照明使用。

ボイラー燃料残存。大浴場に湯を貯め入浴可能。

サヤはロビーから持ってきたパンフレットをぱらぱらめくっていた。

「ねえ、大館って本当に秋田犬の町なんだね」

ミズホが顔を上げる。

「秋田犬は有名だね」

「これ、ハチ公のことも載ってる」

その言葉に、シオナの手が止まった。

サヤはパンフレットを広げた。

そこには秋田犬の写真と、忠犬ハチ公の由来が簡単に紹介されていた。大館がハチ公のふるさとであること。駅前や観光施設に関連する像や展示があること。人を待ち続けた犬として、多くの人に知られてきたこと。

ランタンの明かりが、紙面の犬の写真を照らしていた。

シオナは黙ってそれを見た。

サヤが気づく。

「シオナ?」

シオナは少し遅れて答えた。

「渋谷で見た」

「ハチ公?」

「うん」

その声は静かだった。

ミズホもペンを置いた。

シオナはゆっくり話し始めた。

「サヤと会う少し前。東京を抜けていた時、渋谷を通った」

サヤは黙った。

自分と出会う前のシオナの話を、あまり多くは聞いていなかった。

「山手線の高架をくぐったら、景色が変わってた。人の声はなくて、風がビルを抜ける音だけがしてた。スクランブル交差点は草に覆われていて、シカやタヌキや猫が通ってた」

ミズホは静かに聞いていた。

「ハチ公像の周りに、動物が集まってた。犬も猫もいて、像の足元を寝床にしてた。ツタが絡んで、森の守り神みたいだった」

ミズホはパンフレットの写真とシオナを交互に見た。

「渋谷が……そんな風に」

「うん」

シオナはランタンの光を見つめた。

「その時、思ったんだ。ずっと待っていたのかって」

誰を。

何を。

人をなのか。

街をなのか。

それとも、もう戻らない何かをなのか。

シオナ自身にも、はっきりとは分からなかった。

サヤは小さな声で言った。

「それで、大館がハチ公のふるさと」

「今、知った」

シオナはパンフレットに視線を落とした。

「ルートを決めた時は知らなかった。ただ、101号線は危ないから、7号線で大館に出ようって決めただけ」

ミズホは静かにうなずいた。

「その方がいいと思う。偶然つながった方が、たぶん本当っぽい」

サヤはパンフレットを丁寧に畳んだ。

「明日、見に行けるかな。ハチ公の像」

シオナはすぐには答えなかった。

窓の外では、雪がわずかに舞っている。

電気のないホテルの一室で、ランタンだけが小さく光っている。

渋谷のハチ公は、草と動物たちに囲まれていた。

大館のハチ公は、どんな姿で待っているのだろう。

「行けるなら」

シオナは言った。

「少しだけ、見に行きたい」

ミズホはノートに小さく書き足した。

大館。

ハチ公のふるさと。

明日、状況が許せば確認。

サヤは布団を敷きながら言った。

「東京で待ってた犬と、故郷の犬か」

ミズホが答える。

「同じ犬だけど、場所が違うと意味も変わるね」

シオナは窓の外を見た。

東京の谷底で、緑に包まれていた像。

秋田の雪の町で、これから会うかもしれない像。

終末の中で、ハチ公は二度現れる。

一度目は、人のいなくなった東京で。

二度目は、まだ人の手が残っているかもしれない故郷で。

その偶然が、シオナには少しだけ不思議だった。

大館の夜は静かだった。

電気はなく、街全体も暗い。

けれど部屋にはランタンの明かりがあり、湯で温まった体があり、畳まれたパンフレットがあった。

三人はその夜、ハチ公の故郷で眠った。

明日の朝、雪がひどくなければ、シオナはもう一つのハチ公像を見ることになる。

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人とAIによる共著作品発表のため団体という形のペンネームにしました。複数の世界を、ゆっくり旅する物語を書いていきます。ChatGPTことチャティを相棒としてストーリーの概要や場面についてを対話する形で...

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